台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

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第3章

必殺!モチコ大回転ッ!(前編)

「モチコ、準備はいい?」
「はいっ、大丈夫です!」

 嵐の夜空に浮かぶホウキの上。
 モチコとミライアは、巨大な雲のかたまりを正面に見据えていた。

 いまから、あの台風へ向かう。
 ミライアの身体を黄金色こがねいろのオーラが包むと、ホウキが一気に加速した。

 台風に近づくにつれ、だんだんと雨や風が強くなる。
 ……と思っていたが。

 それは間違いだった。

「おわぁっ!?」

 突然、ホウキがぐるんと横倒しになって、モチコは悲鳴をあげた。
 強烈な横風に襲われたのだ。

 すこし近づいた途端、いきなりの猛烈な嵐。
 途中の段階など全部すっ飛ばしてきた。
 シグナル5は、モチコの予想を完全に超えていた。

 ホウキが姿勢を立て直したところで、ようやくモチコは口を開く。

「これは……。す、すごいですね」
「シグナル5以上になると、やっぱり違うね」

 さすがに強い台風だ。
 バチバチと雨が身体を打つ音がうるさく、目を開けていられないほどの強風が、不規則に方向を変えながら吹きつけてくる。

 まだ台風まですこし距離があるが、まっすぐ飛ぶだけでも難しい。
 いくつもの大きな雨雲を突き抜けながら、台風へと向かう。
 もはや、雲を避ける余裕などない。

「台風は、どこだ……?」

 モチコは、台風を見逃すまいと、雲のなかで目を凝らした。
 迫り来る脅威に、呼吸が浅くなる。
 雲のなかにいても、この先に、何かとてつもなく巨大なものがあるということが、全身の感覚でわかる。

 狂ったように視界を掻き回す雲の濁流、轟々ごうごうと襲い来る暴風の音、容赦なく身体に打ちつける雨粒の痛み。
 そして、ツンと鼻を刺すような青臭い匂い――。
 本能で背中がぞわりと震えた。

「雲から出るよ!」

 ミライアが叫んだ直後、ホウキは大きな雲から脱出した。
 台風を探そうとするモチコの目に入ったのは。

 いちめんの、白。

「え、白?」

 それが何かを理解できないうちに、爆音が耳を襲った。

――バゴォォォン!

 思わずうっ、とうめき声を上げ、顔をしかめる。
 激しく振動するホウキのまわりに、青臭く、何かが焦げたような匂いが広がった。

「カミナリ……!」

 これはヤバイ。
 眩んだ目をなんとか回復させようと、モチコは何度もまばたきをする。

 戻り始めた視界に、巨大な台風が映った。
 その内部では、無数のカミナリが激しく明滅し、近づく者を拒んでいる。

「いつもみたいに近づくのは難しい! すこし遠いけど、ここで撃つよ!」
「わかりました!」
「1発で決めようと思わなくていい! まずは1発だ!」

 モチコは胸ポケットからスクロールを取り出し、しっかりと握りしめる。

 台風を見ようとするが、揺れに揺れるホウキの上では、同じ方向を向いているだけでも大変だった。
 それでもミライアは、嵐さえも切り裂く猛スピードでホウキを進ませる。

「3ッ!」

 ミライアのカウントダウンが聞こえた。
 いつもに比べると、台風までだいぶ距離がある。
 モチコはスクロールを握った腕を台風の方向へ伸ばし、できるかぎり姿勢を固定した。

「2!」

 モチコの身体を緑色のオーラが包む。
 練ったオーラをスクロールに流し込んでいく。
 揺れるホウキの上でも、暴発しないよう、なるべく一定に。

「1……ぐっ!」

 発射直前、というところで、横から何かが当たったような衝撃を感じた。
 大きいものが飛んできたのかと思ったが、ものすごく強い風のかたまりが吹いただけらしい。

 その衝撃に耐えきれなかったホウキが、ぐるりと横に一回転した。
 回転する景色のなか、それでもモチコは台風の方向を見極め、スクロールを放つ。

「――えいっ!」

 ばすん、と音がして、光の矢が台風に向かって行く。
 着弾を見届ける前に、ホウキが急旋回した。

 ほとんど台風の風に弾き飛ばされるような恰好で、ホウキが台風から離れていく。

 少し遠くでスクロールが炸裂する音が聞こえた。
 1発目は無事に決まったようだ。

 そのあと、ホウキは風がすこし弱まるところまで退避した。
 そこでようやく、今まで飛ぶのに集中していたミライアが口を開く。

「モチコ、1発目は上出来だね! 2発目はもっと近づきたいけど、さすがに厳しいか……」

 1発目は狙い通りに決まったものの、遠くから撃ったため、効果は限定的だった。
 モチコはすこし悩んだあと、かねてから考えていた提案を口にする。

「私が回転しながら撃つのはどうでしょう?」
「回転しながら?」
「はい。ジャイロ効果といって、独楽コマとか風車みたいに高速で回転すると、姿勢が安定するそうです」
「なるほど。それで強風を突破するわけか。普通は回転しながらなんて撃てないけど――」
「私なら、撃てると思います」

 ホウキを高速で回転させ続ければ、独楽のように姿勢が安定して、強風の中でもまっすぐ飛べるはず。

 モチコは魔法は使えないけれど、回転していても景色を見分けることが出来た。
 不得意があっても、得意なことでカバーする。
 朝番の見学で学ばせてもらったことだ。

「よし、モチコ。その案でいこう」
「では、落ちないようにお互いの身体を紐で結びますね」
「おお、準備がいいね」
「実は練習しようと思って紐を持ってきたんです。いきなり本番になっちゃいましたけど」

 モチコは持ってきた紐で、お互いの身体を結んだ。
 これで回転中に両手を離しても、ホウキから落ちずに済む。
 回転するなかでスクロールを撃つには、両手でしっかり握る必要があるだろうから。

「じゃあ、行くよ。準備はいい?」
「はい。お願いします」

 ミライアがオーラを練ると、ホウキは加速してふたたび台風へと向かう。
 すぐに猛烈な雨風が襲ってきて、ホウキが大きく揺さぶられた。
 バッチバッチと雨が身体に刺さるように当たる。

「ここから全力で高速回転するよ! モチコを振り落とさないようにコントロールできるのは、30秒が限界だから!」
「はい!」
「モチコ、怖くない?」
「大丈夫です。先輩を、信じます」

 モチコは両手をミライアの身体から離した。

(後編へ続く)
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