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第3章
真夜中のディスアームド。(中編)
「先輩、どうぞ。ようこそ我が家へ」
「おお、いい感じ」
木製の家具で揃えられた、ナチュラルな雰囲気の部屋。
キッチンのついたリビングと、小さいベッドルームの2部屋に仕切られているが、あいだにドアは無い。
こじんまりとしているが、シンプルで居心地のいい空間だ。
天井には紐が掛かっていて、たくさんのドライフラワーが吊り下げられていた。
「先輩、荷物はそこのテーブルに置いてください。私は食器を準備しますので」
「オーケー。じゃあ買ったものを並べておくよ」
モチコは食器の準備をしつつ、忘れないうちに花瓶の水替えもしておく。
テーブルの上には青いキキョウ。
キッチンには青いデルフィニウム。
窓際にあるブルースターの鉢植えにも水をやっていると、ミライアが言う。
「青い花が好きなんだね。すごく、モチコっぽい部屋」
「ふふ、そうですかね」
テーブルの上に食べものと食器が揃うと、ふたりは席に着いた。
買ってきた清酒を、小さいグラスに注ぐ。
お互いの分が注ぎ終わると、ミライアがグラスを掲げた。
「モチコと出会えたことに――。乾杯」
「え!?」
かちん、とグラスが当たる音が響く。
モチコの持っていたグラスに、ミライアが押し当てたような乾杯だった。
「モチコ大回転の成功祝いじゃなかったんですか?」
「ん? それもあるけど」
ミライアはグラスのなかのお酒をくいっと、ひとくちで飲み干して続ける。
「乾杯は、その瞬間にいちばん強く想っていることでするべき」
「いちばん強く……」
「モチコに、会えてよかった」
……先輩は、突然こういうことを言うから油断ならない。
モチコは思いつかない返事の代わりに、グラスのお酒をくいっと飲み干した。
お互いのグラスにお酒を注ぎなおす。
食事はおいしかった。
コロッケも、冷やしキュウリも、じゃがバターも、たこ焼きも全部。
清酒は思いのほかフルーティーで飲みやすい味だった。
酒が美味ければ食事が進む。食事が美味しければ酒が進む。
酒が進めば、会話もはずむ。
モチコは朝番を見学したときの話や、3人でお出かけしたときの話なんかを、たくさん話した。
ミライアはずっと楽しそうに、ときおり相槌を打ちながら聞いている。
「先輩って、お酒強いんですか?」
「ん? 普通だよ」
平気な顔をして、普通とか言う人間は信用ならない。
実際はかなり強そうだ。
気がつけばお酒のビンが半分くらい空になっている。
おそらくミライアは、モチコの倍以上のペースで飲んでいるはずだった。
「ふふふ、今日は先輩を酔わせちゃいますよ」
「だめだめ。お酒は無理してたくさん飲むものじゃあないよ」
「じゃあ、無理しないで、たくさん飲みましょう」
上機嫌なモチコは、そんなことを言いながら、お互いのグラスにお酒を注ぐ。
今日のモチコ大回転は大成功だったな。
あれが私のスペシャル。これで少しはアルビレオとして、先輩の役に立てたかもしれない。
お酒が進む。
本当に飲みやすくておいしいお酒だ。
冷やしキュウリにも、コロッケにも合う。美味しい、美味しい。
――そして、どれくらいの時間が経っただろう。
食べものは残さず食べきり、お酒のビンも空になった。
別にたくさん飲もうとした訳ではないが、普通においしくて飲みすぎたかもしれない。
酔いが回ってきたモチコに比べて、倍以上は飲んでいるはずのミライアは全く変わらない様子だった。
やっぱり強いじゃん。
「……んにゃ。しぇ、先輩。デザート、出しますね」
酔ったモチコは、呂律が回らず、立ち上がるのも難しい状態だった。
「モチコ、ちょっと休んだ方が良さそうだね」
「にゅ? ま、まだデザート、残ってるのに?」
ミライアは笑いながらモチコを抱き抱えて、ベッドまで運んだ。
リビングの隣にある部屋に、小さなベッドがある。
ベッドに寝かされたモチコ。
そこで、服を着替えていないことに気づいた。
「あ、服……」
「おっと、危ない」
着替えようと上半身を起こしたモチコがふらふらと揺れた。
それを支えようと、ミライアが手を差し伸べる。
そのとき、ふらついたモチコの手が、思わずミライアのスカーフの先を掴んだ。
「あっ――」
どさり、と音がして、引っ張られたミライアがモチコに覆い被さるように倒れ込む。
まるでモチコが、ミライアを強引にベッドへ誘ったみたいだった。
「モチコ、大胆だね」
「す、すみません」
「服は、今日はこのままでいいかな? 私に脱がされたいようだったら、やるけど」
「う……」
酔っていて思考がまとまらない。
だから。
いつもなら絶対選ばないほうの答えを、選択した。
「じゃあ、お願い、します」
しばしの静寂。
ミライアが口に手を当てたまま、無言になる。
ふいに、その手をモチコのほうに伸ばした。
お酒のせいですでに速かったモチコの鼓動が、さらに速くなる。
「じゃあ、今日の実験、しようか」
実験……。裸で抱き合うってやつかな。
いま脱がされちゃったら、秘密のペンダントもばれるかな。
考えているあいだに、ミライアの手が、モチコに近づく。
そして、モチコの身体に、触れる――。
「いてっ」
指が、モチコのおでこをデコピンで軽く叩いた。
「モチコ、酔うと面白いね」
(後編へ続く)
「おお、いい感じ」
木製の家具で揃えられた、ナチュラルな雰囲気の部屋。
キッチンのついたリビングと、小さいベッドルームの2部屋に仕切られているが、あいだにドアは無い。
こじんまりとしているが、シンプルで居心地のいい空間だ。
天井には紐が掛かっていて、たくさんのドライフラワーが吊り下げられていた。
「先輩、荷物はそこのテーブルに置いてください。私は食器を準備しますので」
「オーケー。じゃあ買ったものを並べておくよ」
モチコは食器の準備をしつつ、忘れないうちに花瓶の水替えもしておく。
テーブルの上には青いキキョウ。
キッチンには青いデルフィニウム。
窓際にあるブルースターの鉢植えにも水をやっていると、ミライアが言う。
「青い花が好きなんだね。すごく、モチコっぽい部屋」
「ふふ、そうですかね」
テーブルの上に食べものと食器が揃うと、ふたりは席に着いた。
買ってきた清酒を、小さいグラスに注ぐ。
お互いの分が注ぎ終わると、ミライアがグラスを掲げた。
「モチコと出会えたことに――。乾杯」
「え!?」
かちん、とグラスが当たる音が響く。
モチコの持っていたグラスに、ミライアが押し当てたような乾杯だった。
「モチコ大回転の成功祝いじゃなかったんですか?」
「ん? それもあるけど」
ミライアはグラスのなかのお酒をくいっと、ひとくちで飲み干して続ける。
「乾杯は、その瞬間にいちばん強く想っていることでするべき」
「いちばん強く……」
「モチコに、会えてよかった」
……先輩は、突然こういうことを言うから油断ならない。
モチコは思いつかない返事の代わりに、グラスのお酒をくいっと飲み干した。
お互いのグラスにお酒を注ぎなおす。
食事はおいしかった。
コロッケも、冷やしキュウリも、じゃがバターも、たこ焼きも全部。
清酒は思いのほかフルーティーで飲みやすい味だった。
酒が美味ければ食事が進む。食事が美味しければ酒が進む。
酒が進めば、会話もはずむ。
モチコは朝番を見学したときの話や、3人でお出かけしたときの話なんかを、たくさん話した。
ミライアはずっと楽しそうに、ときおり相槌を打ちながら聞いている。
「先輩って、お酒強いんですか?」
「ん? 普通だよ」
平気な顔をして、普通とか言う人間は信用ならない。
実際はかなり強そうだ。
気がつけばお酒のビンが半分くらい空になっている。
おそらくミライアは、モチコの倍以上のペースで飲んでいるはずだった。
「ふふふ、今日は先輩を酔わせちゃいますよ」
「だめだめ。お酒は無理してたくさん飲むものじゃあないよ」
「じゃあ、無理しないで、たくさん飲みましょう」
上機嫌なモチコは、そんなことを言いながら、お互いのグラスにお酒を注ぐ。
今日のモチコ大回転は大成功だったな。
あれが私のスペシャル。これで少しはアルビレオとして、先輩の役に立てたかもしれない。
お酒が進む。
本当に飲みやすくておいしいお酒だ。
冷やしキュウリにも、コロッケにも合う。美味しい、美味しい。
――そして、どれくらいの時間が経っただろう。
食べものは残さず食べきり、お酒のビンも空になった。
別にたくさん飲もうとした訳ではないが、普通においしくて飲みすぎたかもしれない。
酔いが回ってきたモチコに比べて、倍以上は飲んでいるはずのミライアは全く変わらない様子だった。
やっぱり強いじゃん。
「……んにゃ。しぇ、先輩。デザート、出しますね」
酔ったモチコは、呂律が回らず、立ち上がるのも難しい状態だった。
「モチコ、ちょっと休んだ方が良さそうだね」
「にゅ? ま、まだデザート、残ってるのに?」
ミライアは笑いながらモチコを抱き抱えて、ベッドまで運んだ。
リビングの隣にある部屋に、小さなベッドがある。
ベッドに寝かされたモチコ。
そこで、服を着替えていないことに気づいた。
「あ、服……」
「おっと、危ない」
着替えようと上半身を起こしたモチコがふらふらと揺れた。
それを支えようと、ミライアが手を差し伸べる。
そのとき、ふらついたモチコの手が、思わずミライアのスカーフの先を掴んだ。
「あっ――」
どさり、と音がして、引っ張られたミライアがモチコに覆い被さるように倒れ込む。
まるでモチコが、ミライアを強引にベッドへ誘ったみたいだった。
「モチコ、大胆だね」
「す、すみません」
「服は、今日はこのままでいいかな? 私に脱がされたいようだったら、やるけど」
「う……」
酔っていて思考がまとまらない。
だから。
いつもなら絶対選ばないほうの答えを、選択した。
「じゃあ、お願い、します」
しばしの静寂。
ミライアが口に手を当てたまま、無言になる。
ふいに、その手をモチコのほうに伸ばした。
お酒のせいですでに速かったモチコの鼓動が、さらに速くなる。
「じゃあ、今日の実験、しようか」
実験……。裸で抱き合うってやつかな。
いま脱がされちゃったら、秘密のペンダントもばれるかな。
考えているあいだに、ミライアの手が、モチコに近づく。
そして、モチコの身体に、触れる――。
「いてっ」
指が、モチコのおでこをデコピンで軽く叩いた。
「モチコ、酔うと面白いね」
(後編へ続く)
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