台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

文字の大きさ
67 / 83
第4章

ぬるくて痛い雨、そして(前編)

 世のなか、良いことばかりは続かない。
 そして、悪いことばかりが続くこともある。

 タワーへと出勤する途中。
 モチコは魔導トロッコを降りて、中央街の通りを歩いていた。
 今夜は先輩に何の食事を作ろうか考えていると、ふいに声をかけられる。

「あれ? カザミモリさん、だよね?」

 声の主を見ると、魔法学校時代の同級生だった。
 クラスメイトではあったけれど、特別に仲が良い訳でもないくらいの。

 まあ、学生時代のモチコは、ランラン以外に友達はいなかったわけだが。

「はい。お久しぶりです」
「卒業して以来だよね? カザミモリさん、変わってないからすぐ分かったよ」

 それはモチコが変わらず地味で無表情ということだろうか。
 いや、勝手にひねくれた考え方をしてはいけない。この子に他意はなさそうだ。

 学生時代から、表裏のないさっぱりした感じの子だったと思う。
 たしか水属性の魔法使いで、卒業後は医療関係の魔法士として就職したんじゃなかったっけ。

「カザミモリさん、今はどこで働いてるの?」
「今日は、シグナスに……」

 久しぶりに会った知人と交わす、他愛もない会話。
 だが、彼女が放った次の言葉に、モチコは身体を固くせずにはいられなかった。

「シグナス? カザミモリさん、魔法が使えるようになったんだ。よかったね!」
「あ……いや、えっと……」

 表裏のない、まっすぐな祝福の言葉だっただけに、モチコには鋭く突き刺さった。

「魔法は使えないんだけど……その……」

 うまく答えることが出来ない。

「え? 魔法が使えないのに、シグナスで何してるの?」
「うぐっ」

 自分の立場をあらためて思い知る。

 未だに魔法が使えない。それは事実だ。
 それなのにシグナスに居させてもらっている。

 ただ運よく、みんなの優しさに甘えさせてもらっているだけ。

 そのあとなんて返事をしたか、よく覚えていない。
 お手伝いをしてます、とか、適当に答えてぎこちなく別れたと思う。

 なんとか気持ちを切り替ようと、重い足を無理やり持ち上げて小走りでタワーへと向かった。
 思えばこのあたりから、悪いことが続いていく。



 今夜の任務は、昨日までのモチコなら楽勝なミッションなはずだった。
 だけど、大失敗した。

 日付が変わる頃にシグナル3の台風が来て、モチコがアタックすることに。
 モチコ大回転をするほどの台風ではないので、普通にスクロールを撃てば問題ない。

 だが、撃とうとしたとき、元同級生の子から言われた言葉を思い出した。
 集中できずにスクロールを2枚も暴発させてしまった。

 それでも一応シグナル2まで落とせたが、前回の大成功からの失敗なだけに、モチコはかなり落ち込んだ。

「モチコ、そんなに落ち込むことないよ。こういう日もあるって」
「はい……」
「今日は、まっすぐ帰ってゆっくりしよう」

 しょんぼりするモチコに、ミライアは励ましの声をかける。
 今日は実験をせずにタワーへ帰ることにしてくれた。

 ほどなくしてタワーへ戻ると、いつも以上に疲労を感じていた。
 テーブルでうたた寝をしていたら、夢を見た。


 ――みじかい夢。また、いつもの夢だ。

 魔法学校の定期試験が始まり、クラスメイトが1人ずつ先生の前に呼ばれる。
 みな合格していくなか、モチコの順番が来る。

 深呼吸をして、何度もトライする。
 魔法は発動しない。
 呼吸が浅くなり、全身に嫌な汗がにじむ。

 先生やクラスメイトが、みな失望した様子で去っていく。
 今日出会った、元同級生の顔もあった。

「君には才能が無い」

 誰かが言った言葉が、反響してどんどん大きくなる。
 モチコが最も嫌いな言葉。

 もうすぐ目が覚めるはずだと分かっていても、つめたい汗が止まらない。

 先輩が立っているのが見えた。
 振り返った先輩の、口元が動く。

「モチコには才能が――」
 
 その先は――。

 聞きたくない!!

 モチコは夢の中で、全身全霊の力を込めて叫ぼうとした。
 声にならない絶叫。



 ――そこで、目が覚めた。

「モチコ、大丈夫?」

 先輩の声がした。
 現実の先輩の、凛としたやさしい声。

 気づくと握りしめていた手が汗でぐっしょりだった。手だけでなく、額からも汗が流れている。

「うなされてたから、悪いけど起こさせてもらったよ」
「ああ……。すみません。ありがとうございます」

 ふう、と大きくため息をついて、時計を見る。
 もう夜が明ける時間だった。帰りの準備をしなくては。

「シャワーを浴びてくるから、少し待ってて」
「はい。そしたら、先に屋上で待ってます」

 シャワーを浴びる先輩を待つあいだに、モチコは先に私服に着替えて屋上展望台フライトデッキへ向かう。
 少し風に当たろうと思ったからだ。

 屋上に出ると、台風は通り過ぎていたが、まだ少し雨が降っていた。
 一部分だけ屋根が付いている場所があるので、そこにいれば身体が濡れることは無い。

 夜明け前のうす暗い空を見ながら、ぼんやりと考える。

 悪いことが続くなあ。
 これ以上、悪いことが続いたら、しばらく立ち直れなさそうだ。
 帰りに虹の女神さまにお参りでもした方がいいだろうか。

 そんなことを考えていたとき、ふと気づいた。

「……あ、更衣室にペンダントを忘れてきた」

(後編に続く)
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。 そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。 夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。 それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになるのでご安心ください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。