台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

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第4章

脳は夜ふかし、眠れよ乙女(前編)

 あれから先輩は6回うちに来た。
 先輩のノックは、リズムが特徴的だからすぐわかる。

 モチコがシグナスを飛び出して自宅にこもり、もう3日。
 そのあいだ、モチコはひたすらに居留守を決め込んだ。

 毎回先輩があきらめて帰ったあと、しばらくしてからドアを開けてみると、ドアの脇に差し入れの食べものが置かれていた。
 ほとんど食欲は無かったが、それを少しだけ食べて過ごした。

 この数日間は、ほとんど何も考えられなかった。
 最初は熱のせいだと思っていたが、熱が下がってからも、うまく頭が働かない。

 部屋のカーテンを閉めきり、いまが何時なのかも分からないまま、ほとんどの時間をベッドの上で横になっていた。
 それでも、働かない頭にたくさんの時間を与えることで、すこしずつでも考える。

 その結果、先輩に謝ろうと思った。

 たぶん、あのときの先輩の言葉も、何かの勘違いなのだろう、ということも分かっていた。

 だが、たとえ先輩がそう思っていなくても、私に魔法の才能が無いという事実に変わりはない。
 才能が無い自分が先輩の相方でいても、迷惑であることは間違いないのだ。


「……結局、私に出来ることなんて、これだけ」

 モチコは両手の手のひらを上にして、オーラを練る。
 手のひらから緑色の泡のようなオーラが立ちのぼった。

 それは、無数の小さなシャボン玉になって、暗い部屋の中をゆっくり、ふわふわと浮かび上がっていく。

 学生時代に必死で練習した、ただひとつモチコが出来ること。

 暗い部屋の中でも、わずかな光を反射したシャボン玉は、かすかに輝いてきれいだった。

 先輩と過ごした日々みたいだ。
 その光景をぼんやりと見つめる。

 でも、そんなシャボン玉も、天井ちかくまで上ると、音もなく砕けて消えてしまった。
 きれいな輝きはすべて消え、ふたたび暗い部屋に戻る。

 結局最後は、こうなるのだ。
 だから、シグナスを辞めるという決意は変わらなかった。

 胸に隠していたペンダントを取り出して握りしめる。
 暗いベッドの上で、その凛とした赤だけが、静かに輝いて見えた。


 コン、と音がした。

 ドアを叩く音のようだ。
 不審に思って時計を見ると、真夜中だった。

 こんな時間に?
 先輩のノックの仕方とは違う。いったい誰だろう。

 コン、コン、コン、と今度は3回ノック音がした。

 誰かが訪ねて来ているのは間違いないらしい。
 だが、こんな真夜中に来るのは真っ当な奴じゃない。

 最近、街のマフィアが活発になっているとニュースで聞いた。
 強盗かもしれない。

 息をひそめていると、いったん静かになった。

 が、次の瞬間、玄関とは反対側にある壁が、ガタガタと音を立てる。
 キッチンの横にある勝手口のドアが、激しく揺すられていた。

 勝手口のドアには、上の方に小さいガラス窓がある。
 そこから誰かが中を覗いていた。

 怖い!

 やがて、ドアを揺する音が止んだ。
 すると今度は、ガチャガチャとガラス窓を外そうとする音が聞こえてくる。
 やろうと思えば、窓は簡単に割られてしまう。

 ばごん、と音がして、ガラス窓が枠ごと外れ、部屋の内側に落下した。
 床に落ちたガラスが割れる、ガチャン、という音が暗い部屋に響く。

 ど、ど、どうしよう……!

 マフィアによる強盗は、金目当てのときも、身体目当てのときもあるらしい。
 奴隷として海外に売られることも。

 心臓が激しく収縮し、息をひそめようとしても、はあはあと呼吸の音が漏れてしまう。
 何か近くに武器になるものが無いか探したが、何もなかった。

 手が震える。

 ベッドの上でブランケットを握りしめ、ガラス窓の無くなったドアの方を見る。

 ずるり、とドアに空いた穴から何かが部屋のなかに入ってきた。
 暗くて影しか見えない。

 その影は、ぬるりと穴を通り抜けると、べちゃっ、と奇妙な音を立てて床に落下した。

 ――ひぃぃっ!

 モチコは声には出さずに悲鳴をあげる。

 影が立ち上がり、暗闇に光る瞳が見えた。
 こちらに気づいて近づいてくる。

 ……ああ、これはみんなに迷惑をかけ、先輩を傷つけた罰なのかもしれない。
 モチコが恐怖のあまり目をつぶった、そのとき――。

「ぃやあ、こんばんわぁ」

(後編へ続く)
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