キョリとリセイ~恋人は愛の香り~

国府春学

文字の大きさ
14 / 48

フェータル

しおりを挟む
 主人が慌ただしくドアを開けて入ってきたのを、ヴェルロッドは驚いた様子で出迎える。
「どうしたんですか、今日は」
「あぁ…ヴェルロッド、大丈夫? 何か変わったことない?」
「特にありません。シェスリタ様が、ご気分がすぐれないからとお部屋から出ていらっしゃらない以外は」
「そっか…」
 ルートリヤは平静を装った。
 シェスリタはひとまず、屋敷にとどまってくれているらしい。
 傷は完治していないとはいえ、出ていこうと思えばできなくはないだろうが、疲労で動けないのかもしれない。

「ところでルートリヤ様、なぜマスクを?」
「あ…これ? 何でもない。ちょっとね」
 ルートリヤはそれ以上説明せずに自室に向かった。
 どうやら誰も、フェータルヒュームの影響を受けていないらしい。



「おはよう、来たよ。約束どおり」
 翌日の早朝、ユシカが訪ねてきた。
「シェスリタの様子はどう?」
 小声で尋ねられて、シェスリタは首を振る。
 昨日から姿を見ていない。
「一緒に行こうか」
 マスクをして、ユシカが言う。ルートリヤはうなずいて、彼の後に従った。

「シェスリタ? 往診に来たよ」
 ユシカは声をかけて、あっさりとドアを押し開ける。
 次の瞬間、マスクを取ってあろうことか深呼吸をした。
「傷は大丈夫?」
 部屋に入り、カーテンを開けて、ベッドに歩み寄る。
 ルートリヤはドアのそばに立ってそっと伺っていた。

「先生……」
 シェスリタは蒼白な顔を上げる。
 ルートリヤがいることには気づいていないようだ。
「具合はどう?」
 シェスリタは首を振る。
「最悪の出来事があって、気持ちが整理できない」
「最悪……?」
「先生は、俺が第九部隊に異動になった理由を、聞かされていないか」
「聞いてないね」
「俺の身体は……普通じゃないんです。そのことを第七部隊の隊長に知られて、いろいろあった。
 あなたが医師だから話す。俺は、ルナシェウスの末裔なんだ」
「……そうか。ルナシェウスについては、文献で読んで知ってるよ。フェータルヒュームについても」
「なら話が早い。俺のその特異体質のせいで、ルートリヤがおかしくなってしまって……
この二日、どうしようもなかった。フェータルヒュームが暴走してるらしくて…職務に復帰することも、この部屋から出ることもできない」
 シェスリタは白い手で顔を覆った。
「君のまわりの人が、フェータルヒュームにやられてしまうかもしれないってこと?
 それなら心配ないよ。現に僕はマスクを取っても何の影響も受けていない」
「治まった、ということか?」「
「いや。たぶん、その力は、君に恋愛感情を持っている相手にしか効かないんじゃないのか?」

 その言葉に、身を潜めていたルートリヤはびくっとした。
 まだ一度も彼に気持ちを伝えていない。
 告白する前に、ひどいことをしてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】護衛騎士の忠誠は皇子への揺るぎない溺愛

卯藤ローレン
BL
――『皇帝の怒りを買い、私邸に幽閉された』という仄暗い噂を持つ皇子に会ったら、あまりにも清らかな人でした―― この物語の舞台は、とある大陸の最西端に位置する国、ファンデミア皇国。近衛騎士団に転属となったブラッドリーは、第四皇子の護衛騎士に任命された。実際に会ったその人は、とっても気さくでとってもマイペース、意外とちょっとやんちゃ。そして、市民から『英雄』と称され絶大に慕われていた。それは奇病――皇子が生まれながらに有している奇跡の力で、密かに国を救っているからだった。しかしその力は、多方面からめちゃくちゃに命を狙われる原因にもなっていて……。皇子に向く刃、ブラッドリーはその全てから身を挺して主人を護る。 襲撃されて、愛を自覚して、筋トレして、愛を育んで、また襲撃されて。 たったひとりの愛しい皇子を、護衛騎士は護って護って護り抜く。 主従関係の上に咲く激重な溺愛を、やかましい使用人ズと共に、しっとりめなラブコメでお送りします。 ◇筋肉バカつよつよ年下騎士×マイペース花咲く年上皇子 ◇21日からは12時と18時の2回更新。

令嬢に転生したと思ったけどちょっと違った

しそみょうが
BL
前世男子大学生だったが今世では公爵令嬢に転生したアシュリー8歳は、王城の廊下で4歳年下の第2王子イーライに一目惚れされて婚約者になる。なんやかんやで両想いだった2人だが、イーライの留学中にアシュリーに成長期が訪れ立派な青年に成長してしまう。アシュリーが転生したのは女性ではなくカントボーイだったのだ。泣く泣く婚約者を辞するアシュリーは名前を変えて王城の近衛騎士となる。婚約者にフラれて隣国でグレたと噂の殿下が5年ぶりに帰国してーー? という、婚約者大好き年下王子☓元令嬢のカントボーイ騎士のお話です。前半3話目までは子ども時代で、成長した後半にR18がちょこっとあります♡  短編コメディです

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

異世界唯一のオメガ、恋を選ぶまでの90日

秋月真鳥
BL
――異世界に「神子」として召喚されたのは、28歳の元高校球児、瀬尾夏輝。 男性でありながらオメガである彼は、オメガの存在すら知られていない異世界において、唯一無二の「神に選ばれし存在」として迎えられる。 番(つがい)を持たず、抑制剤もないまま、夏輝は神殿で生活を共にする五人のアルファ候補たちの中から、90日以内に「番」となる相手を選ばなければならない。 だがその日々は決して穏やかではなく、隣国の陰謀や偽の神子の襲撃、そして己の体に起きる変化――“ヒート”と呼ばれる本能の波に翻弄されていく。 無口で寡黙な軍人アルファ・ファウスト。 年下でまっすぐな王太子・ジェラルド。 優しく理知的な年上宰相・オルランド。 彼らが見せる愛情と執着に、心を揺らしながら、夏輝は己の運命と向き合っていく。 ――90日後、夏輝が選ぶのは、誰の「番」としての未来か。 神の奇跡と恋が交錯する異世界で、運命の愛が始まる――。

処理中です...