キョリとリセイ~恋人は愛の香り~

国府春学

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どこにも行くな

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 翌朝。
 短くも満たされた眠りから覚めたルートリヤは、汗と体液に塗れた身体を起こす。
 一晩中抱き合った挙句、最後の絶頂で意識を失ったらしい。
 シェスリタはまだ、寝息を立てている。その肌のあちこちには、鮮やかな口づけの痕が散っていて、甘い幸福感がルートリヤを包んだ。

「ヤバイ、遅刻だ」
 浸っている場合ではない。
 ルートリヤは慌ててシャワーを浴び、身支度を整えた。
「ん……」
 行ってきますのキスをしたら、シェスリタが目を覚ましてしまった。
「おはよ。俺、仕事行くから」
 伝えると、ぐっと腕を掴まれた。
「何…?」
「行くな」
 シェスリタがこんなことを言うのは初めてだ。
「ずっとここにいろよ」
 ねだられて、胸がきゅんとなるルートリヤだが、そういうわけにはいかない。
「そうしたいのは山々だけど……部下が待ってるから」
 そっと腕をほどくと、シェスリタが目を伏せた。
「ごめん。寂しいなら、使用人に相手をさせるよ。話が上手な者もいるし」
「おまえじゃなきゃいやだ」
 鮮緑色の瞳がまっすぐに見つめている。
「シェス……」
 困惑するルートリヤだが、何とか堪えた。

「俺とずっといたいなら、復職したらいいよ。城内勤務できるように話を通してあるから、近くにいられる」
「おまえが他の奴と話したりするのを、見たくない」
 その言葉はあまりに彼らしくなく、ルートリヤは嬉しい反面、背筋が凍りそうになった。

「シェス、どうしたの……?」
 からかっているのかと思ったが、それにしたって度が過ぎる。
(とりあえず、もう行かないと)
 ルートリヤは、制服に忍ばせている睡眠薬をこっそり口に含み、シェスリタの髪を撫で、キスをした。
「ん…ぅっ」
 ゴク、と喉を鳴らしたシェスリタは、眉を寄せた。
「ルゥト…今の……」
「いいから。おとなしく待ってて。俺のシェス……」
 ルートリヤは、彼の眠りを見届けて部屋を出た。
 今日も仕事が手につかなさそうだ。



「え、どういうこと? またずいぶん急な展開だね」
 このところルートリヤがっしょっちゅう寄るので、彼用のティーカップを用意しているユシカは、にわかに信じられない様子だった。
「受け入れてくれて嬉しいんだけど……やっぱり問題あるよね」
 ふわぁ、とルートリヤは欠伸をする。
「昨夜はずいぶん、楽しかったんだね」
「寝かせてくれなくてね。朝起きたらあんな態度とられるし…まだ夢の中にいるみたい」
「うーん。もしかしたら、なんだけど…」

 フェータルヒュームがシェスリタの身体を支配したのではないかと、ユシカは推測した。
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