キョリとリセイ~恋人は愛の香り~

国府春学

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「本当にろくでもないな、おまえの性欲は」
「えぇー。シェスの身体が名器すぎるんだよ」
 馬車に揺られながら、たわいないやりとりでじゃれあう。
 昨日仕立てた正装に身を包み、二人は今夜、グレンロッドのマリヤールの屋敷に着く予定だった。

「腰が痛い……」

「あー、ごめん。俺にもたれていいよ」
「ん…」
 ルートリヤの身体に、シェスリタは甘えるように身を委ねた。
 ルートリヤはその腰を優しく撫でていたわる。
 机を並べて学んでいたころは、まさかこんなふうに触れられる日が来るなんて、思いもしなかった。

 唯一の肉親に引き合わされるということは、実質家族にも交際を認めてもらうようなものだし。

 馬車はいくつもの村を越えて走り続け、二人がもたれあってうとうとし始めた頃、グレンロッドのはずれの屋敷の前に到着した。
 辺りはすでに暗く、星空が広がっている。
 マリヤールの屋敷の門を叩くと使用人が出てきて、二人を中へ迎え入れた。

「久しぶりです、兄さん」
 現れた主に、シェスリタが改めて頭を下げる。
「久しぶりだな、シェス。そんなに固くなるなよ」
 よく似た声で笑って、兄は弟を抱き締めた。
「彼が、手紙に書いたルートリヤ」
「はじめまして」
 紹介されて、ルートリヤは握手の手を差し出す。

「あぁ、はじめまして。マリヤールです。弟が世話になっているようで」
 ぎゅ、と握られた手の力は強かった。
 マリヤールは、シェスリタと同じ毛先だけがディープグリーンの黒髪を、アシンメトリーのショートにして、片側を耳にかけていた。
 顔立ちはシェスリタに似ているが、たれ目がちの二重の瞳の左下に泣きぼくろがあり、長身で妖艶な雰囲気だ。

(きれいな人だな)
 ルートリヤは思わず見とれてしまった。
 マリヤールはその視線に気づいたようで、口角を緩く持ち上げ、
「おなかもすいているだろうから、夕食にしようか」
 と言った。



 肉が中心の豪勢な食事の後、二人が手土産に持参した酒を片手に、雑談の時間となった。
「おまえは小さい頃引っ込み思案で、友達もなかなかできなくて、いつも俺の後ろにくっついていたのに…こんな素敵な人と出会えるなんて、士官学校に行ってよかったな」
 思い出話のついでに褒められて、シェスリタはひたすら酒に逃げている。

「俺も初めてシェスと話したとき、人見知りなんだなって思ったけど、今はたくさん話してます」
 この国で同性と恋に落ちることは、王道ではないものの禁忌ではない。
 マリヤールもルナシェウスの末裔なので、フェータルヒュームを有しているはずだが、不思議な香りでルートリヤを魅了することはなかった。
 ユシカが言っていたとおり、好きな者同士の間でしか効力を発揮しないのだろう。


「ところで、手紙に書いてあったことだが…」
 杯を重ねた頃、マリヤールは本題に入った。
「もし本当なら、仕事の邪魔をしてしまって申し訳ない」
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