1 / 7
プロローグ
しおりを挟む
窓を激しく叩く雨音と、悲鳴のような音をあげて吹き荒ぶ風。本当ならこの窓から沖縄の海が見渡せたはずなのに、今の真っ暗な窓には室内の景色と自分の顔が反射して写るばかりで、何も見えない。
「あーもーまじ最悪。この調子じゃ明日の自由行動とか絶対中止じゃん。沖縄まで来た意味ねー」
布団の上に寝転んだ直人が悪態を吐く。
「台風が急に進路変えて直撃とかついてないよなあ。もう九月だってのにさ」
ついてないとは言いつつも、英紀はあまり気にした様子もなくスマホを弄っている。彼はもともとインドア派なので、この修学旅行自体あまり乗り気では無かったのだ。
「姉貴に土産買ってこいって言われてんのに……あーあ、帰ったら絶対シメられるわ」
「台風のせいじゃしょうがなくね?隆春の姉ちゃん怖えー」
折り畳み式の将棋盤を広げて将棋を指していた隆春と悠聖が、そう言ってへらへらと笑っている。
旅行とはいえ所詮は学校行事。予定が変更になるのは残念ではあるが、もともとその手の活動に意欲的ではない彼らにとっては、本気で悔しがるほどの事でもない。こうして気の合う友人達と、いつも通りだらだら過ごしていられれば十分だった。
「おい和弥!いい加減カーテン閉めろよ。今窓の外なんか見てたってしょうがねえだろ」
布団にひっくり返ったままの直人に言われ、和弥は黙ってカーテンを引いてみんなの元へ戻った。若干機嫌が悪いあたり、直人だけは案外この旅行を楽しみにしていたのかもしれない。出発前は一番気のない素振りをしていたのに。
「お前らもさあ、いつまでそんなジジイくさい遊びしてんだよ」
和弥が自分の布団の上に胡座をかくと、直人は今度は隆春達に絡み始めた。
「俺らが何やろうと勝手だろ。お前なんかさっきからゴロゴロしてるだけじゃねえか」
「直人さー、将棋のルールわかんなくて混ざれないから拗ねてんだろ?ガキくせー」
悠聖に笑われて、直人が顔を赤くする。
「はあ?!誰がそんな……」
「お前らうるさいよー。あんま騒ぐと竹川が来てめんどくさい事になるよ」
直人が体を起こして怒鳴ろうとするのと同時に、スマホから顔を上げないままで英紀が言った。
竹川というのは学年主任の教師で生活指導も担当しているのだが、重箱の隅をつつくような注意ばかりしてくるので、大体の生徒から嫌われている。しかも指摘の仕方があまりにもネチネチと陰湿なので、心を病んでしまった女子生徒もいるという噂だ。
「あ、竹川といえばさ。さっきの怪談めっちゃウケたよな。悪い意味で」
将棋の駒を指で弄びながら、隆春が意地の悪い顔で笑う。
「さっきの夜の集会でやってたやつなー。女子とかキャーキャー言ってたけど、あんなんフリだけだろ。あんなヘッタクソな喋りでビビる高校生いないよな」
そう言って悠聖も馬鹿にした様子で鼻を鳴らす。竹川の語りは早口で抑揚もなく、素人だということを抜きにしても酷いものだった。おかげで数時間前に聞いたばかりだと言うのに、怪談とやらの中身は何ひとつ頭に残っていない。
「あ、じゃあさ、ぼく達でやろうよ。怪談」
「は?なんで?」
英紀が不意に顔を上げて言ったひと言に、直人が顔を顰めた。
「だってさ、今ってロケーション的には完璧じゃん?古い旅館、時刻は夜、外は嵐!どうせ明日は帰るだけだろうしさ、最後に思い出作りしようよ」
「思い出が怪談話かよ」
「いいじゃん、面白そう。おれやりたーい」
苦笑する隆春の横で、悠聖は既に乗り気のようだ。
「お前ら本気かよ……」
「あれ?直人怖いんだ?」
「あ?!んなわけあるか!」
乗せられやすい直人はすっかりその気になったらしい。鼻息も荒く英紀に詰め寄って言う。
「んで?誰からやるって?」
「まあまあ、ちょっと待ちなよ。こういうのは雰囲気が大事なんだからさ」
そう言った英紀は、五人の頭を突き合わせるように並べた布団の真ん中にスマホを置いて、室内の電気を消しに行った。途端に部屋の中は真っ暗になり、中央のスマホだけがぼんやりとした明かりを放つ。
「さすがに火は使えないから、蝋燭の代わりって事で。ほらみんな集まって」
英紀に促され、彼のスマホを中心に五人で車座になる。こんな人工の明かりでもそれらしい雰囲気に感じるのは、外を吹き荒れる嵐が不安を煽るからだろうか。
「さて、それじゃあ早速始めようよ」
楽しげな口調で英紀が言う。小さなスマホのライトでは精々胸元までしか照らすことは出来ず、自分以外の四人がどんな表情でいるのか窺い知ることは出来ない。
「さあ、誰から話そうか?」
英紀が皆を見回す気配があった。顔の見えない彼らは本当に良く知る友人達なのか、もはや確かめる術はない。
そう、それはたとえば……彼らの誰かが化け物に変じていたとしても、気づくことは出来ないという事だ。
「あーもーまじ最悪。この調子じゃ明日の自由行動とか絶対中止じゃん。沖縄まで来た意味ねー」
布団の上に寝転んだ直人が悪態を吐く。
「台風が急に進路変えて直撃とかついてないよなあ。もう九月だってのにさ」
ついてないとは言いつつも、英紀はあまり気にした様子もなくスマホを弄っている。彼はもともとインドア派なので、この修学旅行自体あまり乗り気では無かったのだ。
「姉貴に土産買ってこいって言われてんのに……あーあ、帰ったら絶対シメられるわ」
「台風のせいじゃしょうがなくね?隆春の姉ちゃん怖えー」
折り畳み式の将棋盤を広げて将棋を指していた隆春と悠聖が、そう言ってへらへらと笑っている。
旅行とはいえ所詮は学校行事。予定が変更になるのは残念ではあるが、もともとその手の活動に意欲的ではない彼らにとっては、本気で悔しがるほどの事でもない。こうして気の合う友人達と、いつも通りだらだら過ごしていられれば十分だった。
「おい和弥!いい加減カーテン閉めろよ。今窓の外なんか見てたってしょうがねえだろ」
布団にひっくり返ったままの直人に言われ、和弥は黙ってカーテンを引いてみんなの元へ戻った。若干機嫌が悪いあたり、直人だけは案外この旅行を楽しみにしていたのかもしれない。出発前は一番気のない素振りをしていたのに。
「お前らもさあ、いつまでそんなジジイくさい遊びしてんだよ」
和弥が自分の布団の上に胡座をかくと、直人は今度は隆春達に絡み始めた。
「俺らが何やろうと勝手だろ。お前なんかさっきからゴロゴロしてるだけじゃねえか」
「直人さー、将棋のルールわかんなくて混ざれないから拗ねてんだろ?ガキくせー」
悠聖に笑われて、直人が顔を赤くする。
「はあ?!誰がそんな……」
「お前らうるさいよー。あんま騒ぐと竹川が来てめんどくさい事になるよ」
直人が体を起こして怒鳴ろうとするのと同時に、スマホから顔を上げないままで英紀が言った。
竹川というのは学年主任の教師で生活指導も担当しているのだが、重箱の隅をつつくような注意ばかりしてくるので、大体の生徒から嫌われている。しかも指摘の仕方があまりにもネチネチと陰湿なので、心を病んでしまった女子生徒もいるという噂だ。
「あ、竹川といえばさ。さっきの怪談めっちゃウケたよな。悪い意味で」
将棋の駒を指で弄びながら、隆春が意地の悪い顔で笑う。
「さっきの夜の集会でやってたやつなー。女子とかキャーキャー言ってたけど、あんなんフリだけだろ。あんなヘッタクソな喋りでビビる高校生いないよな」
そう言って悠聖も馬鹿にした様子で鼻を鳴らす。竹川の語りは早口で抑揚もなく、素人だということを抜きにしても酷いものだった。おかげで数時間前に聞いたばかりだと言うのに、怪談とやらの中身は何ひとつ頭に残っていない。
「あ、じゃあさ、ぼく達でやろうよ。怪談」
「は?なんで?」
英紀が不意に顔を上げて言ったひと言に、直人が顔を顰めた。
「だってさ、今ってロケーション的には完璧じゃん?古い旅館、時刻は夜、外は嵐!どうせ明日は帰るだけだろうしさ、最後に思い出作りしようよ」
「思い出が怪談話かよ」
「いいじゃん、面白そう。おれやりたーい」
苦笑する隆春の横で、悠聖は既に乗り気のようだ。
「お前ら本気かよ……」
「あれ?直人怖いんだ?」
「あ?!んなわけあるか!」
乗せられやすい直人はすっかりその気になったらしい。鼻息も荒く英紀に詰め寄って言う。
「んで?誰からやるって?」
「まあまあ、ちょっと待ちなよ。こういうのは雰囲気が大事なんだからさ」
そう言った英紀は、五人の頭を突き合わせるように並べた布団の真ん中にスマホを置いて、室内の電気を消しに行った。途端に部屋の中は真っ暗になり、中央のスマホだけがぼんやりとした明かりを放つ。
「さすがに火は使えないから、蝋燭の代わりって事で。ほらみんな集まって」
英紀に促され、彼のスマホを中心に五人で車座になる。こんな人工の明かりでもそれらしい雰囲気に感じるのは、外を吹き荒れる嵐が不安を煽るからだろうか。
「さて、それじゃあ早速始めようよ」
楽しげな口調で英紀が言う。小さなスマホのライトでは精々胸元までしか照らすことは出来ず、自分以外の四人がどんな表情でいるのか窺い知ることは出来ない。
「さあ、誰から話そうか?」
英紀が皆を見回す気配があった。顔の見えない彼らは本当に良く知る友人達なのか、もはや確かめる術はない。
そう、それはたとえば……彼らの誰かが化け物に変じていたとしても、気づくことは出来ないという事だ。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる