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1章 出会い
3話
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ブォォン!
鉈が俺の体に突き刺さるかと思ったその直後、凄まじい突風が俺と帝国兵の間を通り過ぎていった。
「……、な、何が……?」
風が通り過ぎた後には、帝国兵の姿は掻き消えていた。
残されたのは、帝国兵の残骸と、惚けた顔の俺だけ。
「助かった……のか?」
死の恐怖から解放された俺は、腰が抜け、ズルズルとその場に座り込んでしまった。
「いや、惚けてる場合じゃない。せっかく助かったんだ、今のうちに逃げないと。」
俺は気合を入れ、なんとか立ち上がった。
が、周囲の状況は依然として最悪だった。
どうやらさっきの突風で破壊されたのは、俺を襲った1台だけだったらしい。異変を察知したらしい残りの帝国兵達が、俺をぐるりと取り囲んでいた。
「ハハッ、結局ダメかよ……。」
意味は無いと分かりながらも、両手で降伏のジェスチャーを作る。
流石に、何度も奇跡は起きねぇか。俺は知らず知らず、天を仰いだ。
その時だった。
「伏せなさい!頭消し飛んでも、知らないわよ!」
突然聞こえてきた物騒な言葉に、訳もわからず、反射的に体を伏せた。
直後、俺を取り囲んでいた帝国兵達は、突如飛来してきた光線に、文字通り消し炭にされたのだった。
もし頭を伏せていなければどうなっていたか、想像するだけで背すじを嫌な汗が流れる。
「ふぅ、やっぱり、本気出せるって最高ね……!」
そしてこの惨状を生み出した張本人は、なにやら悦に入っている様子。
だがこの時、俺はすぐに現実を受け止めることができなかった。俺の倒せなかった帝国兵が、いともたやすく、目の前で消滅したこと、そしてそれを行ったのがまだ年端も行かない少女だということ。そのことが、俺が現実に向き合うことを阻んでいた。
「っておい!俺がもし伏せてなかったら、どうするつもりだったんだよ!下手すりゃ死んじまってたじゃねぇか!」
「その時はその時よ。こう、ほら、チャチャッと直して元通り。そんなことより、命の恩人に対していきなり罵声とは、酷いのではないかしら。立場というものを、弁えているの?」
「そ、そんなことって。そりゃ、助けられて感謝はしてる。だけど、それとこれとは。」
「ハイハイ、分かったわよ。でもね、悪いけどあなたと言い争いをしてる暇はないわ。そうこうしてる間にも、帝国兵がまた湧いてきたみたい。死にたくなければどきなさい。あなたじゃ力不足よ。」
「……っ!」
さっき帝国兵に負わされた傷が痛む。確かに俺じゃあ太刀打ちできない。それに、さっきの攻撃を見ても、この少女に任せてしまえば、俺は安全だということは明白だ。
だけど、それじゃああまりにも情けない。少女に助けられてのこのこ逃げ帰るなんて、とそこまで考えて気付いた。
(何が情けない、だ。さっきは襲われそうな子供を見捨てて逃げようとしたくせに。なんかさっきから、おかしいよな、俺。いつもなら一も二もなく逃げ出してるっていうのに。)
ふっ、と思わず笑いが漏れた。自分でも馬鹿なことをやってるっていうのはわかってる。だけど、今はなんだか、逃げたくない気分なんだ。
「ウォォォ!」
俺は全力で、目の前に迫る帝国兵に切りかかった。
ガキィィ!
火事場の馬鹿力だろうか、さっきは弾かれた一撃も、今は互角に押しあっている。
「はぁ、そこから動くんじゃないわよ。」
ゴウン
ニヤッと不敵に微笑んだ少女は、その細身の体には不釣り合いの、巨大な剣を構えた。
「ハァァァ!焼きつくせ!原初の炎!」
ゴガァァァァ!
一閃、凄まじい熱量が辺りを焼き尽くす。
動くなと言われなくても、1歩も動けていなかっただろう。それほどまでに、少女の一撃は圧倒的だった。
それに、動けなかった理由はそれだけではない。俺はこの時、剣を振るう少女の姿に、見惚れていたのだ。
「あ。」
少女の口から間の抜けた声が漏れた。
次の瞬間、とてつもない衝撃が俺の体を突き抜けた。
暗転、俺の意識はそこで途絶えた。
鉈が俺の体に突き刺さるかと思ったその直後、凄まじい突風が俺と帝国兵の間を通り過ぎていった。
「……、な、何が……?」
風が通り過ぎた後には、帝国兵の姿は掻き消えていた。
残されたのは、帝国兵の残骸と、惚けた顔の俺だけ。
「助かった……のか?」
死の恐怖から解放された俺は、腰が抜け、ズルズルとその場に座り込んでしまった。
「いや、惚けてる場合じゃない。せっかく助かったんだ、今のうちに逃げないと。」
俺は気合を入れ、なんとか立ち上がった。
が、周囲の状況は依然として最悪だった。
どうやらさっきの突風で破壊されたのは、俺を襲った1台だけだったらしい。異変を察知したらしい残りの帝国兵達が、俺をぐるりと取り囲んでいた。
「ハハッ、結局ダメかよ……。」
意味は無いと分かりながらも、両手で降伏のジェスチャーを作る。
流石に、何度も奇跡は起きねぇか。俺は知らず知らず、天を仰いだ。
その時だった。
「伏せなさい!頭消し飛んでも、知らないわよ!」
突然聞こえてきた物騒な言葉に、訳もわからず、反射的に体を伏せた。
直後、俺を取り囲んでいた帝国兵達は、突如飛来してきた光線に、文字通り消し炭にされたのだった。
もし頭を伏せていなければどうなっていたか、想像するだけで背すじを嫌な汗が流れる。
「ふぅ、やっぱり、本気出せるって最高ね……!」
そしてこの惨状を生み出した張本人は、なにやら悦に入っている様子。
だがこの時、俺はすぐに現実を受け止めることができなかった。俺の倒せなかった帝国兵が、いともたやすく、目の前で消滅したこと、そしてそれを行ったのがまだ年端も行かない少女だということ。そのことが、俺が現実に向き合うことを阻んでいた。
「っておい!俺がもし伏せてなかったら、どうするつもりだったんだよ!下手すりゃ死んじまってたじゃねぇか!」
「その時はその時よ。こう、ほら、チャチャッと直して元通り。そんなことより、命の恩人に対していきなり罵声とは、酷いのではないかしら。立場というものを、弁えているの?」
「そ、そんなことって。そりゃ、助けられて感謝はしてる。だけど、それとこれとは。」
「ハイハイ、分かったわよ。でもね、悪いけどあなたと言い争いをしてる暇はないわ。そうこうしてる間にも、帝国兵がまた湧いてきたみたい。死にたくなければどきなさい。あなたじゃ力不足よ。」
「……っ!」
さっき帝国兵に負わされた傷が痛む。確かに俺じゃあ太刀打ちできない。それに、さっきの攻撃を見ても、この少女に任せてしまえば、俺は安全だということは明白だ。
だけど、それじゃああまりにも情けない。少女に助けられてのこのこ逃げ帰るなんて、とそこまで考えて気付いた。
(何が情けない、だ。さっきは襲われそうな子供を見捨てて逃げようとしたくせに。なんかさっきから、おかしいよな、俺。いつもなら一も二もなく逃げ出してるっていうのに。)
ふっ、と思わず笑いが漏れた。自分でも馬鹿なことをやってるっていうのはわかってる。だけど、今はなんだか、逃げたくない気分なんだ。
「ウォォォ!」
俺は全力で、目の前に迫る帝国兵に切りかかった。
ガキィィ!
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「はぁ、そこから動くんじゃないわよ。」
ゴウン
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「ハァァァ!焼きつくせ!原初の炎!」
ゴガァァァァ!
一閃、凄まじい熱量が辺りを焼き尽くす。
動くなと言われなくても、1歩も動けていなかっただろう。それほどまでに、少女の一撃は圧倒的だった。
それに、動けなかった理由はそれだけではない。俺はこの時、剣を振るう少女の姿に、見惚れていたのだ。
「あ。」
少女の口から間の抜けた声が漏れた。
次の瞬間、とてつもない衝撃が俺の体を突き抜けた。
暗転、俺の意識はそこで途絶えた。
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