The Doomsday

Sagami

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Too late

2:種火2

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口の中が気持ち悪い、胃がむかむかする。
さっきの丸薬のせいか、それとも、緊張のためか。
判らない、分からない、解らない
悪い癖だと思いながら、僕は自身の首に爪を立て力を入れる。
ヒリヒリとした痛みと共に思考が進む。

情報の再考、検討、棄却を繰り返す。
クラスメイト、鎧の男達、少女
トオル、アマネちゃん、カヤマイツミ
学際、旧校舎、打ち上げ
前提が足りない、パーツが足りない、情報が足りない。

出来の悪い物語を見ている気分だ、モザイクがかかって全体像が見えない。
大きく息を吐く、現在地も目的地もわからないまま進むことは出来ない。

トオルは冷静なつもりかもしれないが、明らかに無理をしている。
それはそうか、大事な妹の生死がわからないなら当然といえる。
いずれ告げる必要があるだろう、『妹の死』が避け得ないものだと。
今言うか、いや、今は不味い。まだトオルは使い道がある。
どうせ告げるなら、有効なタイミングで言うべきだ。
自問自答、結論は1つ。
今はまだ希望にすがらせておくべきだと。

「何にせよ、情報が足りないな」
静かに呟き大きく息を吸う。呟きが聞こえたのかイツミの視線がこちらに向いている。
僕と同じく丸薬を貰っていたが、自ら動く気はないようだ。
なら、これが僕の役回りだろう。吸った息を大きく吐く。
まずは情報を集めないといけない。
「僕は繰島タツマといいます」
これは自身への宣戦布告、スイッチを切り替える。
「栢山イツミ」
「水無月トオルだ」
イツミとトオルが慌てて名乗る。他のクラスメイト達は死んだような目をして宙を見上げてる。多少酷だが、相変わらず使えない。
エミリアが少女と僕達の間に立つ。ちょうど僕と女が代表者として話し合うような構図となってしまった。柄でもない。少し間を空け言葉を続ける、本当に言葉が通じているのだろうか。薬1つで言葉が通じるようになるなら、それだけで大金持ちになれそうだ。
「よくわかりませんが、非常事態とお見受けします。なので、一点だけお教えいただきたいのですがよろしいでしょうか」
人が簡単に死ぬ状態が、非常事態であって欲しいそんな願望を込め尋ねる。
「この国で神官長を勤めさせていただいているエミリアと申します。お答えできることならなんなりと」
女がフードを取り答える。赤毛の女性、彫りの深さ的には西欧系だろうか。
こういう時でなければ口説きたくなるような美人だ。
「ここはどこなのでしょうか?」
トオルの体が何かに反応し、小刻みに震えていた。
「ここはアルフィール皇国の神殿都市アルナス、その地下神殿です」
予想通り、分からない地名が出てきた。
僕たちは旧校舎で学祭の打ち上げをしていただけなのに、どうしてこうなった。
大きくため息をつき、天井を見上げた。
太ったネズミが足元を駆けていった。



「異界の人よ、それで分かりますか?」
暫しの沈黙の後、エミリアが問いを返してくる。
「タツマでかまいません、異界の人といわれても、ピンときませんし。おそらくは貴女方も予想されているとおもいますが、分かりません」
分かるとブラフを立てる意味は今は薄い。少なくともこの二人からは悪意は感じられない。なら、誠実にいけるところは誠実に行くべきだと思う。
「では、タツマ様。皇国の名に聞き覚えはないのですね」
素直に頷く、トオル達を見るが視線に首を振って答える。
「はい、大陸名などが分かればまだ分かるかもしれませんが」
「アルフェレト大陸と我々は呼んでおります、西部にアルフィール皇国、北東部にアルナスト公国、南部にエヴィンルクと呼ばれる三つの国がありますが、どれも聞き覚えはありませんか」
「残念ながら」
首を振る。少なくとも僕はそんな国は知らないし、大陸も知らない。
「識峰市」
イツミが何かを呟いた、もしかすると聞き覚えがあるのか、あとで問いつめる必要がありそうだ。
「エミリア神官長、タツマ様がお困りになられています。異界の人である皆様が私どもの世界のことをご存じなくても、それが必然というものではありませんでしょうか」
異界の人、私どもの世界、ときたか。ここがまるで異世界であるかのような口ぶりじゃないか。非現実的すぎる。
仮にパラレルワールドや異世界が存在するとして、どうやって移動する。
地球の座標は一瞬たりとも同じ座標にないというのに、どうやって宇宙空間に放り出されずにここにたどり着くというのか。
それならまだ、座標の転移、見知らぬ地への転送の方がまだマシだ。
「承知いたしました。ここがどこかという問いの答えにそれ以上は答えれませんが、よろしいでしょうか」
いや・・・それよりは、言葉と丸薬の仕組みは分からないが、この二人が嘘を言っている方が、より現実的か。なら、その理由は。
「はい、ありがとうございます。ただ、如何せん置かれている状況が不明瞭で・・・詳しい説明は頂けるのでしょうか」
思考の海に沈みそうな意識を、なんとか浮上させる。
「タツマ様、申し訳ございません。今は仰られた様に非常事態、早急にこの都市から安全な地、皇都フィルナスへ御同行頂き、到着後に説明とさせていただきたいのですがよろしいでしょうか」
申し訳なさそうな口調ではあるものの、事実上の命令だろう。
僕たちに選択肢はあるのかどうか。
ただの肉塊となったクラスメイト達の姿が脳裏に浮かぶ。
「少なくとも、ここよりは安全であれば」
僕の言葉に、エミリアが頷く。


まったく、何が起きていやがる。
皇都から姫様の護衛でこの都市まで来たが、騒がしいったらありゃしねえ。
交代時間に呼び来る予定の他の護衛はいつまでたっても来ないし、
いけ好かない神殿騎士達が騒いでやがる。
「なあ、店主、この町はいつもこうなのかい。巡礼の時期じゃまだなかったよな」
堅苦しいプレートメイルは外し、護身のための長剣と何本かのナイフだけを持っている。「いや、普段はもっと静かだけど、そんな事よりあんたいいのかい、またお仲間に小言を言われるんじゃないかい」
十分以上に肉付きのいい女店主が、注文したエールと干し肉を出してくる。
「いいの、いいの。俺は金払いが良くて、それなりに暇だから姫様のおままごとに付き合ってるんだから」
干し肉を親指と人差し指でつまみ、口に放り込む。塩味が効いて中々に旨い。
薬味をつけずにとりあえず1つ食べる、それが自分流の食べ方だ。
「いい肉だね、こんな旨い肉だと南の獣人どもがよって来るんじゃないかい」
エールを一口、苦味が心地良い。仕事中の酒ほど旨いものはない。
「どうも、おっとお仲間さんが来たようだよ」
あーあ、嫌なのが来た。
「ガルツ、ここに居たのか」
息を切らして同僚が駆け寄ってくる。
「おう、ようやく交代の時間かい」
予定より遅い到着で、そんな言葉を飲み込む。
本当に、嫌なのが来たな。舌打ちをする。
鎧の隙間から血が滴っている。
「神殿騎士が・・・姫様が襲われて・・・神官長が向かって」
途切れ途切れの言葉、こりゃ長くない。
「まあ、ゆっくり休めや後は俺たちがやる。エミリア嬢ちゃんがって事は、神殿の地下通路ってところかね」
騒ぎを聞きつけて、控え室から他の同僚たちが顔を出す。
「さて、お仕事の時間ってか」



「姫様、エミリア嬢ちゃん」
天井の一部が開き、男が顔を出す。髭面のむさい男、それが僕の第一印象。
「ガルツ」
少女が声を上げる。
「よっと、なんか知らない顔がひい、ふう、みい・・・6人ほど居るみたいだが、成功しちまったのかい」
驚き半分、呆れ半分の声色に聞こえるのは気のせいだろうか。
「あちらの方は?」
「白馬に乗った王子様ってところさ」
髭面がのたまう。
「助けです。顔が赤いですが、もしかして飲んでましたか」
大きくため息を付き、エミリアが答える。
「ちょっと燃料をね、さあさあ、皆さんとっとと登って下さいや、外で他の奴らが食い止めてるが、いつまで持つかわはわからないんでね」
その目に剣呑な光が浮かぶ。天井から下ろされた縄梯子に順番に登っていく。
他に手段がないとはいえ、少し無警戒に信じすぎてるんじゃないか。
何の疑問も抱かずに、登っていくクラスメイトたちを見てため息を付く。
いや・・・そんな余裕がないのが普通か。
「先に行って」
イツミが静かに告げる。
「どうした」
「スカート」
思わず苦笑する、これはこれで余裕がありすぎじゃないのか。
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