The Doomsday

Sagami

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Slumber

6:皇都5

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僕はこの日、懐かしい校門を潜った。双凪学園の旧校舎、非対称アンシンメトリーの二匹の蛇を校章に持つ懐かしの母校。門を潜り校舎を見上げると真新しい校舎の姿が眩しい。

「そっちじゃない」

繰島先生が視線で行き先を告げる。視線の先には年季の入ったコンクリートの壁が見えている。そういえば、そうだった僕達が通っていた校舎は今は使われなくなっており、旧校舎と呼ばれている。

「懐かしいかい」

先生はそういって、僕を見上げる。相変わらずの薄汚れた白衣。始めて会った30年前から変わらない姿に思わず苦笑してしまう。妹の恩人にして、僕がこの世界に入った原因の一旦を作った人物。

「ええ、でもまさかここにまた来る機会が訪れとは思ってませんでした」

紛れも無い本音、叶うことなら二度と訪れる事が無ければよいと思っていた。旧校舎の入り口には誇りまみれの床に、真新しい足跡が幾つも残っている。

「私はこの前、学園祭に紛れ込んだんだけど、カズシ君は姪っ子を見にはいかないのかい」

学園祭、悪友達と馬鹿騒ぎをしていた遠く、暖かい記憶。

「来年があれば是非」

タツガミと三月家が動いて見つからない現状で、それは余りにも楽観視し過ぎた未来。

「イツミちゃんの執事姿はなかなか見ものだったよ」

頭の中で想像し、ある意味はまり役なのかもしれないと思う。線が細いことを本人は気にしている様子だったので、いい迷惑なのかもしれないが。

旧校舎の一階の突き当たりで先生は足を止める。真新しい監視カメラ、設置者はおそらくは立上マキだろう。あの人は兄弟には異常なほど甘い。新しい情報が手に入る可能性があるならと設置したに違いない。

「繰島先生、ここがですか」

予想通り過ぎる場所。高校時代悪友達と部活動に勤しんだ部屋。そして、今となっては僕しか知らない秘密の眠る場所。
扉を開けると、黒板には大きく『学園祭、お疲れ様!』とカラフルな文字が書かれている。

「学園祭の打ち上げをしていたところまでは分かっている」

先生の言葉に頷く。僕が姪とその学友の失踪を知ったのは数時間前。そして、その異常性を聞いたの1時間前、道すがら先生から今分かっている事は聞いたが嫌な予感しかしない。

「先生やマキさんでもお手上げなんですか」

「ああ」

いつのまに座ったのか、先生は古びた椅子に座り机に突っ伏している。



タツマの通っていた高校に、また来ることになるとはね。学園祭の喧騒の後だけに、まるで廃墟の後の様に思える。まだ夕方だというのに、敷地内に学生の姿はまばらにしか見えない。タツガミがどう伝えたのか、生徒の集団失踪ということになっているらしい、そのため、早めの下校が推奨されているという。

「そっちじゃない」

新校舎を見上げるカズシ君に声をかけ、旧校舎を目で示す。

「懐かしいかい」

カズシを見上げ、尋ねる。私にとって学校という場所は、近くて遠く、羨望と憎悪の混ざる場所だ。一族の中でも、特別血が濃く身体的成長が遅かった私は未だ普通の学校生活を送ったことが無い。

(今更、小学校や中学校に通うって言うのもね)

ランドセルを背負った自分を想像し、げんなりする。その点、クルシマと違ってタツガミは巧くやってると思う。この高校だってそうだ、双凪学園はタツガミが子弟の受け皿としてだけに作った施設の1つであり、直近だとタツガミシロウも通っていたという。

「ええ、でもまさかここにまた来る機会が訪れとは思ってませんでした」

この様子だと、カズシ君も暫く此処には訪れていないのだろう。タツマ達の行方のあてがまた1つ減った。
静かな旧校舎に私達の足音が響く、まるで此処だけが世界から切り離されてしまったかのような錯覚を感じる。夕焼けに紅く染まる空に、黒いカラスが飛んでいる。

「私はこの前、学園祭に紛れ込んだんだけど、カズシ君は姪っ子を見にはいかないのかい」

この格好で模擬店を見に行ったら、すごい剣幕で怒られたっけ。常識が無いとかなんとか、大分口汚く罵られた気がする。思い出したら腹が立ってきた、今度会ったらまた生きたまま解剖してやろうか。口元に思わず笑みが浮かぶ。

(普通の母親は息子を解剖なんてしない、しかも、正確なデータがとりたいから麻酔なしだとふざけるな)

至極真っ当な抗議を受けたのは、確かタツマがイツミちゃんと初めて会う少し前だっただろうか。息子の成長に目頭が熱くなるかと思ったが、そうでもなかったのは自分でも意外だった。

「来年があれば是非」

その未来は訪れないだろう。それはほぼ確信に近い、私達の共通認識。過ぎてしまった幸せな時は二度と還らない。

「イツミちゃんの執事姿はなかなか見ものだったよ」

だから私は努めて明るい声で言う。そういえば、あの場には水無月の娘もいたんだったか。貰った写真の顔と記憶を照合するが、イマイチ巧く合致しない。どうも人の顔をおぼえるのは苦手でいけない。

取り留めの無い話をしながら、目的の場所へと到着する。カズシ君がイツミちゃんの話を聞きに来てくれたのは幸運だった。こういう機会でもなければ、直接ここに確認に来るのはいつになったか分からない。

「繰島先生、ここがですか」

妙な表情をしているのが気にかかるが、頷いて答える。扉を開くと黒板のカラフルな文字が目にとまる。電気を付け、部屋の中を見回す。

「学園祭の打ち上げをしていたところまでは分かっている」

わかっていことを何処まで伝えるかは悩ましいところだ。床に残る血の染みを見ながら、肉塊を思い出す。タツマやイツミちゃんの遺伝子は肉塊から検出できなかった、けれど、それが2人が生きていることの保障にはならない。
適当な椅子に座り、埃っぽい机に突っ伏す。学生達は普段こうやってどうしようもない時は眠気に身を任せているのだろうか。

「先生やマキさんでもお手上げなんですか」

「ああ」

立上マキの連絡は無い。そして、私もまた新しい情報がなければ出来ることも無い。ある意味では、私達より遥かに深刻な事態に陥っているはずの三月家もまだ動きが無い。
カズシ君は軽く頷き、部屋の中央に立つ。ちょうど、肉塊が落ちていた場所の中央でもある。

「先生ならご存知ですよね、っていうものを」

聞きたくない単語に心底嫌な顔を私はしていたに違いない。その視線の先は、真っ直ぐに足元を指していた。





「我々は何故、ここに居るのですか」

その質問はあまりにストレートで、どう答えるべきか私は一瞬迷った。エルムなら素直に思いを告げるだろう、エミリア神官長なら巧くぼやかして答えるだろう。だが、私はどう答えるべきだろうか。お互いの役割上最も適した答えを模索する。

「君達には、英雄になって貰うためにこの世界に呼んだ」

下手な考えの結果はこれだ、結局は駆け引きの出切る事柄じゃないという割り切り。エルムは満足そうな笑みを浮かべ、エミリア神官長は頭を抱えている。答えを聞いた肝心の彼らからは思いのほか反応が無い。一笑に付されても仕方ない唐突な言葉ではあるが、嘘偽りの無い真実でもあった。

「これで満足かな」

沈黙の後、私は問うた。彼はそんな私を真っ直ぐ見据え、大きく息を吐いている。

「あまりに漠然とされていて、何ともですね」

私が彼の立場でも同じことを思うだろう、突然異国に連れて来られてになれなど正気の沙汰とは思えない。いや、言ってる本人でさえ正気だとは思っていない。

「分からない事があれば教えよう、だが、これだけは信じて欲しい。私達は君達を必要としている」

頭を下げると、アロセスとサヴァルが息を呑む音が聞こえた。

「申し上げます」

若い兵士が、息を荒げ謁見の間へと走りこんでくる。

「御前であるぞ」

サヴァルが振り返り怒声を放つ。

「至急の事ゆえ、お許しください」

若い兵士は萎縮しつつも、声を張る。顔面蒼白なのはサヴァルの怒声によるものではない、そんな予感がする。

「よい、許す」

私の声に、兵士の顔が僅かに赤みを取り戻す。

「恐れながら申し上げます。皇都東部、国境付近に公国の大軍勢が現れたとのことです」

耳障りな道化の笑い声かどこかから聞こえた気がした。
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