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山頂の巨人

★1 山頂に見える巨人 side:田舎の小英雄

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 早朝。村人達が農作業をし始める頃である。

昨日は大雨で、今は霞の地に美しい虹が股がる。

 今日は隣の町にある教会に司祭が来て、1年に1度の鑑定の儀が行われる。

 村に鑑定の魔道具マジックアイテムはないし、高レベルの鑑定スキルを持つ者など稀なので、鑑定の魔道具を持った司祭が辺境の町に訪れるのだ。

「おい!ビル起きろ!遅刻するぞ!」

 父が怒気が混ざった大声でビルを呼ぶ。

「ふぁーい…ねむ…今行くー」

 ついさっきに起きたばかりなのだろう。眠そうな声で爽やかなみどり色の髪のビルが応える。

「ビルったら、もう成人なんだからしっかりしなさい!リリーちゃんは先に行ったわよ!」

 母は"まったく…"と付け加える。
 リリーとはビルの同い年の幼馴染の女の子だ。
 髪は赤く、気が強くて、リーダー的存在である。

 2階からトコトコとビルが降りてくる。

「ほら!これさっさと食べて!馬車の出発まで後10分しかないわよ!」さっさとしなさい!」

黒いパンを鷲掴みにして運ぶが、入りきるサイズではない。

ビルは硬ったいパンを咥えたまま身支度をする。

咥えたまま扉を肩で押す。

「いってきまーす」



 5分位走って、家畜臭い匂いを嗅いで、馬車の所まで着いた。

「おそーい!」

前方から強烈な

危険信号の色。

迫り来る二の腕。

首に受ける衝撃。

吹っ飛ぶメガネ。

一回転する体。

跳ねる泥水。

埋まる頭。

「泥だらけなんですけど…」
「ごめん、やりすぎた。」

馬車にガタガタ揺られ、凹凸の激しき道を進む。

危険信号…じゃなくてリアレルアリリー・ファスター
騎士爵。ファスター家の三女。

特段凄い家ではない、ただ戦争で生き残った現当主夫婦が故郷を褒美に貰っただけだ。

「水だす魔法で洗えばいいじゃない!」
「水浸しになるんですけど…教会行くだけだからタオルなんて持ってないんですけど…」
「自然乾燥でいいじゃない!」
「僕たちだけじゃないでしょ!」

御者が帽子をとる。ファスター家の家臣の人だ。先々月から御者の練習していた人だ。

僕はリリーと仲が良いからギュウギュウの馬車に乗らないで済み、椅子に座ってられてる。

椅子とはいっても、一般の馬車を改造したものだ。当主自身が。

御者だけじゃない、向かいの席に金髪ピクシーヘアーの少女。

ファスター家の、プロトベティ・ファスターのロディ。
いつもこの3人組で遊ぶ。

「俺は構わない」
「僕が構う!!」
「いいから!さっさと!脱ぎなさい!」
「ちょっ!あ~れ~~!」

どうも、パンツ一丁で教会に向かうビルです。

「タオル、良かったらお貸ししますよ」
「う~///、ありがとう御者さん」
「なに女の子みたいなこと言ってんのよ」
「シャキッとしろよ」

御者さんがくれたタオルを羽織る。
外に向けて服の泥を振り落とす。

魔法で石の桶を作り、水を入れ、服を洗う。

「うへ~、背中ヤッバ」

魔法で石の物干し竿を作り、服をかけて、魔法の温風で乾かす。

「ビルの魔法、便利だな」
「どうやって使えるか教えてくれないし、ずるいよね!」
「え~~…どうやって教えるか分かんないよ、これは」

原理はわからない。
リリーのお母さん、ファスター婦人が使っている所を見せてもらっただけで出来ただけだ。

「僕はリリーたちの方が羨ましいよ」

リリーは剣術が凄い。村で1番強い。
つまり、領主より強い。

リリーと領主の打ち合いを前に見たとき、その力量にかなりの差を感じた。

「加護」やら「天命」やら聞こえたけど、村にある本でそれらの言葉の意味が分からなかった。

ロディは僕と同じく魔法が使える。ただ、詠唱が必要なんだ。

大岩を消し飛ばしたり、大雨を降らせたり、規模が凄まじかった。

魔力の量の関係で僕には出来ない、攻撃魔術。



僕ら3人はお互いに能力を敬い合う。
だから、社会的格差があるのに友情が成立する。
力の均衡が保たれてるから対等でいられる。

僕はそう思っている。



「そろそろ乾いたかな?」
「ビルの魔法はやっぱ凄いね!」











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