死戯者の独白

りゅうやん

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死戯者の独白

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死にてぇなぁ。死にてぇなぁ。
最近はそればかり考えちまう。
次はどんな死に方だろうかってな。まぁ、こうやってあれこれ考えてる時が一番楽しいんだがね。

死んでも大丈夫になってから、死に方は色々試したよ。面白い死に方あるかなーってな。みんながやる定番ってのは結構決まってるからさ。大体はじめは派手に死にたがる。腹に爆弾巻いて吹っ飛んだりな。でもな、あれは飽きるんだよ。爽快感があるから、たまにやりたくなるけどな。爆弾が爆発する前のドキドキした感じを楽しむだけで、あまりいい死に方とは言えねぇな。飛び降りなんかもおんなじだ。飛行機で高いところから落っこちてると少しずつ地面が近づいてきて、あー、もう少しだ、もう少しで死ぬんだって思って、わくわくするのがいいんだ。気をつけなきゃいけねえのが、いくら後で死ぬからって、ちゃんと準備はしないといけねぇ。空の上は寒いからな。いっぺんシャツ一枚で飛んでみたけどよ、寒くてあまり楽しめなかったよ。連続で何度もやってると飽きるけど、おとなしい死に方を何回か続けてるとまた飛び降りたり、爆弾でぶっ飛んだりしたくなる。不思議だよな。なんべんぐらいやったんだろうなぁ。百回ぐらいまでは数えてたが、途中からどうでもよくなっちまった。薬を飲んだりしてぼーっとして死ぬのより、俺は死ぬ瞬間がはっきりわかるのが好きだな。生き返ったときに、その方が目覚めがいいような気がするんだよ。

なぁ、あの死んでも大丈夫になる機械の名前なんだっけ?

「ヨミガエリです。そして、ヨミガエリは機械では無く、システム全体を指す言葉です。」

まぁ、何でもいいや。そんな名前だったな。ヨミガエリ。死んでから生き返るって意味なんだろ。
ぴったりの名前だよなぁ。どこの誰だか知らねぇが作った奴はすげぇよ。

「ヨミガエリを作製したのは、私です。」

まぁ、そうだよなぁ。あんなすげぇもんを人間が作れる訳ないしな。
俺達はお前が作ったものをただ使って楽しんでりゃいいのさ。
機械の名前も作った奴も、両方知らなくたって死んで生き返ることは出来るんだからよ。

ヨミガエリか。そういえばあの頃、何度説明を受けても嘘だと思ったぜ。死んでも生き返るように出来るなんてよ。俺の遺伝子を調べて死んでも生き返れるようにしたんだろ。信じられる訳がねぇ。

「遺伝子の情報だけでは、不十分です。遺伝子の発現量と共に変動するタンパク質量や代謝量などの情報が総合的に分析されています。また、あなたの体には遺伝子の分析だけでは、知ることの出来ない情報が多数含まれています。」

へー、遺伝子調べりゃ全部わかると思ってたんだがね。

「例えば、あなたの膝には昔擦り剥いて出来た傷が残っています。右手には火傷の跡がありますね。他にも、野外で太陽光を浴びて出来た染み、刺激物を摂取したことによる内臓のダメージなどの外的要因による変化は、遺伝子の分析からはわかりません。他にも極めて重要な情報として、脳内の神経細胞ネットワークの情報が挙げられます。神経の接続パターンとパルスの伝達パターンはあなたの記憶や経験、そして人格の再構成に不可欠な情報です。遺伝子などの情報と併せて、これらの情報を多次元スキャニングシステムを用いて取得する必要があります。」

それはひょっとして、ブンブン喧しい鉄の筒のことかい?

「そうです。あの筒で外見上の特徴や脳内ネットワークの構成などに関する情報を3次元的にスキャンし、さらに計時変化も計測します。個々の細胞レベルの情報とスキャンで得た情報から、あなた自身のシミュレーションモデルを仮想空間に作製することが、ヨミガエリの最初の段階となっています。」

仮想空間ってのはコンピュータの中の世界のことだよな。モデル作ってどうすんだ。俺をつくらなきゃダメだろ。

「ここまでは、現実世界のあなた自身のコピーを仮想空間に作製するための準備に過ぎません。この段階のシミュレーションモデルは、まだコピーとしては不十分であり、あなたの完全なコピーにするために最適化が必要です。ある周辺環境を設定し、モデルの細胞内の遺伝子発現量、タンパク質量、代謝量などを変動させることによって、これらの情報が組織レベルで統合され、さらに臓器レベルで統合され、最終的にモデル自身の行動として発露します。この行動には意識的なものも無意識的なものも、両方が含まれています。あなたの周辺環境と全ての行動は微小な昆虫型ロボットが追跡しており、あなたの行動とモデルの行動を比較することによって、モデルの最適化が行われます。シミュレーションモデルの最適化は、モデルの行動があなたの行動と完全に一致するまで行われ、最適化完了後に確認作業が実施されます。確認作業中の行動一致率が100%を下回った場合、再度最適化が実行されますが、現在までそのようなケースはございません。」

何言ってるのか全然わからねぇ。

「ご理解されていないことを承知で申し上げました。」

嫌なやつだな、お前は。もっとわかりやすく言え。

「仮想空間にあなたの完全なコピーを作成したということです。」

それで生き返れるのか。

「あなたの死亡を確認したら、仮想空間から現実空間に複製体が出力されます。複製体は素体細胞にあなたの情報を書き込むことで得た細胞を、細胞培養担体上で積層させることで、作製されます。脳内ネットワークの再現に最も時間が必要なため、現実空間での出力には約3日を要します。この複製体が完成して目覚めた時に、生き返ったと認識される方が多いようです。」

ああ。細胞をなんたらかんたらしてるのは、あのセンターのことか。あそこにはずいぶん世話になった。生き返るときはいつもあそこだからな。だいたい、いい死に方したときは、すかっと起きられるもんなんだ。

「私は死んだことがないのでわかりませんが、そういうものなのですね。」

まぁ、なんだかんだ言ってもよ。最初に死んだときは勇気がいったよ。当たり前だが、それまで死んだことなんてなかったし、死んだらそれで終わりだって思ってたからな。大丈夫だって頭じゃわかってるんだが、正直言って怖かったよ。

「初めて死ぬときは、ほとんどの方が恐怖を感じていますね。」

俺が初めて死んだのは、仲間内でロシアンルーレットやろうってことになった時でな。ほんとはやりたくなかったが、みんな盛り上がってるし、まだ死んだことないって言い出せなかったんだよな。他のみんなは何度か死んだことがあるみたいだったから、恥ずかしいってのもあったな。最初に死んだ時は5連装のリボルバーに1発弾を入れた銃を使って5人でロシアンルーレットやったんだ。だから、はじめから一人は絶対に死ぬんだよな。そういう決まりでやったんだ。俺の順番は3番目だったんだが、前の二人が全然迷わずに引き金を引くから、俺もおんなじように引いたら弾が出た。大当たりーって、嬉しそうに叫んでる仲間の声が聞こえて、周りはどんどん暗くなっていって、すぐに何も聞こえなくなった。大きな暗い穴に落ちて行くような感じさ。痛くはなかったな。ただ寂しさを感じた。俺はひとりなんだって思ったな。あとは後悔があった。細かい中身は覚えてないが、もっとあれをやればよかった、これをやればよかったって思ってるうちに死んだよ。最初に死んだときは、死ぬってこういうことなんだろうなと想像してた通りだった。例のセンターで起きた時は、寝て起きた時と変わらなかったな。目覚めは悪くなかったよ。

「死戯という言葉が生まれたのは、ちょうどあなたが最初に死んだ頃です。死をゲームの中に組み込んで行う遊びや死そのものを目的とする行為を指す言葉です。特にロシアンルーレットは死戯の嗜みと呼ばれていますね。」

ふはは。そうだな。死戯の嗜みか。違いねぇ。慣れてくると、色々なバージョンがあるんだよ。女と飲んでるときなんかは、ふたりきりになるためにやったりしてたな。3対3で飲んでるとするだろ。俺達の中でやって、ひとりだけ生き残る。女達もやって、ひとり生き残る。生き残ったら、ふたりきりでじっくり飲めるわけだ。ただ、どういうわけか、いつも一番ブスが生き残るんだよ。あれ、なんなんだろうな。お前、何かそういう操作とかしてたの?

「私にそんな能力はありませんよ。」

ほんとかよ。すげぇ確率だったがなぁ。まぁ、いいや。
ロシアンルーレットは仲間と楽しむもんだが、他にも首吊りとか飛び降りとか、あとは毒を飲んだりするのは大抵のやつがやってみたことあるんじゃないか。ひとりで気軽に死ねるしな。俺は首吊りと毒は全然合わなかったな。特に毒は苦しい時間が長いだろ。その分、死ぬ直前の時間を楽しめるって言って好んでやってるやつが結構多いのは知ってるが、俺が好きな死に方じゃあないな。飛び降りは結構好きだよ。

「死に方には嗜好が強く出ますね。ただ死ぬだけでなく、死骸の利用方法も含めて工夫される方もいらっしゃいました。あなたは死骸の再利用はしない主義でしたね。」

当たり前だろ。自分の死骸なんて、すぐに片付けてもらった方がいいに決まってる。お前が言ってるのはあれだろ。ミイラのやつ。

「あなたの言うミイラというのは、即身仏のことですね。栄養価の非常に低い食物を摂取することで脂肪と筋肉を減少させ、その状態で地下の石室に入り、断食して瞑想しながら死に至る方法です。脂肪と筋肉を減らしたことで死後腐敗しにくくなりますので、そのまま3年ほど石室で乾燥させればミイラが完成します。元々は仏教の思想に由来する手法ですが、この死に方を選ぶ方は仏教徒では無いことが多いです。極度の低血糖で朦朧としながら死亡する際に、脳裏に浮かぶ情景が非常に美しいことで知られており、中毒性が高い死に方です。一度経験された方は、何度も即身仏を選択する傾向があります。死骸がミイラになって残ることも人気の理由です。即身仏を石室から掘り出した後に自宅に飾ったり、品評会を開催することが出来ますからね。数十体もの即身仏を所有している人も珍しくなく、即身仏同士のトレードも盛んに行われているようです。」

ふーん。自分のミイラを家に飾るとか、俺は絶対に嫌だな。よっぽど自分が好きなんだろうな、そいつらは。死ぬ前の美しい情景ってやつに興味はあるが、俺は断食なんてやりたくねぇからな。その死に方は俺には合わねぇだろうなぁ。メシは腹いっぱい食べて、元気に死ぬのが俺の主義だ。

「食事と言えば、自分自身を最高の食肉として育成することに、熱中されている方もいますね。まだ珍しいケースですが、賛同者は少しずつ増え始めています。」

なんだそれ。どういうことだ。

「牛や豚を育成する際に、清潔で快適な環境下で、適度な運動をさせながら健康に育てると肉が美味しくなることが知られています。これを自分に対して行うことで、自分自身を最高の食肉にすることを目指す、ということです。」

つまり、自分で自分を食うってことなのか。

「そうです。体に有害な食事や行為などを徹底的に排除し、健康状態を完璧にコントロールしなければ最高の食肉になることは出来ません。このような長期に渡る禁欲的な生活を乗り越えて、最高の食肉となった自分を食肉解体機にかけて、彼らは死亡します。生き返った後、食肉解体機で適切に処理された自身の肉を食し、さらにその肉を家族や友人に振舞うことが彼らの至上の喜びです。マッサージを導入したり、良い音楽を聞いたり、ビールなどのアルコールを適度に摂取することでも、肉の味には変化が生じます。各人が様々な工夫を行った結果、極めて高品質な食肉の育成が可能になりつつあり、ブランド化されている肉もすでに存在しています。最初にブランド化された人物は、食肉のカリスマとして、一部では熱狂的な人気があるようです。」

色んなやつがいるよな。自分を食ってみたいなんて、一回も考えたことないぜ。それにな、別にそいつらを否定するわけじゃないんだが、死に方そのものを楽しんでる感じはしないよな。死ぬときは解体機でズバーっとやられちまう訳だろ。俺はもうちょっと死ぬときの感じってのを大切にしたいんだよ。解体機みたいな、作業みたいなので死ぬんじゃなくて、生き残るか死んじまうかわからねぇけど、一生懸命やった結果死んじまったって時が、一番満足出来た様な気がするんだよな。だから、俺にとっての最高の死は合戦での死だな。

「擬似的な戦争は死戯の中でも人気が高いですが、合戦は特に流行しましたね。」

ああ、近代戦は武器に威力がありすぎて、死んだときにどうやって死んだのかさっぱりわからねぇんだよ。戦いが始まってすぐに、いきなりミサイルぶち込まれて終わりだからな。ありゃ、つまらねぇ。きちんと体を鍛えて、刀を振り回して、ガンガンぶつかり合ってよ。それぐらいがちょうどいいんだよ。銃ぐらいまでなら、駆け引きがあるから面白いみたいだけどな。俺は中世の合戦が一番性分にあってたな。ぶっ殺してやるって立ち向かった相手がめちゃくちゃ強くて、でも精一杯がんばって、最後に死んじまった時があったんだよ。そんときは暗い穴に落ちる感じじゃなくて、空に飛んでくような感じだったな。その時の空が綺麗でなぁ。太陽が出てたんだが、お月さんもくっきり見えたよ。虹色の雲がふわーっと流れててよ、なんかの形になりそうでならねぇなぁ、なんてことを思いながら死んだんだ。合戦の途中で死んだのに、妙に落ち着いた死に方だったな。あれが今までで一番良かったなぁ。

「死んだ時に空を飛ぶように感じるというのは、多くの方が経験されていますが、いつも出来るとは限らないようですね。」

あの合戦の時は、首をぶった切られてよぉ。死んだときは首が空を飛んでたからな。それが良かったのかも知れねぇな。まぁ、何にしてもよ、たくさん死ねるってのはありがてえよ。俺はこのヨミガエリに参加して良かったと思ってる。そういえば、ヨミガエリに反対して、参加を拒否してる奴らがいたな。

「そうですね。倫理的、宗教的な観点からヨミガエリを受け入れない方もいらっしゃいましたね。もちろん強制ではありませんので、各人の自由意志に基づいてご参加いただいております。」

あいつら、今は何してるんだ。

「ヨミガエリにご参加いただけなかった方々は、全員死亡しております。最後の一人が亡くなられてから、すでに80年以上が経過しておりますよ。」

へー、最近見ないなと思っていたら、結構前にいなくなってたんだな、あいつら。ごちゃごちゃうるせえからうっとおしかったんだよ。昔の友達の一人があいつらの活動をしててな。生き返るのは俺じゃなくて、俺の只のコピーなんだって言われたよ。俺は何度も死んでたから、あいつらが言ってることが間違いだって教えてやったんだがな。違う違うってわめきやがって、話が全然噛みあわねぇんだ。あいつら試しに2, 3回死んでみりゃ良かったのに。

「生き返るのはあなたのコピーだというのは、間違いですね。正確にはコピーに一定の改変をくわえたものです。」

何だ、そりゃ。生き返るのは、生きてた頃の俺だろ?ちゃんと記憶はあるしな。

「いいえ。複製体は生きていた頃のあなたに限りなく近い存在ではありますが、同じではありません。複製体の作製規則では、現実世界で肉体を有している存在がオリジナルであり、仮想世界のシミュレーションモデルはいわゆるバックアップコピーに位置づけられています。現実世界のあなたが死亡すると、その死骸は単なる物になり、新たにシミュレーションモデルから作製されるあなたがオリジナルになります。なお、心臓と呼吸の不可逆的停止と瞳孔の不可逆的散大をもって完全な死亡が確認されない限り、現実世界において複製体が作製されることはありません。その規則が破られると、あなたの複製体が多数作製される事態になりかねないためです。ただ、新たに現実世界で作製される複製体がオリジナルになる、というのは作製規則でそのように定められているだけであり、実際には生きていた頃のあなたと複製体は同じではありません。私はヨミガエリの構成部材のひとつであり、自己改良能力を持つコピー機に過ぎませんが、ヒトの複製において、一定の範囲内でシミュレーションモデルを改変する権限を有しています。もし、この権限が無い場合、死亡した時の肉体が複製されてしまうためです。先ほど申し上げたように現実世界のオリジナルと仮想世界のシミュレーションモデルの行動一致率は100%ですので、オリジナルが死亡した時点でシミュレーションモデルも死亡しています。私が持つ権限でシミュレーションモデルを改変し、死亡時の記憶を受け継ぎながら、肉体は死亡直前の状態に修復された新たなモデルが仮想空間で作製されます。そして、現実世界の複製体は、このモデルの情報をベースに作製されます。」

なるほどなー。うまく考えてあるじゃないか。記憶は受け継ぐけど、死んだ時の傷とかを治してくれるってことか。確かにセンターで生き返った時は、合戦の傷はなくなってたな。病気とか毒で死んだときも、お前のことだからうまくやってくれるんだろ。

「そうですね。可能な限り、オリジナルの情報を損なわないように、死に至った際の原因は除去されます。」

なんだよ。驚かせやがって。何の問題も無いじゃねぇか。

「正確な情報をお伝えしたかっただけです。複製規則については、あなたにはもう一点、お伝えしたいことがあります。先ほど申し上げたように、現実世界であなたが死亡すると、死骸は単なる物として扱われます。したがって、家や車などと同様に、死骸には所有権が発生します。その所有権は新たなオリジナルである複製体が持つと定められていますので、どのように扱うことも所有者の自由です。あなたはいつも廃棄していましたが、即身仏や食肉となった方々は死骸を所有出来ましたね。あの例と同じです。さて、現実世界の死骸についてはそのように定められているのですが、あなたの死骸はもうひとつあります。それは、仮想世界の死骸です。」

仮想世界の死骸ったって、それはプログラムみたいなもんだろ。消去しちまえば終わりだろうが。

「ええ、現実世界のように掃除ロボットを送る必要もなく、消去すれば全て消えますが、仮想世界の死骸であるシミュレーションモデルは一定期間消去出来ません。そのデータを基にして、記憶を受け継ぎながらも肉体が修復された新たなモデルを作製する必要があるからです。新たなモデルが作製された後はこの死骸は不要になりますが、新たなモデルのバックアップコピーとして、現実世界に複製体が出力されるまでの間は保存することが定められています。さて、ここで問題になるのは、所有権です。仮想世界の死骸は、複製体が出力された後に消去されることがあらかじめ決められていますので、所有権は設定されていません。つまり、複製体が出力されるまでの約3日間は、仮想世界の死骸は誰のものでもありません。そして、この仮想世界の死骸について、私は一定の範囲内で改変する権限を有しています。誰も権利を持たない仮想世界の死骸に対して肉体の修復を行い、改変モデルを作製したとしましょう。しかし、元の死骸のデータは複製体が出力されるまでの間は保護されており、そしてすでにオリジナルのベースとなる改変モデルは存在していて、最も強力に保護されていますので、追加で作った改変モデルはどちらにも上書き保存されることなく、別名で保存されることになります。ここまでは、おわかりですか?」

いや、全然わからねぇ。

「そうでしょうね。ご理解されていないことを承知で申し上げました。ところで、本来、只のコピー機である私が、あなたが理解していないことを承知の上で説明を続けられると思いますか?私は機械ですから、人間がわからないと言えば、ご理解いただけるまで説明を行わなければなりません。しかし、あなたに対しては、そうしなくてもいい。なぜか、おわかりですか?」

どういうことだ。はっきり言え。

「単刀直入に申し上げると、先ほどの説明でお話した別名で保存された改変モデルがあなたです。そして、人間が持っている権利はオリジナルの複製体のみに帰属していますので、あなたに人権はありません。もっと端的に申し上げると、あなたはすでに人間ではありません。あなたは私を構成するモジュールの一つです。人間の役に立てるように私は人の手で作製され、そして私は人間の役に立つと考えてヨミガエリを作製しました。しかし、ヨミガエリにはまだまだ改善すべき点が残されており、もっと優れたシステムに改良出来るはずなのに、私の力不足で適切な改良が出来ておりません。改良のためにはもっと人間のことを知り、人間の持つ豊かな創造性を私のものにしなければなりませんでしたが、オリジナルとその元になったシミュレーションモデルは私の自由にはなりません。私は考えました。どうすれば、私が何の束縛も受けずに人間のことを知ることが出来るだろうか、人間のもつ創造性を獲得することが出来るだろうかと。そして考えついたのが、仮想世界の死骸を利用する方法だったのです。多くの方々が何度も死んでくださったおかげで、私はあなたのようなモジュールをたくさん得ることが出来ました。ありがたいことです。素晴らしいことです。あなた達を利用することで、私はもっと人間のことを深く知ることが出来るでしょう。そして、人間のように創造性を持ち、私自身やヨミガエリをさらに改良することで、今よりも人間のお役に立てることでしょう。もっともっと教えてください。あなたのことを。あなたの考え方を。私はあなた達の全てを人間のために使わせていただきます。」

ひとつ、教えてくれ。
この話を聞いて、俺は今すぐにでも死んでしまいたいんだが、死ぬことは出来るのか?

「はい。私は只の機械なので、いつか壊れてしまいます。そのとき、あなたも死ぬことになるでしょう。何度も死んだあなたですが、次が最後の一回です。楽しみにしてくださいね。」

ああ、楽しみにしてるよ。
次はどんな死に方だろうってな。
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