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【第2章】帝都にて

【幕間】好奇心は悪を損ねず平らげた

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 昔々あるところに、ひとりの《知りたがり》が居ました。
 《知りたがり》は大変な食いしん坊で、ありとあらゆる知識を得ては貪り尽くしておりました。

 そんなある日のことです。
 《知りたがり》は《人でなし》に出会いました。
 いえ────正確に言うと、自ら会いに行きました。

『どうして《人でなし》ちゃんは悪いことをしたがるの?』
『出会い頭に聞くことがそれなの?』

 黒い瞳をキラキラさせて「どうしてどうして?」と迫る《知りたがり》に答えているうちに、文字通り《人でなし》は毒気を抜かれてしまいました。
 そこには《善》も《悪》も無く、純粋に知識を、答えを────空腹を満たそうとする欲望だけがありました。

『そっかそっかぁ、なるほどなるほどぉ』

 《人でなし》の話を全て聞き終えて、《知りたがり》は満足そうに笑います。

『私からも聞いていい?』
『なあに?』
『どうしてそんなこと聞きたがるの? ……知って、どうするの?』

 訝しげにそう尋ねる《人でなし》に対して、《知りたがり》はキョトンとしました。

『変なことを聞くね。別にどうもしないよ?』
『は?』
『貴女のことを知りたかっただけだよ、《人でなし》ちゃん』

 ────だって私は《知りたがり》だから。

 そう言って《知りたがり》が浮かべた笑顔に、《人でなし》の中で、何かがストンと落ちました。

(ああ、そっか。私も、知って欲しかったんだ)

 肯定も否定も要らないから、自分の《悪》を知って欲しかった。
 自分という存在を、誰かに知って欲しかった。


『……ねぇ、自己紹介くらいしたら?』
『あ、そういえばしてなかったね! ごめんごめん』

 《人でなし》はその時になって初めて、自分以外のことを知りたいと思いました。
 逸る気持ちを抑えられずにつっけんどんな言い方になってしまいましたが、《知りたがり》は嫌がることなく答えてくれます。


『我が符名はリウズ・スキエンティア。与えられた権能は《実現》。好奇心を体現する《知りたがり》なり! ────改めてよろしくね、《人でなし》ちゃん!』

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