黒蜜先生のヤバい秘密

月狂 紫乃/月狂 四郎

文字の大きさ
17 / 17

エピローグ

しおりを挟む
 校長の怖すぎる「解決編」が披露された後日、松本と森内は「謎の体調不良」で休みはじめて割とすぐに転校していった。退学や逮捕にならなかったのは、校長と水面下で折衝でもしたのだろう。

 実行犯の女子生徒も、松本たちに脅されていたことや、涙ながらに反省の弁を述べていたことから更生の余地ありと見なされ、誹謗中傷の手紙を投函したことについては実質的に不問となっている。

 俺たちのクラスには平和な日常が戻って来た。それでも声のでかい奴らはいるけど、アホみたいなスクールカーストが幅を利かせることは前よりもないだろう。

   ◆

「今日も熱心だね」

 放課後、ゲラをチェックしていると黒蜜先生に話しかけられる。思えばこうやって彼女と急接近したんだったな。

「はい。紙に出してみないと、どうも見落としがあるみたいで。読者も待っているみたいだし」
「なんか、本物の作家さんみたいだね」

 夕陽の差す窓から柔らかな風が流れてくる。太陽の光に染まったカーテンが、教室の内側へとなびいていた。

 夕陽に照らされる黒蜜先生は綺麗だった。まだ一緒に過ごした期間は短いけど、この人が残ってくれて良かった。

「ねえ、こんな話が読みたいって言ったらリクエストは受け付けてもらえる?」

 机の傍で俺を見下ろす先生が、ふいに口を開き出した。

「まあ、可能な限りは」

 意味は言葉の通りで、本格ミステリとか三島由紀夫みたいな純文学を書いてくれなんて言われても俺には書けない。そういうのを書くのには、特殊な才能が必要になる。

 先生がイタズラっぽい笑みを浮かべる。

「あのね、アイドルがスキャンダルの疑惑をかけられて大ピンチになるんだけど、それを乗り越えて人気が出て、最後に武道館に立つ話」
「それって……」

 先生は笑っている。

 半分ぐらい、先生の自虐ネタだ。

 黒蜜先生はやっていない枕営業の疑惑で芸能界から葬られた。今のくだりは、どうしてもその黒歴史を思い出させる。トラウマでしかないネタだろうが、そんなものを小説にしてもいいのだろうか。

「だって、あったかもしれない未来を書くのも小説でしょ?」
「はあ、まあ……」
「だったら、それは素敵な未来の方がいいに決まっているじゃない」

 そう言って先生は少しだけ悲しそうに笑った。

 ああ、そうだな。あったかもしれない未来を書いて、希望を与えるのも作家の仕事だよな。

 悲しくて気が滅入るような作品も面白いけど、読んで「頑張ろう」とか「生きよう」って思う作品はプロの小説でもそう多くない。だったら俺がその紡ぎ手になるという手もあるのか。妙に納得してしまった。

「そうですね。それ、面白そうです」
「でしょう?」
「書きますよ。絶対に面白くするんで読んで下さい」
「もちろん」

 書くと決めると、あっという間にストーリーが浮かんでくる。

 主人公のアイドルが、武道館で歌い踊る姿。前後に揺れるサイリウム。あちこちから聞こえてくるファンの歓声。あとはこの映像を文字に変えるだけだ。

 映像で歌っているのはもちろん月海カリン――かつての先生の姿だった。

 彼女が叶えられなかった夢を、小説の「もしも」の世界で具現化する。それはきっと彼女にとって希望になり救いになる。そんな気がした。

「あ、でもさ」

 ふいに先生が何かに気付いたように言う。

「少なくとも小説の世界では、須藤君は私の推しってことになるね」
「まあ、たしかに」
「それじゃあ、これは私の推しが、他ならぬ私のために書いた小説ってことにもなるよね」
「うん、まあ、そうなりますね」
「なんか、すごいね。アイドルの歌ってさ、特定の誰かじゃない『キミ』に届ける内容が多いんだけど、なんとなくファンの気持ちが分かった気がする」

 たしかにアイドルの歌では「君」とか「あなた」とか、名前の出てこない誰かが愛されていることが多い気がする。中には「これは俺に向けて歌っているんだ」と思う人もいるんだろうか。いたらヤバい奴だけど、密かに自分のことだと思っている人は一定数存在するだろう。

 先生は子供みたいに目をキラキラさせている。良くも悪くも純粋過ぎる人だけど、この人を笑顔にしてあげたいなとは思った。

「じゃあ、すごく楽しみにしているからね」

 そう言って先生は教室を去って行った。

 夕陽に照らされる背中が、観客に惜しまれつつ退場していくアイドルの姿とダブって見えた。まるで、武道館にでもいるみたいに。

 彼女が今も現役だったら、一体どんな光景が見られたのだろうか。それが見られないのは残念でもある。でも――

 ――出会った場所が武道館でなくても、俺は一生あなたを推していくよ。

 誰にも聞こえない独り言は、そよ風に乗って教室の空気へと溶けていった。

   【了】
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...