ジャック・ザ・リッパーと呼ばれたボクサーは美少女JKにTS転生して死の天使と呼ばれる

月狂 紫乃/月狂 四郎

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重大発表

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 部屋に戻って来ると、珍しく山中が来た。目つきの鋭いお付きの者が複数付いて、反社のゴレンジャーみたいにゾロゾロと部屋へと押しかけてきた。

 なんだか物々しい空気だったので、あたしは後ろ手で菜々さんを背後に移動させた。山中が蛇みたいな目をしながら口角を上げる。

「よう、ずいぶんと人気者になったじゃねえか」
「顔を見せるのは久しぶりだね」
「ああ、準決勝に勝ったから直接祝福してやろうと思ってな」

 山中はそう言って勝手に一服しはじめる。お付きの半グレみたいなのが山中のタバコに火を点けた。

 旨そうにタバコを吸ってから、山中は続きを言いはじめる。

「まずは決勝進出おめでとう。想像以上の熱戦を繰り広げてくれたお陰で、世界中にいる視聴者も満足している」
「え? これって中継されているの?」
「ああ、もちろん非公式にだけどな。動く金額が大きい方が金になるだろ?」

 山中は当然という顔で煙を吐き出した。

「で、次にあたしが勝てば本当に解放してもらえるんだよね?」
「もちろんだ。俺は約束を守る男だ。次で勝って、見事に大金を稼がせてくれれば無罪放免。お前も恋人の菜々ちゃんも一緒に開放してやるよ」

 ――あたし、別に捕まるようなことはやってないけどね。

 抗議の言葉が浮かんだが、ここで言い争っても不毛すぎるので黙っていた。

「それで、わざわざ来たってことは何かあるの?」

 あたしはかねてからあった疑問を口にする。

 次の決勝を前にして、何もないならわざわざ部下を引き連れてあたしの部屋まで来ないだろう。つまり、何か重要な用事があってこの部屋を訪れたということになる。

 山中はあたしの意図を汲み取ったようで、ここに来た理由を説明しはじめる。

「さっきも言った通り、次が決勝になる。そこで勝てばお前は晴れて自由だ。だが、この闘いをこの小さな格闘技場で終わらせるのはあまりにも惜しい」
「……」

 あたしがその意図を理解しかねていると、山中は説明を続ける。

「さっきの試合はこの地下ボクシングを始めて以来、類を見ないほどの注目が集まった。日陰者の作ったコンテンツと思えないぐらいにな」
「そりゃずいぶんと喜んでもらえたようだね」
「ああ、だから思ったんだ。決勝をこんな小さな会場で終わらせるのはもったいないってな」

 山中がニヤリと笑う。

「つまり、決勝戦はもっと大きな会場でやるってこと?」
「そうだ。察しがいい奴は好きだぞ」

 なんだか、嫌な予感がしてきた。あたしのテレパシーが伝わったのか、山中がもったいぶっていた大発表()を口にしはじめる。

「次の試合は、海の上で行う」
「……は?」

 あたしは理解が追い付かず、ポカーンとするしかなかった。

 いや、海の上で闘うってどういうことよ?

「決勝戦の試合はカリブ海に浮かんだカジノ船を使って行う。そこには何人ものセレブが集まって来る。余興であり、賭け事の対象でもあるこの決勝戦を観にな」

 山中が思い付きで立ち上げた企画を要約すると次のようだった。

 この裏ボクシングは世界中にいる山中の「顧客たち」に好評を博して、想像以上の反響と金が動いた。これに気をよくした山中は、思い付きと勢いでカリブ海に浮かぶカジノ船で決勝戦の開催をする企画を立ち上げた。

 案外このコンテンツを追っていた協力者たちは多く、金持ちの道楽とあり余った無駄な実行力で豪華客船な決勝戦が決まったとのことだった。

 正直なところ、この話を聞いた時はガチでポカーンという反応だった。だって、プロボクサーの有名どころだって海外での豪華な試合なんてそう経験出来ないのに、なんであたしみたいなイロモノがそんな舞台に立てると思う?

 普通に考えたら絶対にありえない話だった。

 だけど、そもそもここの裏ボクシング自体がまともな存在ではない。そう考えると、金持ちたちが本気を出せばこういう「遊び」も出来てしまうのかと妙に納得した。

「そういうわけで、これから海外に行くぞ」
「えー」

 思わずマスオさんみたいなリアクションになる。どんだけお前元気なんだよと呆れてしまった。

 その時、あたしの中にふと疑問がよぎった。

「ところで、それだけの注目を海外でされるってことは、相手もそれなりに有名な人なの?」
「ああ、もちろんだ。誰でも知っているようなネット有名人だぞ」

 ネット有名人……。なんだか、吾妻タツのようなろくでなししか浮かばないのは気のせいだろうか。まあ、あいつみたいに弱い奴だったらそれはそれで楽なんだけど。

「次は火星人でも出てくるの?」

 軽口のように言ったけど、半分ぐらいは本気で訊いていた。UMAに迦米レオン、人外としか思えない奴らとの闘いを経た後では決勝戦で火星人が出て来ても何ら不思議には感じない。

「安心しろ。次はまともな人間だ。その代わり、勝てるかどうかは別の問題だがな」

 山中は自信ありげに言った。前に出てきた奴らがまともな人間ではないという認識はあったようだった。

 ってそんなことはどうでもいい。一体誰なんだ、次の相手は。焦らすだけ焦らして、山中がついに口を開いた。

「それじゃあ聞いて驚けよ。決勝戦の相手は……」
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