ジャック・ザ・リッパーと呼ばれたボクサーは美少女JKにTS転生して死の天使と呼ばれる

月狂 紫乃/月狂 四郎

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安堵と激励

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 レフリーが試合終了を告げて手を振ると、セコンドのぶーちんと菜々さんがリングへと飛び込んで来た。ぶーちんはともかくとして、菜々さんまで大逆転の満塁ホームランを味方が打ったみたいに大喜びだった。

 あたしも彼らと一緒に飛び跳ねて喜んだけど、すぐにフラフラっとなってぶーちんに支えられる。

「……マジで、死ぬかと思った」

 思わず天を仰ぐ。あんな倒され方をしたことは前世でもなかったし、ましてや臨死体験みたいな経験なんてあるはずがない。

 思い返すと、あの女神との会話が本当にあったのかすら疑わしい。

 だけど、事実としてあたしは一光にKO勝ちした。とんでもない強敵だったし、生物的にはハンデ戦と言っても過言じゃない闘いだったけど、それでも勝てた。

「由奈ちゃん、本当に、本当におめでとう」

 菜々さんが感動のあまり涙を流している。

 ごめんね、菜々さん。もう二度と泣かせないって決めたはずなのに、もうその約束を破っている。菜々さんは血だらけだし汗だくなのにあたしの体をぎゅーって抱きしめてくれる。だからあたしも菜々さんを抱きしめ返した。

 離れたところで、セコンドに介抱された一光が立ち上がる。短い間気絶していたものの、そこまで深刻なダメージではないようで自力で立ち上がっていた。鼻っ柱には痛々しい裂傷が残り、そこから血が流れている。

 あたしの視線に気付いたのか、菜々さんとぶーちんもやや警戒気味に一光へ視線をやった。

 一光がこちらへ歩いて来る。

「効いたよ。今まで喰らった、どんなパンチよりも」

 一光が手を差し出した。

「そっちこそ。男子選手よりもよっぽどパンチ力があったよ」

 差し出された手を握り返す。あちこちから声援と拍手が沸いた。

 一光に賭けて大金を失った者も少なくないはずだけど、彼らからすればそれもはした金だったのかもしれない。あたしたちを包み込む温かい声援は、公式の世界戦と比べても何ら遜色がなかった。

「あなたとはまた闘う気がする」

 一光が口を開く。あたしはそれに「うん」とだけ答えた。

「次は絶対に負けないから」
「あたしだって。もっと強くなって帰って来るから覚悟していてね」

 お互いに「ふっ」と笑うと、リングを去る一光を見送った。リングに残ったあたしは、ちょっとだけ観客たちに手を振って声援に応える。

 良かった。今の心境を一言で表すなら、それ以上に相応しい言葉はない。

 色々と大変だったけど、これであたしも菜々さんも、あとはぶーちんも安全は保障されるはずだ。願望含め。

 今は一刻も早くベッドに倒れ込みたい。眠ったらまた新たな考えが出てくるだろう。それまではゆっくり休もう。
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