【完結】【R18】あなたがわたしの推しだから~幸薄いアラサー処女の不器用すぎるオフィスラブ~

月狂 紫乃/月狂 四郎

文字の大きさ
38 / 44

飲ませてどうにかする作戦2

しおりを挟む
「レイ君、ちょっと休んでいこうね」

 わたしの方がオッサンみたいなセリフを言って、自宅マンションのエレベーターに乗り込む。レイ君はエネルギー切れなのか、ドラムソロが終わった後のYOSHIKIみたいになっていた。

 酔わせて自宅へと担いでいく。酔わせてなんとかするなんて、発想は完全にオッサンな気がするけど、今のわたしにできることはこれぐらいしかない。自分の恋を成就させるために、これくらいの泥臭さはあってもいい。

 レイ君が好き。どうしようもないくらい好き。

 彼がどこかへ行ってしまうかと思うと、たまらない気持ちになる。

 思えば、わたしの人生は何だって受け身だった。自分で何かをしようとはせず、与えられた環境の中で努力するだけだった。

 それが悪いことではないんだけど、逆に言えば環境の言いなりというか、常に「いい風が来ないかな」っていう姿勢で、風が来なければ「運が悪かったね」で済ませることになる。そして、いい風もいい波もずっとずっと来なかった。

 そうやって追い風やいい波を恋焦がれている内に、あっという間に年月が経っていった。今回だってそう。わたしが動かないと、きっと何も変わらない。

 肩で支えるレイ君の重み。ただでさえわたしより体が大きいのに、力が抜けているんだから余計に重い。意識はあるけど「ううう」とか言ってるし、こんな状態でやる気になったところでできるものなんだろうか。

 ひとまず細かいことを考えるのはやめた。

 少し前まで圧倒的な歌唱力でわたしら女子たちを圧倒していたレイ君は、今や酒に溺れたロックスター……と言えば聞こえはいいけど、イケメンでもヘロヘロ過ぎてスター感が全く無い。

 なんとか階段を上がりきり、玄関の扉を開けた。部屋に彼を入れると、「吐きそうになったらちゃんと言ってね」と釘を刺しておいた。家の中に臭い匂いが充満する事態になったら最悪だ。

 ひとまず水を飲ませよう。なんでこんなにグロッキーなんだよ。いや、わたしらが飲ませたからか。ごめんね。

 レイ君はベッドを囲った壁にもたれかかり、しんどそうな顔で水を飲んだ。うん、やり過ぎた感があるな、これは。

「コーヒーでも作るね」

 夜中のコーヒーはあんまり睡眠に良くないんだけど、明日は休日なのでそんなに悪影響でもないだろう。

 コーヒーを飲むレイ君の目に、少しずつ光が戻ってくる。

「飲み過ぎたな」

 レイ君が誰にともなく呟く。

「ここは、七海さんの家、なのかな……?」

「そう。わたし、レイ君のおうちがどこか知らないし」

「そうか。それは悪いことをしたね。少し休んだら、早く帰らなきゃ」

 レイ君が申し訳なさそうに立とうとする。

「いいのいいの! わたしが好きで連れて来たんだから、気にしないで」

「気にしないでって言ってもな……」

 レイ君は女子の部屋へ入るのに慣れていないのか、それともこの後を想像して体が熱くなりはじめたのか、急にソワソワしはじめた。女性経験の無い彼でも、女の子の部屋へ入るのはそういう気持ちになってくるものらしい。

「悪いね、本当に」

「いいの。気にしないで」

「……」

「……」

 会話が続かない。異性を知らない男女同士を一つの部屋に放り込むと、こういう現象がまま起こる。

「レイ君、本当に歌が上手だよね。わたし、感動しちゃった」

「そんなこと言ったら……七……海、さんだって……さすがぃ……」

 酒が回っているのか、レイ君がものすごく眠そうに謙遜する。

 レイ君の意識は八割ぐらいがダウンしているはず。ある意味、この状態でどんな言葉を浴びせたって憶えてはいないだろう。

 ――うん、チャンスは今しかないな。

 それは唐突にやってきたけど、わたしは覚悟を決めた。

「レイ君、この前はわたしの過去を聞いてくれて、本当にありがとう。ずっと言いたくても誰にも言えないことが吐き出せて、本当に楽になった」

「……」

 レイ君は地面を見たままうなだれている。意識があるかは定かではない。だけど、そんなことはどうでもいい。

「同時にね、レイ君の話も聴けて、あなたもわたしと似たような傷を抱えているのが分かって、嬉しかった。ああ、わたし達は似た者同士が惹かれ合っていたんだなって」

 ふいに涙が出てきた。とっくに克服したはずの過去なのに、楽しい思い出も苦しかった思い出も、脳裏をよぎるたびに切ない気持ちが沸き上がってくる。

「わたしは、あなたのことが好きです。心から。これまでに会った誰よりも、ずっと、ずっと、あなたのことが大切です」

 頬を伝う涙の粒が、フローリングに落ちて跳ねた。

「あなたがシラフの時に言えなくてごめんねだけど、それでもこれは本音です。……あなたと、一つになりたい。レイ君の体温を感じて、唇を感じて、頭がおかしくなるくらい溶け合って愛し合いたい。今までずっとこれが言いたかった。だけど、拒絶されたらきっと耐えられないって、自分にブレーキをかけていた」

 涙がポタポタと落ちていく。レイ君は気絶しているのに一人で喋っていてバカみたいだけど、それでもわたしにとって、この告白を完了することには意味があった。

「レイ君、あなたが好きです。あなたと、したいです。……ダメかな?」

 レイ君は下を向いたまま固まっていた。寝てしまったか。でも、この顔から火が出るような告白を聞かれなくて良かったかもしれない。

 どうあれ、わたしは素直な気持ちを伝えることができた。きっと肝心のレイ君には何も届いていなくて、明日には二日酔いだろうけど、そんなことはどうでもいい。

 ああ、言えたなあ。レイ君は寝ているけど。

 怖くても自分の気持ちを最後まで言うことができた。次はアルコールの力を借りずに言いたい。言えるかな? いや、言えるでしょ、多分……。

 表現をぼかして「あなたとエッチがしたいです」って伝えただけなのに、全身にどっと疲れが出た。どうして人は秘めた想いを伝えようとするとこんなに疲れるのだろう?

 あーあ。言っちゃったな。レイ君は無意識の闇に沈んでいるけど。

 これで上手いことレイ君の無意識下で、わたしの言葉がサブリミナルな暗示になって、いつかレイ君からベッドに誘ってくれないかな、なんて思う。

 ……まあ、やめよう。そういう希望的観測は。そういうことをやり続けて、わたしはこの年になっちゃったんだから。本当に神様は決断力のない人に対して容赦が無いよ。

 と、その時――

「俺も、君が好きだ」

「……へ?」

 気が付くと、精悍な顔を取り戻したレイ君がわあたしを見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

芙月みひろ
恋愛
保険会社の事務職として勤務する 早瀬佳奈26才。 友達に頼み込まれて行った飲み会で 腹立たしいほど無愛想な高原宗輔30才と出会う。 あまりの不愉快さに 二度と会いたくないと思っていたにも関わらず 再び仕事で顔を合わせることになる。 上司のパワハラめいた嫌がらせに悩まされていた中 ふと見せる彼の優しい一面に触れて 佳奈は次第に高原に心を傾け出す。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

処理中です...