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学校に行くことはとても緊張することなのかもしれない。

用意するものも多かったし心の準備だって必要だ。

まずはじめにクラスの皆にどんな挨拶をすればいいのかわからない。

でもワクワクしているこの感情を表現できればいいのかな


「そんなに緊張することなんてないぞリューコ。

今日からお前は立派な中学生!それだけでもいいのさ」


車に乗って数十分

施設からちょっと離れた場所にある田舎の中学校に私は入学する。

転校生なんてあちらからすれば興味を示すものである。

だからなのだろうか







「車を凝視してくる生徒がいっぱいいるね」

「そりゃあ軍用車両で登校して来る生徒なんていないもんな~。

でもこれ私の私物だから問題ないぞ?」


問題大アリだよ

なんで中古のジープをポチが購入してそれを私物として使うのかがよくわかんない。

それどころかジープで送り迎えをしようとするポチの神経を疑うよ。

ぎゅっと手元のリュックサックを握りしめて足元を見つめると、少しばかりの不安を抱えた。

新しい環境で私は人間の友達を作れるのだろうか。私という異物を認めてくれるのだろうか。


「やっぱり緊張するか?私も学生時代はお前みたいに緊張してたよ。

でも大丈夫、きっとうまくいく。」


小さな町の数少ない信号機が停止の指示を出したのと同時に車のブレーキを掛けるポチの片手は私の頭の上に乗っていた。

優しく撫でるその手はあの時から変わらない。

その時、私の中に一つの使命的な何かが生まれた。

ポチや他の皆が悲しまないように上手くやろう


ようやく前を向こうと思えた


再び走り出してなびく髪の毛を撫でる。いつもと違う髪質だ。

赤髪は私が義獣人であることの証、無理に髪の毛を染めようとしても髪の毛がダメージを受けたと勘違いして勝手に抜け落ちて新しく赤い髪の毛が生えてくる。

散髪もダメージ判定になるのである程度髪の毛が伸びたらわざと坊主になってマシな長さに伸びるまで待つのだ。

つまり、私達の頭から昔のような艶のある本来の色の髪の毛は生えてこない。

私は黒髪のウィッグを被ってしっかりと固定している。

いつもと違う服、学校の制服だ。

夏仕様の半袖の下には体操服を着ているけど、結構制服の下に体操服を着ている生徒はいるらしいから自然に見えるだろう。


「背中のナンバーだけは見られないように努力する。」

「...そうだな。私達からすればそんなの普通の人間に見られたくないよな。」


両手でしっかりとハンドルを握りながら悲しそうに言うポチに私は気をつけるから安心してほしいと伝えた。


「さてと、ついたぞリューコ。

ここが今日からお前が通う学校、私立小鳥遊中学校だ。」


小鳥遊...鷹という驚異のいない平和な地でのびのびと学校生活を送ってほしいという願いがあるからこういった名前がついたらしい。

決してこの学校を創立した人は小鳥遊ではない。


「事務室はこっちだったけな?久しぶりにこの学校に来たな~」

「えっ...ポチってこの学校に通ってたの?」


衝撃の事実がここで判明するなんて思わなかった。

ということはポチはこの街出身なのかな?


「私はリューコのOGになるな。大先輩だぞ?」

「一日も学校生活を共にしたわけでもないのにいばらないで。」


私は顔も見たことのない人を尊敬して崇めろと言っても無理な質である。

さっさと事務室に行こうと促すとわかってるよと笑って迷うことなくまっすぐ歩いていくポチ。

本当にわかるんだな

そういえば、私はポチのことをよく知らない

出身も、過去も


わかるのはカフェイン中毒者であること、義獣人隊特別部隊の隊長であること以外に何も知らない。

いつかわかる日が来るのかな。



「ようこそ我が学び舎へ。

五十嵐灯さん」
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