最強の死者、現世に帰還す 〜闇の力でダンジョン無双〜

夢乃アイム

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第八話・第六節:力の暴走

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 カインの拳が唸りを上げる。

 俺は闇の刃を振るい、それを迎え撃った。

 刃と拳がぶつかり合い、空間に衝撃が走る。

「おおっ……!」

 カインが驚いたように後退する。

「まさか、俺の拳を真正面から受け止めるとはな……やっぱり、ただの化け物じゃねえみたいだ」

 俺は呼吸を整えながら、自分の腕を見た。

 ——そこには、さっきよりも濃く、深い闇が絡みついていた。

「……っ」

 違和感がある。

 まるで、自分の腕じゃないみたいに——冷たい。

(これ以上、力を使ったら……)

 脳裏に、何かがよぎる。

 この力は、俺のものじゃない。俺が死んだときに与えられた、異形の力。

 使えば使うほど、俺は「人間じゃなくなっていく」。

 ——それは、絶対に避けなければならないはずなのに。

「……ハハッ、なんだこれ」

 不意に笑いがこぼれた。

 身体が軽い。

 さっきまでの戦闘で疲れ切っていたはずなのに、今は妙に気分が高揚している。

 もっと暴れたい。

 もっと、この力を——

「蒼真!」

 鋭い声が響いた。

 エリシアだった。

「ダメよ、それ以上は……」

 俺はハッとして、彼女を見た。

 彼女の紅い瞳が、不安げに揺れている。

「……俺は、大丈夫だ」

 そう言ったものの、自分の声がどこか他人事のように聞こえた。

(本当に、俺は大丈夫なのか……?)

 ふと、視界が暗くなる。

 ——いや、違う。

 俺の周りの光が、闇に呑まれていく。

「おい……蒼真、テメェ……」

 カインの声が警戒に満ちる。

 俺は、自分の腕を見た。

 闇の刃がさらに黒く、深く——まるで意思を持ったかのように脈動していた。

「……っ!」

 やばい、このままじゃ——

 その時だった。

「——やめなさい、蒼真!」

 エリシアの叫びが響いた。

 次の瞬間——彼女が俺の前に立ち、両手を広げた。

「……え?」

 エリシアの両てのひらに眩い光が閃いた。目がくらみ、それ以上動けなくなる。

「あなたは……その力を制御しなければならない。でないとあなたは……その力に……」

 彼女の瞳が不安げに揺れる。

 俺は、闇の刃の生えた腕をゆっくりと見下ろす。

 ——こんなものに、頼りすぎていた。

 自分を見失うほどに。

 俺は、静かに息を吐いた。

 そして、意識を集中する。

「……戻れ」

 そう呟いた瞬間——闇の刃は霧散し、俺の腕は元に戻った。

「……」

 エリシアは安堵したように、俺を見つめる。

「……すまねぇ、少し調子に乗ったみたいだ」

 俺がそう言うと、カインは大きく息をついた。

「ハハ……なんだかよくわかんねぇが、ひとまずテメェの強さは認めてやるよ」

 彼はニヤリと笑い、拳を軽く振った。

「けどな、蒼真……お前はその力をもっと慎重に使え。でねぇと、マジで化け物になっちまうぜ?」
「……ああ」

 俺は深く頷いた。

 この力は、使い方次第で俺を人間ではなくしてしまう。

 それを忘れないように——俺は、拳を握りしめた。
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