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第十五話・第一節:決別と白い少女
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重苦しい沈黙が続いていた。
俺はゆっくりと歩を進める。背後ではレジスタンスたちの罵声が響いていたが、もう振り返る気はなかった。
誰も俺を必要としていない。俺もまた、誰かにすがるつもりはない。
だが——
「待って、蒼真」
静かな声が俺を引き留めた。
エリシアだ。
振り向くと、彼女は迷うことなく俺の隣へと歩み寄ってきた。
「お前……」
「私も行くわ」
それだけ言うと、エリシアはまっすぐ前を向く。
レジスタンスたちは何か言いたげだったが、俺たちは彼らを置いて先へと進んだ。
そのとき——
泡立つような音がした。振り返ると、石の床から生えるようにゾンビの群れが現れた。ゾンビはレジスタンスのメンバーに向かっていく。
通路の向こうから、オルド・ノクスの監視者が新たに姿を見せた。
レジスタンスの手に銃はなく、丸腰のままだった。
バタンッ!!
重い音が響き、レジスタンスと俺たちを隔てる扉が閉じた。
そこにあったはずの通路は、ただの岩壁へと変わっていた。
扉ではない。戻る道そのものが消えたのだ。
「……気にする必要はないわ。彼らはあなたを撃ったのだから。自分の選択の責任を取らなければならない……」
エリシアが冷たい声で言った。
「ああ、そうだな」
俺は淡々と答えた。俺は自分の選択の責任をどのような形で取ることになるのだろうかと思いながら。
——そして。
「やっと来たのね」
不意に、透明感のある声が響いた。
俺とエリシアが同時に前を向く。
そこに——
一人の少女が立っていた。
長く流れる髪はプラチナブロンド。前髪は短く整えられ、その奥の瞳には澄んだ光が宿っている。
だが、その外見とは裏腹に、背には大きな翼が生えていた。
蝙蝠のような形状をしているにもかかわらず、色は白。
頭には透き通るクリスタルの角が生え、腰からは白く透明な尻尾が揺れている。
まるで、天使と悪魔を掛け合わせたような異形の存在。
俺は無言でその姿を見据えた。
「あなたをずっと見ていたわ。やっぱり、面白いわね」
「……何者だ?」
少女は微笑む。
「オリジン・コアの観測者——そう呼んでおくわ」
俺の横でエリシアがはっと息を飲んだ。
オリジン・コア——その名を耳にした瞬間、研究施設にまつわる記憶が鮮やかに甦る。俺を殺そうとする白衣の男たち。奴らの所属組織の名が、オリジン・コアだった。
俺は少女に向かって足を踏み出した。
「……お前も俺を殺しに来たのか?」
少女は首を横に振る。
「まさか。私は戦うためにここにいるんじゃないわ。ただ、あなたがどこまで進化するのか、それを見届けたいだけ」
「進化……か」
仮面の奥で、俺は微かに笑った。
この異形の力を突き詰めた先に、何があるのか。
そして、こいつはそれを知っているのか——
「お前も、人間から化け物に進化したのか?」
「さあ、どうかしら?」
少女はプラチナブロンドの髪を指先で弄びながら、楽しげに言う。
「でも、あなたがこのまま進めば——いずれ、すべて分かるわ」
「……ほう?」
「それに——」
少女は、くすっと笑いながら続けた。
「あなた、かぼちゃ頭とは仲良くできそうね」
「は?」
「彼、あなたのこと気に入りそうだもの」
少女はくるりと踵を返し、背を向ける。
「また、会いましょう。蒼真」
そして、次の瞬間——
少女は、光の粒となって霧散した。
まるで、最初からこの世に存在していなかったかのように。
俺はその場に立ち尽くし、ゆっくりと息を吐いた。
(……オリジン・コアの観測者、か……)
奴らがいったい何者なのかを思い出すことはできない。俺がそれを知っていたのか、それすらも定かではない。
だが、一つだけ分かることがある。
——奴らは、俺の“進化”を望んでいる。
「……行きましょう」
エリシアが静かに言った。
俺はゆっくりと歩を進める。背後ではレジスタンスたちの罵声が響いていたが、もう振り返る気はなかった。
誰も俺を必要としていない。俺もまた、誰かにすがるつもりはない。
だが——
「待って、蒼真」
静かな声が俺を引き留めた。
エリシアだ。
振り向くと、彼女は迷うことなく俺の隣へと歩み寄ってきた。
「お前……」
「私も行くわ」
それだけ言うと、エリシアはまっすぐ前を向く。
レジスタンスたちは何か言いたげだったが、俺たちは彼らを置いて先へと進んだ。
そのとき——
泡立つような音がした。振り返ると、石の床から生えるようにゾンビの群れが現れた。ゾンビはレジスタンスのメンバーに向かっていく。
通路の向こうから、オルド・ノクスの監視者が新たに姿を見せた。
レジスタンスの手に銃はなく、丸腰のままだった。
バタンッ!!
重い音が響き、レジスタンスと俺たちを隔てる扉が閉じた。
そこにあったはずの通路は、ただの岩壁へと変わっていた。
扉ではない。戻る道そのものが消えたのだ。
「……気にする必要はないわ。彼らはあなたを撃ったのだから。自分の選択の責任を取らなければならない……」
エリシアが冷たい声で言った。
「ああ、そうだな」
俺は淡々と答えた。俺は自分の選択の責任をどのような形で取ることになるのだろうかと思いながら。
——そして。
「やっと来たのね」
不意に、透明感のある声が響いた。
俺とエリシアが同時に前を向く。
そこに——
一人の少女が立っていた。
長く流れる髪はプラチナブロンド。前髪は短く整えられ、その奥の瞳には澄んだ光が宿っている。
だが、その外見とは裏腹に、背には大きな翼が生えていた。
蝙蝠のような形状をしているにもかかわらず、色は白。
頭には透き通るクリスタルの角が生え、腰からは白く透明な尻尾が揺れている。
まるで、天使と悪魔を掛け合わせたような異形の存在。
俺は無言でその姿を見据えた。
「あなたをずっと見ていたわ。やっぱり、面白いわね」
「……何者だ?」
少女は微笑む。
「オリジン・コアの観測者——そう呼んでおくわ」
俺の横でエリシアがはっと息を飲んだ。
オリジン・コア——その名を耳にした瞬間、研究施設にまつわる記憶が鮮やかに甦る。俺を殺そうとする白衣の男たち。奴らの所属組織の名が、オリジン・コアだった。
俺は少女に向かって足を踏み出した。
「……お前も俺を殺しに来たのか?」
少女は首を横に振る。
「まさか。私は戦うためにここにいるんじゃないわ。ただ、あなたがどこまで進化するのか、それを見届けたいだけ」
「進化……か」
仮面の奥で、俺は微かに笑った。
この異形の力を突き詰めた先に、何があるのか。
そして、こいつはそれを知っているのか——
「お前も、人間から化け物に進化したのか?」
「さあ、どうかしら?」
少女はプラチナブロンドの髪を指先で弄びながら、楽しげに言う。
「でも、あなたがこのまま進めば——いずれ、すべて分かるわ」
「……ほう?」
「それに——」
少女は、くすっと笑いながら続けた。
「あなた、かぼちゃ頭とは仲良くできそうね」
「は?」
「彼、あなたのこと気に入りそうだもの」
少女はくるりと踵を返し、背を向ける。
「また、会いましょう。蒼真」
そして、次の瞬間——
少女は、光の粒となって霧散した。
まるで、最初からこの世に存在していなかったかのように。
俺はその場に立ち尽くし、ゆっくりと息を吐いた。
(……オリジン・コアの観測者、か……)
奴らがいったい何者なのかを思い出すことはできない。俺がそれを知っていたのか、それすらも定かではない。
だが、一つだけ分かることがある。
——奴らは、俺の“進化”を望んでいる。
「……行きましょう」
エリシアが静かに言った。
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