最強の死者、現世に帰還す 〜闇の力でダンジョン無双〜

夢乃アイム

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第十七話・第一節:向かう先は

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 静寂が訪れる。

 闇の刃によって完全に消滅した獣の残骸すら残らず、ダンジョンの奥は異様なまでに静かだった。
 まるで、俺がここに存在すること自体を拒むかのように。

 俺は無言で黒き剣を見下ろした。

 ——これは、「進化の鍵」。
 オリジン・コアが生み出した、人類の限界を超えるための武器。

『貴様はまだ、その力を使いこなせてはいない』

 仮面の意思が、俺の内に囁く。

『だが、貴様ならばいずれ……』

「蒼真……大丈夫?」

 エリシアの声が、俺を現実へと引き戻す。

 彼女の視線は、俺の異形化した腕に向けられていた。

 漆黒の紋様が、俺の手から肘にかけて広がっている。
 これまでの闇の力とは違う、より根源的な変質——

「……問題ない」

 俺は短く答え、剣を収める。
 すると、闇の刃は霧散し、代わりに漆黒の霧が俺の手へと戻っていった。

「さっきの敵……いいえ、このダンジョンそのものが、あなたの変化に反応している気がするわ」
「そうだとしても、後戻りはできない」

 俺は足を踏み出した。

 進むしかない。
 この力の意味を知るために。
 オリジン・コアが何を目指していたのかを確かめるために。

 そして——

 俺自身が、何者になるのかを知るために。

「蒼真……」

 エリシアが俺の隣に立つ。

「……私が力になるわ。あなたはあなたの信じる道を進めばいい」
「おまえは戻らなくてもいいのか?」
「……私には帰る場所はないの」
「そうだったな……」
「レジスタンスのことじゃないわ。ああいうことになるより前から、私には帰る場所がなかった……」
「だったらこのダンジョンの最深部に住めばいい」

 俺が冗談めかして言うと、エリシアは「そうね……」と寂しげに微笑んだ。

          ※

 ダンジョンの奥へ向かうにつれ、壁の色が変わり始めた。
 最初はただの石造りだったが、今はどこか生物的な脈動を感じる。

「……これは、まるで」

 俺が言葉を継ぐ前に、それは現れた。

 ズズン……

 重い音が響く。

 次の瞬間——

 壁そのものが、形を変えた。

「——ッ!?」

 俺とエリシアの目の前で、ダンジョンの壁が膨れ上がり、巨大な“何か”がせり出してくる。
 それはまるで、肉塊と金属が融合した異形の怪物のようだった。

 四肢はねじれ、背中からは無数の刃が生えている。
 顔のようなものはない。ただ、無数の赤い光が表面を這い回っているだけ。

「……また新手か」

 俺はゆっくりと構えた。
 エリシアも魔法陣を展開する。

 そして、次の瞬間——

 仮面が囁いた。

『——記憶なき者よ、思い出せ。この力は何のために作られたのか』

 俺の意識の奥に、黒い波紋が広がる。

『進化の果てに待つもの。それが、オリジン・コアの望んだ「完全なる形」』

 脳裏に、無数の実験施設の光景がよぎる。
 血と鉄の匂い。
 無数の試験管に浮かぶ、異形の生命体。
 そして——その最奥で眠る、名もなき存在。

『お前も、その一部にすぎない』

「違う」

 俺はその言葉を振り払うように、剣を振るった。

「……俺が人間か化け物か、それは俺が決めることだ」

 黒き刃が闇を引き裂き、異形の怪物へと叩きつけられる。

 次の瞬間、ダンジョンの奥全体が震えた。

 そして——戦いが始まる。
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