最強の死者、現世に帰還す 〜闇の力でダンジョン無双〜

第二十話・第四節：試作品と新型

「……随分と進化したな。我らが糧に相応しい」

　仮面の男の見せた余裕を俺は鼻で笑った。

「何度も殺し損ねておいてよく言う。俺の力が脅威だったんじゃなかったのか？」
「それは我よりさらに末端の、小物どもの判断に過ぎん。我はお前にとっての”後継者”でもある」

　男の指が仮面をなぞる。銀白の表面には、無数の神経のような刻印が浮かび上がり、脈動していた。

「これはお前の仮面よりも後に作られたものだ」
「……つまり？」
「改良され、洗練され、最適化された”新型”ということだ」

　なるほどな。俺の仮面は試作型、コイツのは後発の完成版。確かに、俺のよりも精巧に作られているように見える。

「だからどうした？」
「お前は”不完全”だ。そして我は”完成された兵器”だ。その違いを……見せてやろう」

　男の体が痙攣し始めた。仮面の刻印が強く光を放ち、全身から黒い粘液が吹き出す。骨が軋み、背中から異形の翼が生えた。腕は巨大化し、爪は鋼の刃のように変化していく。

「これが……進化の果てだ」

　六つの眼が仮面の表面に浮かび上がる。その全てが俺を捕捉し、異様な光を放っていた。

「さあ、実験の始まりだ」

　次の瞬間、男の巨体が消えた。

「——ッ！？」

　消えたんじゃない、俺の視界が歪んだのか。

　認識がぐらつく。空間が歪む。どこからともなく、爪が首元を狙って振り下ろされる。

「チッ！」

　間一髪でかわすが、すぐに別の方向から爪が伸びてくる。次から次へと。どの攻撃も紙一重で避けているはずなのに、確実に体力が削られていく感覚があった。

「……おかしいな」
「フフ……分かったか？」

　男の六つの眼が不気味に輝く。

「お前の仮面にはない”認識改竄”機能……これが”新型”の力だ」
「……なるほどな」

　コイツは俺の動きを先読みしているわけじゃない。俺自身の認識を歪めている。回避のつもりが逆に誘導され、意識が届かない死角から攻撃される仕組みだ。

「つまり——」

　一瞬、俺は目を閉じた。

「……何？」
「“目”を使わなければ関係ないな」

　意識を闇に沈める。

　そして、全身の力を解放する。

「……っ！？」

　男の六つの眼が、俺の異変に気づいたように揺れた。

　そして次の瞬間——俺の”漆黒の大剣”が変異した。

　黒炎を纏い、刀身が肥大化する。今までの比じゃない。

　これは……もはや剣ではない。

　漆黒の大剣——“夜喰らい”。

「進化するのは……お前だけじゃない」

　男が焦ったように距離を取ろうとする。

　だが遅い。

　俺は地を蹴り、“夜喰らい”を一閃した。

「——ッ！！？」

　男の六つの眼が一斉に見開かれた。

　次の瞬間——

　轟音。

　異形の兵器となった男の体が、一刀のもとに叩き伏せられる。

「バ……バカな……！」
「お前の仮面が”新型”なら……俺の力も、それに応じて進化するんだよ」

　男の体が崩れていく。仮面の光が弱まり、その機能が完全に停止したのが分かった。

「結局、お前は”改良品”に過ぎなかったな」

　男は最後の抵抗を試みるように手を伸ばしたが、俺の大剣がそれを無情に断ち切った。

　——オリジン・コアの末端、撃破。

　俺は”夜喰らい”を肩に担ぎながら、静かに息を吐いた。

「……次は、黒幕か」

　扉の向こうに続く闇を見据えながら、俺は一歩を踏み出した。

　俺は——最後まで、進化し続ける。