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序
冥府の妖かし
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愛しい男と、やっとの思いで辿り着いたはずの冥府。
いわゆる、あの世でなら、愛しい人と共に居られる。
独り占めに出来るはず、だった。
紫乃が、そう思い込んでいたのには訳がある。
心の奥からなのか、頭の中からなのかは、分からない。
けれど、ずっとずっと紫乃に語りかける声があった。
その声はいつも、紫乃に選ぶ道を教えてくれた。
『男と共にいたいのなら、あの世に行っちまえばいい』
大川にかかる橋の上で、紫乃は確かに、その声を聞いた。
いつの頃から聞こえるようになったのか、定かではない。
おそらく、家が落ちぶれていった頃。
本来であれば、跡取りである紫乃。
そんな紫乃を、親が売る算段をし始めた頃だろうか。
「ちっ! これだから、物の怪憑きは、いけねぇ!」
「物の怪憑き……? アタシが、ですか?」
「なんだ、気づいてなかったのかよ?
おめぇには、『うそつ鬼』も『しがみつ鬼』も憑いてる。
いや、憑いてた、だな。
こっちに来た物の怪は、祓われちまうからな」
冥府の役人だという、ボロをまとった男に言われて気づく。
己の中に聞こえていた声が、いつだって支えにしてきた声が。
己に取り憑く、物の怪のものだったのだと。
紫乃の脳裡に、過去の出来事が浮かぶ。
夜中に聞こえる親の声。
何も知らずに、眠るきょうだいの姿。
「あやつは、見目だけは麗しいゆえ、高く売れるであろう」
「はい。あのようなひ弱な跡取りでは困りものだと思うておりましたが。
こうなってしまうと、かえって良かったのかも知れませぬ」
「うむ。あれが売れてくれれば、妹たちは嫁に出せる。
商家に嫁ぐ娘がいれば、我らの先行きは安泰ぞ」
「ええ。扶持が出なければ、武家に未練などありませぬ。
名より実を取りましょうぞ。ふふふ」
「ふははは。その通りであるな」
親たちが、なんの憂いもなく、己を売る話を決めていた。
きょうだいの先々のために、我が身を削るのは構わない。
けれど、それは、泣く泣くであって欲しかった。
ほかに、どうしようも出来なくて。
最後の最後の術であって欲しかった。
聡明であった紫乃は、実のところ、知っていた。
己が、ふた親に疎まれていることを。
きょうだいの中で、ただひとり。
紫乃だけは、父親が違う。
実の父は、紫乃が生まれる前に亡くなっていた。
体が弱く、儚げで美しい人だったと聞いている。
紫乃は、その父に見目が瓜二つらしい。
今の父は、実の父の弟だった。
本来の続柄は、叔父にあたる。
この父は、兄とは似ても似つかない品のない大男。
継ぐことの出来ない家には、関心もなく。
それなのに、自立する意欲とてなく。
ブラブラと『お控え様』としての暮らしを満喫していた。
だが、兄の死と共に転がり込む家と身分。
密かに横恋慕していた兄嫁を娶ることに、大義が出来る。
母も、貪欲に己を求める若い男に、ほだされていく。
兄に似た紫乃は、今の父にとっては厄介者でしかなかった。
その美しさは、兄への劣等感を思い出させるのだろう。
きょうだいの中で、紫乃にだけ厳しく接するようになっていく。
それを知りながら、見て見ぬふりをする母。
やがて、無能な義父のせいで、家は傾いていく。
我が身可愛さに、子を差し出す親はいる。
紫乃は、幼くして、そのことを知ったのである。
「おめぇさんの境遇が、不憫なもんだったのは分かってらぁ。
けどな。そのことが、ほかの人を殺させていいって道理は無ぇ」
「分かっています。けど、アタシは、ただ……」
「心の声を聞いてただけだって、言うんだろ?」
「はい。それに、あの声が物の怪のものだなんて」
「おめぇさん、ほんとに気づかなかったのかねぇ?」
「どういう意味です?」
「おめぇさんは、ここに来て、俺に言われて初めて気づいた。
そうは言うがよ? おめぇさんが願ったことが、叶い続ける。
それを不可思議に思わねぇ頭じゃねぇだろうさ」
「っ……! それはっ……」
「ほうら、心当たりがあるんじゃねぇのか?」
紫乃が、心に願う時。
心の奥底に感じる、ズルリとした感覚。
何やら、この世ならざるものに触れるような気持ち悪さ。
己の欲が、そう感じさせるのかとも思ったが。
頭では、本当は分かっていたようにも思う。
己を救う神仏などいない。
救うてくれるのは、心の声だけ。
ズルリ、ズルズルと背筋を通り抜ける、この声だけだと。
「だから、おめぇさんは、こっちの層に振り分けられたのさ。
己で手を下しちゃいねぇ。けれど、確かに。
おめぇさんは、幾人ものおなごを殺してきたんだ」
「そんな……。決して、そんなつもりは……」
「そうだな。だから、おめぇさんには慈悲が与えられることになった」
「そう、なのですか?」
「あぁ。おめぇさんには、不可思議な力がある。
物の怪に取っ憑かれながら、飲み込まれない。
むしろ、物の怪を使って、己の望みを叶えてやがる」
「はぁ……」
「だから、その力を冥府のために使え、とのこった。
それが、おめぇさんが愛しい男に会えるたったひとつの術だ」
「冥府のためにって、どういうことです?」
「今なぁ、冥府には、捌ききれないほどの人が押し寄せてやがる。
良くない治世が続く時ゃ、いっつもそうだ。
世の中が荒れりゃあ、揉め事も増える。
賊が増えて、人も殺される。食えないからと赤子も始末される」
「はい……」
「そんな混沌の中ほど、物の怪たちは、生き生きと動き回る。
物の怪に取っ憑かれた人は、人を不幸にする。
なんなら、幾人もが一度に冥府にやって来ることにならぁ」
「……分かる気がします」
「うん。だから、物の怪に絡まれて死ぬ人だけでも救ってこい。
これが、お偉方の考えらしいのさ」
妖かしに身をやつして、人の魂を救ってくれば。
愛しい男に会うことが叶う。
それが叶うならばと、紫乃はすでに心を決めていた。
ところが、冥府の役人は、さらに言う。
「そういや、言い忘れてたわ。妖かしになっちまうとなぁ。
冥府で、愛しい男と同じところには行けなくなる」
「はぁ? それは、約束が違うじゃありませんか?」
「最後まで聞けよ。だけどな?
妖かしになりゃ、人の世で、すぐにでも男に会える」
「ええっ? 人の魂を救わずとも、ですか?」
「そうだ。けどな、おめぇさんも相手の男も、前とは違う姿だ」
「それは、構いませんよ。
アタシは、あの人の外見に惚れた訳じゃないんです」
「うん。それでな。
おめぇさんは、己の正体を男には告げちゃあならねぇ」
「なぜです?」
「おめぇさんがたが受けるのは、慈悲ではあるが罰でもある。
己の命も、よそ様の命も粗末にした罰だ。
忙しい冥府に、自らやってきた罰でもあるな、うん」
「それは、そちらのことでは……?」
「ははは、違ぇねぇ。
けどな、お偉方ってのは、総じて、そういうもんなんでな」
「はぁ……」
「罰を受けてる時に、これ幸いと睦み合うのは許さじ。
姿が変わっても、共にいられると喜ばれてもいけねぇ。
ってなわけだそうだ」
「はい……」
「さらに、だ」
「まだあるってんですか?」
「おう! おめぇさんには、冥府の武器の使い方を修得してもらう。
元お武家様には、容易いことだろうぜ」
こうして、紫乃は、名と顔と人であることを捨てた。
ただひたすらに、愛しい男に会うために。
いわゆる、あの世でなら、愛しい人と共に居られる。
独り占めに出来るはず、だった。
紫乃が、そう思い込んでいたのには訳がある。
心の奥からなのか、頭の中からなのかは、分からない。
けれど、ずっとずっと紫乃に語りかける声があった。
その声はいつも、紫乃に選ぶ道を教えてくれた。
『男と共にいたいのなら、あの世に行っちまえばいい』
大川にかかる橋の上で、紫乃は確かに、その声を聞いた。
いつの頃から聞こえるようになったのか、定かではない。
おそらく、家が落ちぶれていった頃。
本来であれば、跡取りである紫乃。
そんな紫乃を、親が売る算段をし始めた頃だろうか。
「ちっ! これだから、物の怪憑きは、いけねぇ!」
「物の怪憑き……? アタシが、ですか?」
「なんだ、気づいてなかったのかよ?
おめぇには、『うそつ鬼』も『しがみつ鬼』も憑いてる。
いや、憑いてた、だな。
こっちに来た物の怪は、祓われちまうからな」
冥府の役人だという、ボロをまとった男に言われて気づく。
己の中に聞こえていた声が、いつだって支えにしてきた声が。
己に取り憑く、物の怪のものだったのだと。
紫乃の脳裡に、過去の出来事が浮かぶ。
夜中に聞こえる親の声。
何も知らずに、眠るきょうだいの姿。
「あやつは、見目だけは麗しいゆえ、高く売れるであろう」
「はい。あのようなひ弱な跡取りでは困りものだと思うておりましたが。
こうなってしまうと、かえって良かったのかも知れませぬ」
「うむ。あれが売れてくれれば、妹たちは嫁に出せる。
商家に嫁ぐ娘がいれば、我らの先行きは安泰ぞ」
「ええ。扶持が出なければ、武家に未練などありませぬ。
名より実を取りましょうぞ。ふふふ」
「ふははは。その通りであるな」
親たちが、なんの憂いもなく、己を売る話を決めていた。
きょうだいの先々のために、我が身を削るのは構わない。
けれど、それは、泣く泣くであって欲しかった。
ほかに、どうしようも出来なくて。
最後の最後の術であって欲しかった。
聡明であった紫乃は、実のところ、知っていた。
己が、ふた親に疎まれていることを。
きょうだいの中で、ただひとり。
紫乃だけは、父親が違う。
実の父は、紫乃が生まれる前に亡くなっていた。
体が弱く、儚げで美しい人だったと聞いている。
紫乃は、その父に見目が瓜二つらしい。
今の父は、実の父の弟だった。
本来の続柄は、叔父にあたる。
この父は、兄とは似ても似つかない品のない大男。
継ぐことの出来ない家には、関心もなく。
それなのに、自立する意欲とてなく。
ブラブラと『お控え様』としての暮らしを満喫していた。
だが、兄の死と共に転がり込む家と身分。
密かに横恋慕していた兄嫁を娶ることに、大義が出来る。
母も、貪欲に己を求める若い男に、ほだされていく。
兄に似た紫乃は、今の父にとっては厄介者でしかなかった。
その美しさは、兄への劣等感を思い出させるのだろう。
きょうだいの中で、紫乃にだけ厳しく接するようになっていく。
それを知りながら、見て見ぬふりをする母。
やがて、無能な義父のせいで、家は傾いていく。
我が身可愛さに、子を差し出す親はいる。
紫乃は、幼くして、そのことを知ったのである。
「おめぇさんの境遇が、不憫なもんだったのは分かってらぁ。
けどな。そのことが、ほかの人を殺させていいって道理は無ぇ」
「分かっています。けど、アタシは、ただ……」
「心の声を聞いてただけだって、言うんだろ?」
「はい。それに、あの声が物の怪のものだなんて」
「おめぇさん、ほんとに気づかなかったのかねぇ?」
「どういう意味です?」
「おめぇさんは、ここに来て、俺に言われて初めて気づいた。
そうは言うがよ? おめぇさんが願ったことが、叶い続ける。
それを不可思議に思わねぇ頭じゃねぇだろうさ」
「っ……! それはっ……」
「ほうら、心当たりがあるんじゃねぇのか?」
紫乃が、心に願う時。
心の奥底に感じる、ズルリとした感覚。
何やら、この世ならざるものに触れるような気持ち悪さ。
己の欲が、そう感じさせるのかとも思ったが。
頭では、本当は分かっていたようにも思う。
己を救う神仏などいない。
救うてくれるのは、心の声だけ。
ズルリ、ズルズルと背筋を通り抜ける、この声だけだと。
「だから、おめぇさんは、こっちの層に振り分けられたのさ。
己で手を下しちゃいねぇ。けれど、確かに。
おめぇさんは、幾人ものおなごを殺してきたんだ」
「そんな……。決して、そんなつもりは……」
「そうだな。だから、おめぇさんには慈悲が与えられることになった」
「そう、なのですか?」
「あぁ。おめぇさんには、不可思議な力がある。
物の怪に取っ憑かれながら、飲み込まれない。
むしろ、物の怪を使って、己の望みを叶えてやがる」
「はぁ……」
「だから、その力を冥府のために使え、とのこった。
それが、おめぇさんが愛しい男に会えるたったひとつの術だ」
「冥府のためにって、どういうことです?」
「今なぁ、冥府には、捌ききれないほどの人が押し寄せてやがる。
良くない治世が続く時ゃ、いっつもそうだ。
世の中が荒れりゃあ、揉め事も増える。
賊が増えて、人も殺される。食えないからと赤子も始末される」
「はい……」
「そんな混沌の中ほど、物の怪たちは、生き生きと動き回る。
物の怪に取っ憑かれた人は、人を不幸にする。
なんなら、幾人もが一度に冥府にやって来ることにならぁ」
「……分かる気がします」
「うん。だから、物の怪に絡まれて死ぬ人だけでも救ってこい。
これが、お偉方の考えらしいのさ」
妖かしに身をやつして、人の魂を救ってくれば。
愛しい男に会うことが叶う。
それが叶うならばと、紫乃はすでに心を決めていた。
ところが、冥府の役人は、さらに言う。
「そういや、言い忘れてたわ。妖かしになっちまうとなぁ。
冥府で、愛しい男と同じところには行けなくなる」
「はぁ? それは、約束が違うじゃありませんか?」
「最後まで聞けよ。だけどな?
妖かしになりゃ、人の世で、すぐにでも男に会える」
「ええっ? 人の魂を救わずとも、ですか?」
「そうだ。けどな、おめぇさんも相手の男も、前とは違う姿だ」
「それは、構いませんよ。
アタシは、あの人の外見に惚れた訳じゃないんです」
「うん。それでな。
おめぇさんは、己の正体を男には告げちゃあならねぇ」
「なぜです?」
「おめぇさんがたが受けるのは、慈悲ではあるが罰でもある。
己の命も、よそ様の命も粗末にした罰だ。
忙しい冥府に、自らやってきた罰でもあるな、うん」
「それは、そちらのことでは……?」
「ははは、違ぇねぇ。
けどな、お偉方ってのは、総じて、そういうもんなんでな」
「はぁ……」
「罰を受けてる時に、これ幸いと睦み合うのは許さじ。
姿が変わっても、共にいられると喜ばれてもいけねぇ。
ってなわけだそうだ」
「はい……」
「さらに、だ」
「まだあるってんですか?」
「おう! おめぇさんには、冥府の武器の使い方を修得してもらう。
元お武家様には、容易いことだろうぜ」
こうして、紫乃は、名と顔と人であることを捨てた。
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