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第2話 ガラスペン
(5)ガラスペンを返した理由
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『今日の午前中、オレはハンカチに包まれてルリのポケットにいた』
「ふんふん」
『給食の時間になって、ルリは仲良しのミサキに話しかけられたんだ』
「うん」
懐中時計は、ルリちゃんのポケットで聞いたことを話し始めた。
ボクは、道具たちと一緒にその話を聞くことにしたんだ。
*****
「ルリ、昨日は大丈夫だった?」
「うん……」
「アスカから聞いたよ。ユウトがなんか言ってきたって」
「そう……だね」
「そんな時に限って、休んじゃってごめん!」
「ミサキが謝らないで! 悪いのは、わたし」
「ルリのなにが悪いの? 悪いのは、ユウトでしょ?」
「う~ん、わたしのせいかもしれない」
「どうして?」
「昨日、すごくステキなガラスペンを買ったの」
「へぇ! いいな」
「そのペンで書くとね、不思議とキレイに字が書けた」
「うん、うん」
「だから、ペン字の宿題をね、そのペンで書いたの」
「いいじゃん」
「うん。廊下にみんなのペン字が貼り出されてね」
「ああ、見たよ」
「そしたら、ユウトが『これ、ルリの字じゃねぇ!』って」
「はぁ? それで?」
「『だれかに書いてもらったんだろ!』って言った」
「みんながこっちを見て、疑ってるみたいに感じて」
「なにそれ、ひどい!」
「だから、先生に言ってはがしてもらったの」
「それで、ルリのが、なかったんだね」
「うん」
「先生はなんて言ったの?」
「『筆記具で文字は変わるからね』って」
「そうだよね、筆と鉛筆じゃ同じに書けないし」
「でも、ユウトの家って書道教室じゃない?」
「うん、そうだね」
「だから『ユウトの言ってることも無視できない』って」
「ええ? どういうこと?」
「ユウトがおかしいって思うなら、そうかもってこと」
「ひどすぎる!」
「だから、先生の前で書いてみたらどうかって言われた」
「ちょっと~、キクチ先生、ひどすぎじゃん」
「先生は、どっちでもいいよって」
「どっちでもって?」
「先生の前でもう一回書くか、いつものペンで書き直すか」
「わたし、悲しくなっちゃって」
「そんなの当たり前だよ」
「ガラスペンは悪くないのに、ガラスペンのせいな気がしちゃって」
「うん、分かる気がする」
「買ったお店に、ペンを戻してきちゃったんだ」
「え? 気に入ってたのに?」
「うん……」
*****
『というわけだ。ユウトが原因のようだ』
「そっか。でも、ユウトくんは、なんでそんなことを?」
『それは、分からん。ルリは、ユウトとは話してないからな』
「う~ん」
ルリちゃんが、やっぱりガラスペンを気に入ってた!
それは、とってもよかったんだけど。
ユウトくんってお兄さんは、どうしてルリちゃんにそんなことを?
それが分からないと、ルリちゃんはガラスペンを迎えにきてくれない。
ボクは、そんな気がしたんだ。
どうすれば、いいんだろう?
う~ん。
ボクが、うなっていると、その人は現れた。
『中学生の男の子が、来たぞ~』
カラン、カラーン!
ドアベルが大声で知らせるとの同時に、ベルが鳴る。
カウンターの前にいたボクには、お兄さんが入ってくるのが見えた。
この制服は、ルリちゃんと同じ中学校のだね。
『おいおいおい! この子、ユウトだぞ』
懐中時計が、ボクに教えてくれる。
この人が、ルリちゃんを悲しくさせたユウトくん?
もっとイジワルそうな人を想像してた。
でも、ユウトくんはスラッとして背の高いカッコいいお兄さんだった。
「いらっしゃいませ」
「あれ? 小学生?」
「はい」
「お手伝いしてんの?」
「いえ、ここはボクとじーちゃんのお店です」
「ふうん。ま、オレも家の手伝いするからな」
「お兄さんのおうちも、お店ですか?」
「オレんちは、書道教室やってるんだ」
「へぇ! カッコいい」
「そっか? 小さい子にはオレも教える」
「え? すごい!」
「ま、小さい頃からやってるからな」
小学生のボクにも、気軽に話しかけてくれる。
やっぱり、優しくてカッコいいお兄さんだ。
「文鎮ってある?」
「はいっ」
「えっと、鉄のと……ガラスのもあります」
「ガラス……。なぁ! ガラスペンってある?」
「ええっと、今は……」
「ここで買ったペンで書くと、キレイに書けるってホント?」
「え~っと」
「中学生がペンを買いにきたことある?」
「あの、えっと」
ユウトくんの、次から次に飛び出す質問。
ボクは、「えっと」しか答えられない。
だけど、ボクが、困った顔をしてることに気づいたみたい。
ユウトくんは、ハッとした顔をして、口を閉じる。
それから、もう一度、今度はゆっくりと話し始めたんだ。
ボクはユウトくんの気持ちを聞くことになった。
ホントの気持ちをね。
「ふんふん」
『給食の時間になって、ルリは仲良しのミサキに話しかけられたんだ』
「うん」
懐中時計は、ルリちゃんのポケットで聞いたことを話し始めた。
ボクは、道具たちと一緒にその話を聞くことにしたんだ。
*****
「ルリ、昨日は大丈夫だった?」
「うん……」
「アスカから聞いたよ。ユウトがなんか言ってきたって」
「そう……だね」
「そんな時に限って、休んじゃってごめん!」
「ミサキが謝らないで! 悪いのは、わたし」
「ルリのなにが悪いの? 悪いのは、ユウトでしょ?」
「う~ん、わたしのせいかもしれない」
「どうして?」
「昨日、すごくステキなガラスペンを買ったの」
「へぇ! いいな」
「そのペンで書くとね、不思議とキレイに字が書けた」
「うん、うん」
「だから、ペン字の宿題をね、そのペンで書いたの」
「いいじゃん」
「うん。廊下にみんなのペン字が貼り出されてね」
「ああ、見たよ」
「そしたら、ユウトが『これ、ルリの字じゃねぇ!』って」
「はぁ? それで?」
「『だれかに書いてもらったんだろ!』って言った」
「みんながこっちを見て、疑ってるみたいに感じて」
「なにそれ、ひどい!」
「だから、先生に言ってはがしてもらったの」
「それで、ルリのが、なかったんだね」
「うん」
「先生はなんて言ったの?」
「『筆記具で文字は変わるからね』って」
「そうだよね、筆と鉛筆じゃ同じに書けないし」
「でも、ユウトの家って書道教室じゃない?」
「うん、そうだね」
「だから『ユウトの言ってることも無視できない』って」
「ええ? どういうこと?」
「ユウトがおかしいって思うなら、そうかもってこと」
「ひどすぎる!」
「だから、先生の前で書いてみたらどうかって言われた」
「ちょっと~、キクチ先生、ひどすぎじゃん」
「先生は、どっちでもいいよって」
「どっちでもって?」
「先生の前でもう一回書くか、いつものペンで書き直すか」
「わたし、悲しくなっちゃって」
「そんなの当たり前だよ」
「ガラスペンは悪くないのに、ガラスペンのせいな気がしちゃって」
「うん、分かる気がする」
「買ったお店に、ペンを戻してきちゃったんだ」
「え? 気に入ってたのに?」
「うん……」
*****
『というわけだ。ユウトが原因のようだ』
「そっか。でも、ユウトくんは、なんでそんなことを?」
『それは、分からん。ルリは、ユウトとは話してないからな』
「う~ん」
ルリちゃんが、やっぱりガラスペンを気に入ってた!
それは、とってもよかったんだけど。
ユウトくんってお兄さんは、どうしてルリちゃんにそんなことを?
それが分からないと、ルリちゃんはガラスペンを迎えにきてくれない。
ボクは、そんな気がしたんだ。
どうすれば、いいんだろう?
う~ん。
ボクが、うなっていると、その人は現れた。
『中学生の男の子が、来たぞ~』
カラン、カラーン!
ドアベルが大声で知らせるとの同時に、ベルが鳴る。
カウンターの前にいたボクには、お兄さんが入ってくるのが見えた。
この制服は、ルリちゃんと同じ中学校のだね。
『おいおいおい! この子、ユウトだぞ』
懐中時計が、ボクに教えてくれる。
この人が、ルリちゃんを悲しくさせたユウトくん?
もっとイジワルそうな人を想像してた。
でも、ユウトくんはスラッとして背の高いカッコいいお兄さんだった。
「いらっしゃいませ」
「あれ? 小学生?」
「はい」
「お手伝いしてんの?」
「いえ、ここはボクとじーちゃんのお店です」
「ふうん。ま、オレも家の手伝いするからな」
「お兄さんのおうちも、お店ですか?」
「オレんちは、書道教室やってるんだ」
「へぇ! カッコいい」
「そっか? 小さい子にはオレも教える」
「え? すごい!」
「ま、小さい頃からやってるからな」
小学生のボクにも、気軽に話しかけてくれる。
やっぱり、優しくてカッコいいお兄さんだ。
「文鎮ってある?」
「はいっ」
「えっと、鉄のと……ガラスのもあります」
「ガラス……。なぁ! ガラスペンってある?」
「ええっと、今は……」
「ここで買ったペンで書くと、キレイに書けるってホント?」
「え~っと」
「中学生がペンを買いにきたことある?」
「あの、えっと」
ユウトくんの、次から次に飛び出す質問。
ボクは、「えっと」しか答えられない。
だけど、ボクが、困った顔をしてることに気づいたみたい。
ユウトくんは、ハッとした顔をして、口を閉じる。
それから、もう一度、今度はゆっくりと話し始めたんだ。
ボクはユウトくんの気持ちを聞くことになった。
ホントの気持ちをね。
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