世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!

月見里ゆずる(やまなしゆずる)

文字の大きさ
6 / 140
1章

5

しおりを挟む
 

 結花は西南病院で夫の悠真と合流した。
 義父の弘之ひろゆきは整形外科の待合室で、澄江と一緒に待っている。
 タクシーで来た結花の姿を見た悠真に対して、結花は苦い顔をしてるのを、見逃さなかった。
「なによ? その顔、ブッサイクね」
「……今受付終わったから待合室行こう」
 悠真はまたタクシー使ってるじゃん。少しぐらい公共交通機関使ってきてよと言いそうになった。しかも、開口一番不細工だと言われ、言い返す気力が湧かない。
 今は親の容態が心配だから、そっちが優先だ。
 夫婦喧嘩してる場合じゃない。
「なに? お義母さん転んだんだって?」
 結花は矢継ぎ早にいつどこで、何をして、痛みはとかなど待合室に向かう途中、根掘り葉掘り聞く。
 澄江は昼からのタイムセールのチラシを入り口の自動ドアに貼ろうとしたら、強風に煽られて転倒してしまった。
 丁度その姿を、春の台店の責任者である戸塚が見つけて、息子である悠真に話が来た。
 念のために病院にいくことになった。
「ふーん、そうなんだ」
 結花はこれ以上どうでも良くなった。
 整形外科の待合室は昼間なのにも関わらず、杖やシルバーカーを押しているお年寄り達、付き添いで来ている人達で席が埋まっている。
 結花は悠真の隣に座って、義理両親とさりげなく距離をとった。

 意外とお年寄りと若い女性で来ている人結構いるのね。
 息子の嫁かしら? それだったら私と同じ仲間ね。
 血も繋がってもない親の付き添いなんて面倒くさいよね。
 夫が行けばいいのに。あー、何で私まで一緒に! このままあの世に行ってくれればいいのに!
 やっぱり存在がムカつく。

 結花は退屈凌ぎにSNSを開いて、義理両親の悪口を投稿を始める。 
『あー、行きたくねぇ……』
『このまま介護になったらどうしよう? 私がやらないといけないの? 施設にぶち込めばいいよね? うちが金銭的援助して恩に着せればいいかな?』
『せっかくのアフタヌーンティーが台無し。誰かさんが転んだからって病院の付き添い行かないといけなくなった。めんどくせー』
『このまま死んで欲しいわ。ついでに義父も』


 終始自分のことしか考えていない呟きだ。
 投稿すると早速大変ねとか嫁連れて行く意味がわからないとか、悠真を責めるコメントが並ぶ。
 結花はそれをみて、やっぱり私が正しいのよと安心していた。
 中々呼ばれない。
 結花は今にでも悠真に八つ当たりしたい。
 病院ってこんなに待ち時間長かったっけ?
 うちの行きつけの病院はすぐに呼ばれるのに。
 次、が病院行くなら、ここじゃなくて呉松家行きつけの所にしてもらおう。というか義理両親全員そうしてもらおう。母に頼んで。元々母の知り合いがやってるとこだし。
 うちを優先してもらえるし、さっさと帰れる。
 一分一秒でも義理両親から離れたい。
「依田澄江さーん、お入り下さい」
 看護師に呼ばれて、全員で診察室に入る。
 女性の医師だ。白衣の上に紺色のシャツとグレーのチノパンを着ている。梶原と名乗った。
 ハーフアップした黒の髪型で、シャープな顔立ち。薄いピンクの四角いフレームの眼鏡をかけている。
 まあまあ可愛いけど、私のほうが可愛いわ。
 診察室に入るなり女性医師の容姿を品定めする結花。
「本日はどうされましたか?」
 梶原医師は穏やかな口調で尋ねる。
「昼からのタイムセールのチラシを入り口の自動ドアに貼ろうとしたら、強風に煽られて転倒してしまったんです」
 そんなの足腰弱い義母が悪いじゃん。ざまぁみやがれと結花は心の中で罵倒する。
 私いかなくていいじゃん。ほんとめんどくせぇ。
「じゃぁ一回検査しましょ」
 梶原医師は看護師を呼んで、検査内容を伝えて、義母を案内するように指示する。
 私たちは一旦診察室から出て検査結果を待つ。
 待合室の廊下の椅子に、夫と義理の父と離れて座る。
 その間にSNSに心情を載せる。
 介護や入院になったらどうしよう……同居になったら嫌だ。
 私の世界が侵蝕されてしまう。
 義父母も夫も大人しく私と呉松家の言うことを聞いておけばいいの。
 私が働かないで暮らせるようにしてもらわなきゃ。
 守ってもらわないと、契約不履行になっちゃう。
 私は依田家の嫁になってやったんだから。
「依田澄江さんのご家族の様、どうぞ」
 梶原医師に再び呼ばれる。
 中に入ると澄江がちょこんと丸椅子に座って、顔を曇らせている。検査結果が気になるのだろう。
「……特に大事になるようなことはありませんよ。尻もちついただけです。スーパーで働いてらっしゃるって事ですが、しばらく休んだ方がよろしいでしょう」
 梶原医師は痛み止めのお薬の処方と、今後は転倒防止にマメにストレッチや体操をする様に言った。
 介護や入院にならなかったので、一同安堵する。
「そっかー、私も歳ねー。残念だけどしばらく休むわ」
 澄江は病院を出る時に笑い飛ばした。
 冗談じゃない。あんな人死ぬまで働けよ。私のために。
 ローカルスーパーの家と代々続く呉松家とは格が違うんだから。
「そうしなさい。無理は禁物だ」
「残ってるスタッフには申し訳ないわ。戸塚さんにも負担かけてしまってるし……」
 大したことはないとはいえ、澄江はしばらく働けないことに落胆している。
 長年休まずにせっせと働いてきた澄江は、スーパーの仕事が天職だと思っている。
 若い学生のアルバイトやパート仲間と一緒に働くことで刺激になっていた。
 高校生のアルバイトの子の多くは学費や家計を助けるために働いている。中にはアルバイトをすることに関して学校と揉めた人がいる。
 学校側が家庭環境を鑑みた上で、最初許可したにも関わらず、数カ月後同級生による密告で、不公平だからやめるべきという話になった。
 澄江はその生徒の働きぶりを見ていたので、簡単に辞めさせたくないと頭を下げた。それに同じ学校の生徒がうちで働いているのに、なぜ急にやめるべきの話になるのか納得できなかった。
 ただでさえ従業員減ったらしんどい。
 ましてうちのスタッフは真面目にやってくれているから、誰一人手放したくなかった。
 学校側はまるで嫌がらせするかのように、春の台店に生徒を辞めさせるように迫った。認めなかったら、生徒を退学にさせると。
「戸塚くん本当に頼もしくなったわ。やっぱりあの時辞めさせなくって正解だった。今回悠真に連絡してくれなかったらどうなってたのやら……」
 昔のことを思い出してはにかむ澄江。
「良かったですね。お義母さん。素敵な仲間がいらっしゃって」
 結花は澄江の肩をさすって気遣う。
「ええ」
 とりあえず気遣ってるふりはしないと。夫に冷徹な人だと思われてしまう。
 全く心に思ってないことを口にするのは簡単だ。
 そうやって今まで自分の思い通りにやってきたのだから。
「私は先に帰るわ。悪いけど、戸塚くんに連絡してくれないかしら?」
「わかった」
 澄江と弘之は駐車場に停めていたシルバーの車に乗って病院をあとにした。
「ねー、ゆーちゃん、家まで送って!」
 上目遣いでおねだりする結花に対して「俺、これからまた戻らないといけないから……それに戸塚さんにお母さんのこと話さないといけないから」
 申し訳なさそうに断る悠真。
 澄江が働いている春の台店のシフト管理は、店長である戸塚がしている。基本的にローカルスーパー「よだ」のシフト管理は、各店舗の店長また副店長が行っている。
「えーいやだいやだ! 可愛いゆいちゃんを車に乗せないの? 私、お義母さんの通院につきあってあげたんだから、これぐらいやってよ」
 唇をとがらせてだだをこねる。
 病院から呉松家からの春の台店にいくと少し遠回りになってしまう。だから正直断りたい。
 しかしここは病院だ。結花の金切り声が結構大きい。耳をつんざくような声だ。
 変に注目されても困る。
「あー、わかったよ!」
「えっ、ほんと? やったー!」
 結花は勢いよく抱きつく。
 ちょっとだだをこねればちょろいもんだ。
 夫が困ろうが知ったこっちゃない。
 大嫌いな義理の親の通院につきあってやったんだから、これぐらいやってもらわないと気がすまない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

処理中です...