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5章
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「なんなんですか! あの人!」
事務作業している野崎に詰め寄る福島は口調が強くなっていた。
結花が帰ったのを見計らっての発言だ。
「また、やらかした?」
「やらかしたを通り越してます。あれじゃ他のスタッフ達に悪影響ですよ」
勤務状況を報告する福島に野崎は頭を抱える。
「ネイルまだやってたんか……前回の勤務の時に、控えるようにお願いしたんだけどなぁ。人事部長にも言われてたのに。お金出せとかふざけてるな。いや……」
もしかしてわざとあのスタイルでやって、勤務中にネイルが外れたのを、会社のせいにするとか?
ありそうだが、多分人事部長が却下するだろう。
多分知らないでやってるな。
「こういう職業でネイルだめって知らないですかね。今日も朝礼の服装も酷かったですし。本当に働いたことないんだなと思いました」
最初見た時あの格好でやるつもりなのか、正気なのかと思った。
ちなみに今日はマイクロミニスカに肩出しのトップスだった。どこで買ってきたのか聞きたくなる。
たとえ働いたことがなくても、わからなければ調べたり、聞いたりするものだとおもうが、そういうことが全然ない。
「で、教えた時反抗して??」
「ええ。ごみ捨てなんか、呉松家のお嬢様に汚れ仕事させるなんて酷いって言ってました。どこがお嬢様なんですかね? 成金の間違いでしょ? だいたい呉松家って何ですか?」
野崎は結花の実家について説明すると、呆れたようにため息をついた。
「そうなんですね。私はこの辺の人ではなかったので、全然知りませんでした。バカバカしい」
吐き捨てる福島に野崎は目を丸くする。
いつもにこにこしていて、あんまり人前で怒るタイプではない彼女だが、バックヤードではちょいちょいきつい言い方になる。でもそれは店長である野崎の前だけだ。
「あれ、あのままだと勤務の士気やお客様からクレーム来るのも時間の問題だと思います。はっきりいってらここで働かなくてもいいのでは? そんなに働きたくないのなら。あのおばちゃん達も少し甘やかしてる所ありましたから……ゆいちゃんって呼んじゃってるから」
甘やかしてるという単語に野崎は「業務ノート読んでないのかな」とボヤく。
「甘やかすなって言ったんだけどねー。相川くんはどう?」
「狙われてますね。本人は物凄い嫌そうにしてましたし、挨拶も最低限になってますね。恐らく彼女のことが苦手なんでしょう」
相川は結花が話しかけても距離を取る上に、淡々と返していた。
「あー、あの子ね、女性が苦手なんだよ。依田さんみたいなタイプが。だからシフト変えて欲しいって申し出があったんだ」
「あー……なるほど……あれは女性でも嫌ですね。同性から嫌われるタイプを地で行く。喋り方といい、態度といい、私はハッキリ言って嫌いです」
「そこまで言い切るか……福島さん」
強く切り捨てるかのような物言いに野崎は「ちょっと言い過ぎなんじゃ」と咎める。
「だいたいいい歳して自分のことを名前で呼ぶ人や人で態度変えたりする人間にまともな人はいません。よく言うじゃないですか、同性から嫌われてる人は要注意って」
「まともじゃないからああなるんだよ。今まで言葉遣いや態度に注意されてきてないんだよ。多分周りは諦めてるんだと思う」
「だからと言って、私達が彼女の性格を矯正しなさいと言うのですか?!」
――依田結花は可愛くてヤバいではなく、高校生バイトの子達より非常識すぎてやばいとして広まっている。
ヒートアップする福島に野崎は「落ち着いて、深呼吸して」と宥める。
「落ち着いてられますか! 私達がご機嫌取りやお守りしろってことですか?! 社長の妻だか、呉松家のお嬢様だか知らないですけど、ここまで世間知らずで非常識な人間初めて見ました。これ以上は無理です。他のスタッフもそのうち彼女のわがままで辞める人出てくると思いますよ――とっとと辞めさせて下さい」
身を乗り出して詰め寄る福島に「ま、待って……まだ来たばっかだから、もう少し様子見させてくれ」と説得する。
初めてだからとか働くのが初めてだからはともかく、それなりの態度をとれば、丁寧に教えるし、応援しようと気持ちにもなる。
しかし彼女の場合、裕福な育ちで社長の妻であることを喧伝し、開き直ってやらない口実を探しているだけ。男性スタッフを漁りに来ただけだ。
自分の立場をまだ理解してないのは態度でわかる。
今日も朝の挨拶は、若い男性スタッフと同部署のおばちゃん達。彼女達は甘やかしてくれるからなのか、挨拶しているだけだろう。
男性スタッフは適度に距離置いて、必要最低限のやり取りしかしないと言わんばかりに、挨拶だけで済ませていた。彼女が話しかけても、困惑した顔して、離れていた。
「私、口うるさい人ですかね? 彼女と一緒にやれる気がないです」
ボソッと呟いた言葉が野崎の心に突き刺す。
「福島さんが言ってるのは正しい事だし、彼女が言われても仕方ない事かなと思う。ただ個人的に心配なのは、彼女があなたの言い方や態度をパワハラだって騒ぐ可能性がある。俺の勘だけど、あの手のタイプは悪知恵働く系だな。それはあなただけでなく、他のスタッフや私も同じ。今厳しいからねー」
パワハラで騒がれる――想像するだけで嫌になる。
18年前、新卒で入った時、他所の店舗で店長から恫喝や人格否定されるようなことを言われていた。
クズやバカは序の口。お客様からクレームきたら、切腹しろと言われるし、両親や卒業した学校をバカにされたり、容姿を侮辱されていた。
ターゲットは内向的な人。尚且つ非体育会系。
店長はガチ目の体育会系で、精神論や無茶振りが普通だと日頃から言っていた。
気の合う人にはとことん優しいが、そうでない人には、ストレス発散としてターゲットに嫌がらせしていた。
私より2年後に入った後輩が店長のパワハラが原因で自殺。両親が裁判を起こして、社内で大問題になった。裁判は3年ほどかかった。店長がごねたから。
店長は懲戒解雇及び、300万の支払いを命じられた。
5年前、会社で同僚を恫喝及び殺害で捕まって、今は塀の向こうらしい……とニュースでやっていた。
当時の社長にも耳に届いてるはずなのに、対応が遅く、厳しい処分を下したとはいえ、いまだに不信感を持っている。
今度はその社長の妻がここにいる。
正直あの社長の妻だしと思って期待していない。いや、しなくて正解だった。
世間知らずにも程があるし、年齢にしては幼すぎる。まるで中学生を相手してるみたいだ。周りからなんでもやってもらって当たり前な態度が全面に出てて、仕事する姿勢が低い。このままだとここでトラブルが起きるのも時間の問題だ。
新卒で入った時のような思いをさせたくないけど、一歩間違えれば訴えられるリスクがある。
そんなこと恐れてまでやる必要あるのか。
「悪いけど、もう少し様子見させてくれ。明日休んでいいから。俺が代わりにやる。おばちゃん達には言っておく」
「……そうですか、わかりました」
不承不承で福島は休憩スペースに戻る。
野崎は額に手を当て頭をフル回転させる。
社長のお願いとはいえ、引き受けたくないのはこちらも同じだ。
彼女は自業自得だ。そのツケを支払う手伝いをする義理なんて本来なら必要ない。
今まで身内が入ってくることはちらほらあったが、今でも続いてる人、身内がいるから簡単にやめられないだろうとたかくくってる人、やりたい放題の人色々いる。
彼女は身内どころか社長と実家の名前だしてアピールしているが、あんなの意味ない。ここでは通用しない。いや、させない。
特別扱いを期待しているのだろうが、社長の強い意向で、決して身内だからと甘やかすなと強く言われている。それは他の人も同じだ。
彼女は子供の頃から特別扱いされるのが当然な環境にいたのだろう。
それが挨拶や勤務態度に現れている。
そもそも出勤するのに人事のトップの運転で来る所でおかしいが、遅刻と無断欠勤させないための策だという。
自分が可愛い可愛いというなら芸能オーディションとかモデルになればいいのに。
事務作業している野崎に詰め寄る福島は口調が強くなっていた。
結花が帰ったのを見計らっての発言だ。
「また、やらかした?」
「やらかしたを通り越してます。あれじゃ他のスタッフ達に悪影響ですよ」
勤務状況を報告する福島に野崎は頭を抱える。
「ネイルまだやってたんか……前回の勤務の時に、控えるようにお願いしたんだけどなぁ。人事部長にも言われてたのに。お金出せとかふざけてるな。いや……」
もしかしてわざとあのスタイルでやって、勤務中にネイルが外れたのを、会社のせいにするとか?
ありそうだが、多分人事部長が却下するだろう。
多分知らないでやってるな。
「こういう職業でネイルだめって知らないですかね。今日も朝礼の服装も酷かったですし。本当に働いたことないんだなと思いました」
最初見た時あの格好でやるつもりなのか、正気なのかと思った。
ちなみに今日はマイクロミニスカに肩出しのトップスだった。どこで買ってきたのか聞きたくなる。
たとえ働いたことがなくても、わからなければ調べたり、聞いたりするものだとおもうが、そういうことが全然ない。
「で、教えた時反抗して??」
「ええ。ごみ捨てなんか、呉松家のお嬢様に汚れ仕事させるなんて酷いって言ってました。どこがお嬢様なんですかね? 成金の間違いでしょ? だいたい呉松家って何ですか?」
野崎は結花の実家について説明すると、呆れたようにため息をついた。
「そうなんですね。私はこの辺の人ではなかったので、全然知りませんでした。バカバカしい」
吐き捨てる福島に野崎は目を丸くする。
いつもにこにこしていて、あんまり人前で怒るタイプではない彼女だが、バックヤードではちょいちょいきつい言い方になる。でもそれは店長である野崎の前だけだ。
「あれ、あのままだと勤務の士気やお客様からクレーム来るのも時間の問題だと思います。はっきりいってらここで働かなくてもいいのでは? そんなに働きたくないのなら。あのおばちゃん達も少し甘やかしてる所ありましたから……ゆいちゃんって呼んじゃってるから」
甘やかしてるという単語に野崎は「業務ノート読んでないのかな」とボヤく。
「甘やかすなって言ったんだけどねー。相川くんはどう?」
「狙われてますね。本人は物凄い嫌そうにしてましたし、挨拶も最低限になってますね。恐らく彼女のことが苦手なんでしょう」
相川は結花が話しかけても距離を取る上に、淡々と返していた。
「あー、あの子ね、女性が苦手なんだよ。依田さんみたいなタイプが。だからシフト変えて欲しいって申し出があったんだ」
「あー……なるほど……あれは女性でも嫌ですね。同性から嫌われるタイプを地で行く。喋り方といい、態度といい、私はハッキリ言って嫌いです」
「そこまで言い切るか……福島さん」
強く切り捨てるかのような物言いに野崎は「ちょっと言い過ぎなんじゃ」と咎める。
「だいたいいい歳して自分のことを名前で呼ぶ人や人で態度変えたりする人間にまともな人はいません。よく言うじゃないですか、同性から嫌われてる人は要注意って」
「まともじゃないからああなるんだよ。今まで言葉遣いや態度に注意されてきてないんだよ。多分周りは諦めてるんだと思う」
「だからと言って、私達が彼女の性格を矯正しなさいと言うのですか?!」
――依田結花は可愛くてヤバいではなく、高校生バイトの子達より非常識すぎてやばいとして広まっている。
ヒートアップする福島に野崎は「落ち着いて、深呼吸して」と宥める。
「落ち着いてられますか! 私達がご機嫌取りやお守りしろってことですか?! 社長の妻だか、呉松家のお嬢様だか知らないですけど、ここまで世間知らずで非常識な人間初めて見ました。これ以上は無理です。他のスタッフもそのうち彼女のわがままで辞める人出てくると思いますよ――とっとと辞めさせて下さい」
身を乗り出して詰め寄る福島に「ま、待って……まだ来たばっかだから、もう少し様子見させてくれ」と説得する。
初めてだからとか働くのが初めてだからはともかく、それなりの態度をとれば、丁寧に教えるし、応援しようと気持ちにもなる。
しかし彼女の場合、裕福な育ちで社長の妻であることを喧伝し、開き直ってやらない口実を探しているだけ。男性スタッフを漁りに来ただけだ。
自分の立場をまだ理解してないのは態度でわかる。
今日も朝の挨拶は、若い男性スタッフと同部署のおばちゃん達。彼女達は甘やかしてくれるからなのか、挨拶しているだけだろう。
男性スタッフは適度に距離置いて、必要最低限のやり取りしかしないと言わんばかりに、挨拶だけで済ませていた。彼女が話しかけても、困惑した顔して、離れていた。
「私、口うるさい人ですかね? 彼女と一緒にやれる気がないです」
ボソッと呟いた言葉が野崎の心に突き刺す。
「福島さんが言ってるのは正しい事だし、彼女が言われても仕方ない事かなと思う。ただ個人的に心配なのは、彼女があなたの言い方や態度をパワハラだって騒ぐ可能性がある。俺の勘だけど、あの手のタイプは悪知恵働く系だな。それはあなただけでなく、他のスタッフや私も同じ。今厳しいからねー」
パワハラで騒がれる――想像するだけで嫌になる。
18年前、新卒で入った時、他所の店舗で店長から恫喝や人格否定されるようなことを言われていた。
クズやバカは序の口。お客様からクレームきたら、切腹しろと言われるし、両親や卒業した学校をバカにされたり、容姿を侮辱されていた。
ターゲットは内向的な人。尚且つ非体育会系。
店長はガチ目の体育会系で、精神論や無茶振りが普通だと日頃から言っていた。
気の合う人にはとことん優しいが、そうでない人には、ストレス発散としてターゲットに嫌がらせしていた。
私より2年後に入った後輩が店長のパワハラが原因で自殺。両親が裁判を起こして、社内で大問題になった。裁判は3年ほどかかった。店長がごねたから。
店長は懲戒解雇及び、300万の支払いを命じられた。
5年前、会社で同僚を恫喝及び殺害で捕まって、今は塀の向こうらしい……とニュースでやっていた。
当時の社長にも耳に届いてるはずなのに、対応が遅く、厳しい処分を下したとはいえ、いまだに不信感を持っている。
今度はその社長の妻がここにいる。
正直あの社長の妻だしと思って期待していない。いや、しなくて正解だった。
世間知らずにも程があるし、年齢にしては幼すぎる。まるで中学生を相手してるみたいだ。周りからなんでもやってもらって当たり前な態度が全面に出てて、仕事する姿勢が低い。このままだとここでトラブルが起きるのも時間の問題だ。
新卒で入った時のような思いをさせたくないけど、一歩間違えれば訴えられるリスクがある。
そんなこと恐れてまでやる必要あるのか。
「悪いけど、もう少し様子見させてくれ。明日休んでいいから。俺が代わりにやる。おばちゃん達には言っておく」
「……そうですか、わかりました」
不承不承で福島は休憩スペースに戻る。
野崎は額に手を当て頭をフル回転させる。
社長のお願いとはいえ、引き受けたくないのはこちらも同じだ。
彼女は自業自得だ。そのツケを支払う手伝いをする義理なんて本来なら必要ない。
今まで身内が入ってくることはちらほらあったが、今でも続いてる人、身内がいるから簡単にやめられないだろうとたかくくってる人、やりたい放題の人色々いる。
彼女は身内どころか社長と実家の名前だしてアピールしているが、あんなの意味ない。ここでは通用しない。いや、させない。
特別扱いを期待しているのだろうが、社長の強い意向で、決して身内だからと甘やかすなと強く言われている。それは他の人も同じだ。
彼女は子供の頃から特別扱いされるのが当然な環境にいたのだろう。
それが挨拶や勤務態度に現れている。
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