世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!

月見里ゆずる(やまなしゆずる)

文字の大きさ
140 / 140
木は実によって知られる

26

しおりを挟む
 執行猶予がついた結花は、都内の更正施設に入った。
 宣言通り、稲本夫妻と悠真そして静華も身元引き取りを拒否したから。

 更正施設での結花の評判は良かった。
 お行儀よく振る舞い、作業は真面目に……寮母やスタッフからは評判が良かった。
 言葉遣いも丁寧になり、多少丸くなった――は表向きの顔だった。
 裏では共同生活している人達、特に年下の子達に陰湿な嫌がらせをしていた。
 人のプライベートを聞き出し、弱味をついて、脅した。
 気に食わないことがあれば、八つ当たりや、怪我をさせるようなことをして、ニタニタ笑っていた。
 共同生活している人達は全員女性で、みんな結花より年下の10代から20代の5人ほど。
 自分の親ぐらいの人間にいきなり嫌がらせや脅しをされ、社会経験の少ない彼女達は泣き寝入りするしかなかった。
 更正施設は2、3ヶ月で出て行くので、短期間で住人が入れ替わる。そのため結花の悪行は知られることなく、自立することが出来た。
 元々共同生活無理な結花が早くでるために、優等生キャラを演じていただけだった。
 
 他の人同様3ヶ月で出た結花は、ホームレスになってしまった。
 冬の寒い頃だったが、結花の姿を見た支援団体の男性が「寝食、職場が保障されているところがあるので、いかないか」と誘った。
 働くのは不本意だが、衣食住そろっているならとすぐに話に乗り、その場所へ向かった。
 
 都内から車で1時間ぐらい離れた辺鄙な山奥の施設だった。
 まるで刑務所のような要塞と無機質な鉄筋コンクリートの建物。
 まるで隔離されたような村と言えばいいのか、数百人の男女が集団生活をし、せっせと畑仕事や工場仕事をしていた。
 服は冬の時期にも関わらず、薄着の青のジャージだった。男女問わず。
 結花の中に嫌な予感が走ったが、もう引き返せなかった。
 ここに入ると一生出られない。同行者兼紹介した男性――洲本すもとが運転中に言った。
「え? ここなに?」
 洲本に尋ねても「農業工場」と答えるだけだった。
「なんで、こんなにみんな薄着なの?」
 その瞬間洲本は「つべこべ言わずついてこい」と口調が荒くなった。
 公園で声かけられた時は穏やかだったのに、ここに来て急に豹変した。

 洲本についていくと地下室のような建物が見えた。
 大量の電灯とエアコンに遮光するかのようなカーテン。何か甘いにおいがした。思わず鼻をつまむ。
 白みを帯びた緑色の葉っぱが見えた。
 せっせと収穫の作業だろうか男女が段ボールに詰める。
「今日からお前はここで働いて貰う。さっきも言ったがここにいる以上一生出られない。いいな?」
「ちょ、ちょっと待ってよ! ここなに? 変な匂いするんだけど?」
「口答えするな。お前は俺にとやかく言える立場じゃない」
 洲本は「こいつが今日からお世話になるやつだ。みっちりやってくれよな」と結花に厳しい指導をお願いした。

 この建物での就業が終わると、各自大部屋に入れられる。
 結花は女性用の部屋に入ったが、思わず声を上げた。
「なにこれ?!」
 6畳の畳敷きに10人がぎっちぎっちに入って、申し訳程度にある毛布数枚を2人で使うというものだった。
 部屋の中はまるで刑務所の牢屋のような感じで、室内に監視カメラがあった。
 エアコンがあるものの、全然効いていなかった。
 髪はボサボサ、化粧気もなくしわがめだち、口元が悪人のような顔立ちになった結花。
 服も露出多い物ではなく、みんなと同じ青のジャージに着替えた。ここでは仕事中だろうが、就寝だろうがジャージを着て過ごすと。
 既にいる先輩方の年齢は幅広い。
 結花と同い年ぐらいから、下は10代の女性。
 ここのメンバーと寝食をともにすると洲本に言われた。
 名前も呉松結花ではなく、120番と呼ばれるようになった。
 刑務所同様、名前が剥奪されるのである。
「あんた新入り? 私50番なの。ここは一生出れないよ。おめでとう!」
 同室の女性の1人がダミ声で話しかけた。
「わ、私は、呉松結花よ! ゆいちゃんって呼んで!」
「残念ながら、ここは名前で呼ばれない。全員番号で呼ばれる。刑務所と一緒さ。なんたって、ここは、問題起こした人間のだから」
「ど、どういうこと?」
「文字通りさ。私達に行き場がないの。今の時代、一回やらかした人間は社会に戻られるのを嫌がるからねぇ。だからね、人と顔会わせないように、こんな僻地で集団生活おくるのさ。日本各地の”問題児”が送り込まれるんだよ。ここはある意味治外法権だから、館長の言うことが絶対なの。私達に人権なんてないんだから」
 自嘲気味に話す女性は、なにか諦め切ったような顔をしていた。
「人権ないって。そんなのおかしいじゃん?」
「おかしいっていっても、あたしたちに言われてもねぇ。夏の暑いし、冬は寒い。仕事が出来なければ罰が待っている。館長や各部屋のリーダーの機嫌を損ねたら死んじゃうからね。服もこんなのだし、虫も出るから」
 同室の人達は体をかきむしって必死にこらえる。
「あ、病院とかないから、死んだらそれまでだからね。毎日誰かしらここの施設で死んでるから」

 施設――暁水館ぎょうすいかんの本当の過酷さはこれからだった。


 近隣住民から変なにおいがすると暁警察へ通報があった。
 暁水館の中を調べると、例のビニールハウスから大麻栽培していることが分かった。
 主犯として館長の洲本、彼の妻、兄弟が捕まった。
 そこから芋づる式で、暁水館の実態が分かった。
 犯罪をして出所した人がホームレスになり、衣食住がない人たちをあつめ、大麻栽培に関わらせ、虐待や劣悪な環境で働かせていたこと。
 そこで亡くなった人達は近隣の山中で遺体を遺棄していた。 

 8月12日、あかつき町5丁目の山中で、女性の遺体が発見されました。
 遺体の損傷がひどく、警察は遺体の身元判明を急いでいます。

 外傷が目立つので誰かに襲われたか――。
 警察は事件と事故の両面で捜査している。
 身元は結花だと分かった瞬間、マスコミが陽鞠のもとへ来た。

『因果応報でしょうね。家族を裏切り、同級生いじめたりしていましたから。やっとこの世を去ってほっとしています。あの人にふさわしい最期だと思います』
『誰かに恨まれたんですないですか? 嫌ってる人いっぱいいましたから』

 悠真と陽鞠のコメントは何一つ結花を悼むものではなく、いなくなってよかったと遠回しに喜んでいるものだった。 
 良輔と静華も「無関係です」と遺体の引き取りを拒否した。

 自治体で無縁仏として遺骨が保管されることになった。
 ネットでは怨恨説や自作自演説、暁水館にいたことから、そこで死んで遺棄されたのではなど推理を披露する人が出た。以前炎上したことや、琥珀と翡翠を誘拐して脅迫していたことから、因果応報と喜ぶコメントが並んでいた。
 暁水館は、出所した人を支援するという名目で、山奥に隔離し、劣悪な環境で働かせてたことから、そのやり方を支持するコメントも相次いだ。
 因果応報や犯罪者にふさわしい末路と。
 
 ――世界一可愛いゆいちゃんは、イケメンで高収入な夫と結婚して可愛い子供を産んで、おばあちゃんになっても孫と子供に囲まれて生きていくの。

 彼女の願いはむなしく消え散り、最後は身内から見放された形だった。享年56歳。

 見た目だけで甘やかされ、学習も成長も努力もせず、悪行を重ねた女の末路である。
 これ、因果応報なり。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...