復讐のナイトメア

はれのいち

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第二 天敵 風間一心

2-11

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外へ出ると月明かりが校庭を照らしていた。

「浜家……今日は、もう遅いから家まで送ろう」

「ありがとう。とても嬉しいです……瞬様」

「……前から思ってたんたけどさ瞬様ってやめてくれないか」

「ごめんねさい不愉快な思いをさせて……」

さすがに今まで真山が、受け入れてくれていた、と思っていただけに彼女は、ショックを隠しきれなかった。浜家は徐々に俯き話す声も小さくなっていく。

浜家は、なぜか悲しさで涙が込み上げる。歩く気力も無くなり、彼女は足を止めた。

「どうした浜家、体調が悪いのか? ……それと、これから俺を呼ぶ時は瞬でいい……呼び捨て頼む」

あ然とする彼女……。

「私……早とちりしちゃいました。あの学校での口吻で瞬様……瞬に嫌われたと思っちゃいました」

「すまん勘違いさせて、なぁ浜家……俺も茉子と呼んでも良いか?」

彼女は、眩しい程の笑顔になり喜んで言った。「お願いします」

更に真山は口を濁しながら微かな声で彼女に話しかける。

彼女は、そんな真山を優しくじっと見つめる

咳払いをし気持ちを落ち着かせ真山は、仕切り直して、もう一度彼女に背を向けながら告げた。

「あのさ、どうせなら俺達……」

じっと……真山を見つめる浜家。

「浜家……否、茉子まつこどうやら俺は、お前を愛しているようだ。俺の彼女になってみないか?」

浜家は、真山の背中に身をあずけギュッと抱きしめ彼女は囁いた。

「はい……なりたいです。瞬に身も心も全て捧げたいです」

「じゃあ決まりだ……今から俺らは恋人同士だ」

 そうして二人は薄暗く、まばらな外灯の下を腕を組みながら寄り添い歩いていく。

二人は袋小路になった裏通りの方へ進む。

――まさかっ俺の鼓動が激しくなる。

――俺は、まだ心の準備が、こんな事なら今日は新しいパンツを穿いてくるんだった……。

そうして浜家は、昭和を感じさせる様な二階長屋の前にとまった。

「ここ私の家です。良かったら、夕ご飯一緒に食べませんか」

「あっそうだよな……ご馳走になっていこうかな」

――俺は……恥ずかしい勘違いをした。

「狭い家ですけど、どうぞ……直ぐにご飯の支度しますね」

壁には、茉子が赤ちゃんの頃からの皆で撮った写真が飾っているのをみて温かさを感じる真山。

――なんか妹の夏向が生きていた時、俺の家もこんな感じだったな……。

「もう少しでご飯出来ますので、先にお風呂入りませんか?」

「そうか、じゃあ遠慮なく……もちろん茉子も一緒にだろ」

「大変嬉しいです。けど心の準備がまだ……」

「そうか、じゃあ俺一人で入るか」

窓から月を眺め浴槽に浸かる真山。

――何年ぶりだ……こんなに心も温まる風呂に入ったのは……。

真山は茉子に出会った時の事を思い出す。
 
――俺は茉子をいじめから助けたが、俺も茉子に孤独から助けられた……。

「ここに着替えを置いておきますね」

真山は風呂から上がり新品の下着とスウェットに着替え、ご飯が並べてある食卓に座る。

「凄いな……これ全部、茉子が作ったのか」

肉じゃが、豚汁、鰤の照り焼きにツナサラダ。

――美味そうだ。早く食いてえ、俺の口の中は、もう唾液が次々の湧き出てくる。

「冷めないうちにどうぞ召し上がれ」
 

「そういえば両親は?……」

「母は介護施設で働いていて殆ど夜勤で週末以外夜は家にいません。父も出稼ぎでお正月しか帰ってきません」

「そうか……兄弟は?」
 
「六人兄妹で社会人の兄一人と社会人の姉が一人いて大学生の兄と姉が二人で、その下に兄が一人いて父と一緒に仕事しています。……だから今は母と私の二人暮しなんです」

――俺はいつも一人……。父は、単身赴任でほぼ家にいない。生活費を渡しにたまに帰ってくるだけ、妹の夏向がいなくなってから、俺と父とのコミニュケーションはそれだけだ。

「どうしたの瞬……ぼっとして何か考え事?」

「茉子の家はとても愛情を感じるなと思ってな」

浜家は少し頬をぽっと赤らめ、甘く……優しく囁いた。
「宜しければ、これからも毎日一緒に夕ご飯どうですか? 一人で食べると、とても寂しいので是非お願いします」

「そうか茉子がいうなら……だが気持ちだけだが食費は払う。それで良いか」

という事で真山は、これから毎日、浜家と夕ご飯をともにするのであった。
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