聖邪の交進

悠理

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その病の始まりは、黄昏の書に記される滅びのすぐ後だと言われている。
世界を破壊し、なおも残った悪魔たち。彼らは存在そのものが災厄と言われており、彼らが纏うとされる「邪気」が、人類の体を蝕んだ。
邪気は人間を死に至らしめるだけにとどまらなかった。邪気は体内を巡り、人間を内側から変化させる。やがて人の皮を食い破るように、人間を悪魔へと変貌させた。それが「悪魔病」と呼ばれる病だった。



「どうしましょうか……」

地下を上がり、ボロ屋を出たモモが呟く。

「私たちがすべての人に認められていないことは把握してましたが、あんなにはっきり言われたのは初めてです」

「そりゃあ仮にも守ってくれてはいるからな。表立って文句言やぁ、お前らの庇護が受けられなくなるかもって思う奴がほとんどだろ」

「心外です。信じるものが人それぞれなんてわかってますし、そういう人も含めて全て救うのが、暁の門の教えなのに」

「ま。熱心な教徒でもねえと、そこまで知らねぇもんだろ。あとな、世の中にゃあ宗教ってだけで毛嫌いする人間もいるんだよ」

「サラさんたちがそうだと?」

「さあな。見たところ訳ありみてぇだし。あの小娘の反応からして、知り合いか誰かが悪魔認定されて殺されでもしたってところじゃねぇか」

真偽のほどは、二人にはわからない。それが本当だとすれば、彼女が気の毒に思えた。
同時に、彼女に見える因果の原因がそれではないのかと、モモは考えた。

「悪魔になってしまった人を、再び人に戻すことは出来ません。悪魔になってしまったら最後、彼らは人類の敵として、手を下される」

モモもよく知っている事だ。決して多くはないが、悪魔になった人間を殺す現場を見たことだってある。そしてその誰もが、なりたくてその病に罹ったわけではない。

「主がお目覚めになれば、そんなことはなくなるでしょうか」

腰にぶら下げたホルダーにくくられた本を手に取り、静かに撫でる。
黄昏の書を聖書とする教団、暁の門。彼らは今、世界で最も影響力のある宗教団体だ。
彼らが保有する「聖水」は、悪魔を避ける効果を持つ。これを持って各地に赴き、町や村の周辺に撒くことによって、人が悪魔に襲われないよう活動している。
暁の門が人々を庇護するのは、決して一方的な善意だけではない。彼らの目的は「主」の復活であり、その為に人々の信仰心が必要なのだ。
黄昏の書曰く、悪魔の誕生は人々の信仰が薄れた事によるという。そして世界に蔓延った悪魔を完全に消し去るには、大いなる主の力が不可欠だという。
ゆえに暁の門は、主の復活を目的とし、その為に必要な信仰を集めている。悪魔を遠ざける聖水も、悪魔病の治療に使う聖装具も、全て主によって託されたものとして、主を崇めるようにと人々に教えを広める活動をしていた。

モモも暁の門の修道女なので、その活動を行う立場にはある。だが無理な改宗を進めるつもりは一切なかった。彼女はあくまで、すべての人を救って、世界を平和にしたいだけだった。
思い悩む彼女に、ボロ屋の前に置いておいた棺桶を担いだウルゴが、頭をポンポンと叩いた。

「主がどうだかは知らねぇけど、俺ら人間は出来ることを全力でやるしかねぇんだよ」

そのまま彼女を追い越して、歩を進める。

「悪魔を殺しに行くぞ。それもまた、お前が望む平和のための活動だろ」

「……はい。ですが先に、ここの教会に立ち寄りましょう。この町での悪魔病の記録を確認しておきたいので」

心の中で気合を入れ直し、ウルゴに並ぶ形でモモも歩き出した。
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