聖邪の交進

悠理

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四人が出てきたところは、玄関とは真逆の位置にある。町を守る壁をすぐ前にして、そこをつたうようにその場を離れる。
燃える家屋から離れて、火炎瓶が投げ込まれたであろう場所の方へ向かうと、少し離れた場所に多くの人影を捉えた。そのほとんどが若者のようで、彼らは口々に叫んでいた。

「悪魔の一味に裁きを!」

「背信者を許すな!」

概ねそんな内容のようだ。視線は燃える家屋に向けられており、まだ四人の姿に気が付いていない。

「誰が悪魔だ……」

彼らの叫びを聞いたサラが、小さくつぶやいた。

「こんなことを平気でする、あいつらの方が悪魔じゃないかっ!」

サラが叫ぶと、若者たちはこちらに気づいたようだ。何人かが近づいて来ると、その誰もが忌々し気に睨みつけてきた。

「まだ生きていやがるか。背信者め……」

「お待ちください! 皆さん、私の話を聞いてください!」

サラをウルゴに託して、モモが先頭に立った。修道服を着た彼女を前に、いきり立っていた若者たちも、一度口を閉ざした。

「この方々は、決して悪魔でも、背信者でもありません! 皆さまと同じ、罪なき人です!」

モモの声に、誰かが「違う!」と叫び声を上げた。

「違くありません! 皆さんよく見てください! 彼女らに角がありますか⁉ 鋭い牙や爪がありますか⁉ あなた方と、どこが違いますか⁉」

「見た目じゃない! そいつらは悪魔の身内だ! だったら全員悪魔だ!」

ある種の熱を帯びた彼らに、モモの言葉は一切届かなかった。

「あの女も背信者だ! ぶっ殺せ!」

雄たけびと共に、石や空き瓶が投げられる。モモが腕で防ごうとするが、襟を引っ張られて後ろに下げられる。

「こういう時は俺の出番だろ」

入れ替わるように、ウルゴが前に立つ。モモたちに被害が出ないように、投擲物を一身に受け止める。
そんな中。投げられた石が、彼の帽子を弾き飛ばした。

「お、おい。あれ……」

帽子の下には灰色の髪があり、それが覆う額から目元にかけて、鮮やかな赤色の痣が広がっていた。

「じゃ、邪痕だっ! あいつも悪魔だったんだ!」

騒ぎはさらに大きくなった。誰もが悲鳴を上げ、物を投げる手が激しくなる。ウルゴが前に出る時に降ろしたセティアを支えたサラが、彼の後ろ姿を見て呆然としていた。

「あいつも悪魔病だったの?」

「いえ。違います」

同じく後ろにいたモモが答えた。

「ウルゴさんが嫌がるので、普段は隠しているのですが、あれは聖痕なんです」

「聖痕?」

「はい。一般的には、神に選ばれた聖者の証です」

「は⁉ 聖者⁉」

改めてウルゴの後ろ姿を見る。三人を覆うほど大きな体。それに違わぬ低い声と、そこから出ていた荒っぽい口調は、聖者のイメージとは到底かけ離れていた。

「しかし聖痕と邪痕の区別もできないとは……」

嘆くようなモモの呟きに、サラは彼女を睨みつけた。サラにとっては、あれこそが教団の教えの体現に思えたからだ。なにせ自分の父親は、悪魔病が治らぬからと、彼らに追放されたのだから。

「他人事みたいに言ってるけど、あんたらが余計な教えを広めなきゃ、こんなことにはならなかったんじゃないの?」

非難めいたサラの言葉に、モモが胸を痛めたような表情を浮かべる。それがまるで彼女が被害者であるかのように映り、サラは彼女に怒りの矛先を向けた。母をゆっくり地面に降ろし、家の中での続きをするかのように、彼女の胸倉を掴み、押し倒した。

「全部あんたらのせいだ。主なんてものを作り上げて、色んな人に信じ込ませて。悪魔病に罹る人間が、まるで悪いみたいな教えを広げて。全部全部、あんたらのせいで……」

モモのきれいな顔へ、拳を振り下ろそうと右手を上げる。モモは一切抵抗する様子を見せない。

「サラさん……」

モモが呟くような声を出すと、サラと目が合った。怯えた様子など一切ない。むしろサラに歩み寄ろうと、慈しむような表情を浮かべた。

「あなたの怒り、私には到底推し量ることはできません。だから、どんな形でも構いません。あなたの想いを、教団への怒りを、全て私にぶつけてください」

決して目を背けないと、モモはサラを真っすぐ見つめた。サラの右手が、行き場をなくしたように掲げられている。拳を握るが、振り下ろされずにその場で硬直していた。

「なんだよ。なんなんだよ……」

もうどうすればいいのかわからなくなってきた。教団は嫌いだ。だがここまで真っすぐに自分と向き合う彼女に対して、この拳を振り下ろすべきだろうか? 彼女は本当に、自分の敵なのか。

わからない。わからない。なにもわからない。思考が混濁してきた。この右手は、本当に自分の手なのだろうか。

「サラさん!」

それまで何の抵抗も見せなかったモモが、ここに来て急に体を起こした。今度はサラが抵抗せずに、地面へと倒れそうになる。そんな彼女を、モモが慌てて支えた。
サラの右手に、黒い痣が浮かんでいる。悪魔病の証である邪痕だった。

「ウルゴさん! すみませんが、これから私たちに誰も近づけないください!」

「あ? おいそれって……」

「ごめんなさい! もう話している暇はありません!」

サラの右手の邪痕は、すでに腕まで伸びている。あまりにも早い進行だった。
ウルゴに伝えた通り、一刻の猶予もない。モモはアミュレットを首から外し、サラの腕に巻き付けると、その手を両手でつつんだ。

「しゃあねぇ。ま、それが俺の仕事だからな」

いつの間にか、飛んでくる物はなくなっていた。目の前の若者らは、木や鉄の棒を構えている。恐怖を殺意で誤魔化し、集団でウルゴにかかる気だ。

「さあ、てめぇら。全員死ぬ気でかかってきなぁ」

自然と口角が上がっていた。相手は人間故、手加減が必要ではあるが、暴れられるこの状況に、彼の昂りが収まらなかった。
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