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「ドエムの住むところにロープあり」
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しおりを挟む低い声に、私はぎくりとして硬直する。
そうだったそうだった。この男はなぜか、いつも背後から現われるんだっけ。キッチンの方を覗いていたチビ朔は声の方を振り返り、やっと来たか、という風に笑った。
「あんたがこいつの彼氏?さっそくで悪いんだけどさ、こいつと別れてくれる?」
ななななん……!なんであんたはそう直球なの!?
もっとこうさあ!見知らぬ人の家に押しかけてる罪悪感とか、急にこんなこと言われたら困るだろうなとか、そういう人らしい感情はないわけ!?
私は怖くて顔を上げられなかった。もしかしたら今、向井主任モードかもしれないし。それだったら超怖いし。
「あ。ていうかさあ」
チビ朔は私の横を通り過ぎて主任の前まで行き、まじまじと顔を凝視した。それから私を振り返る。
「俺の方がイケメンじゃね?ね?」
同意を求められても……。
すごいよあんた。その図太さに乾杯だよ。
「で?どうすんの?別れてくれる?大人しく言うこと聞いた方がいいと思うけど」
チビ朔はいかんせんチビなので、主任を見上げながら、それでもずばずばと話を進めていく。
私の心臓は、夏の終わりごろにやかましく鳴くセミのように激しく鼓動していた。
ど、どうしよう……。このままじゃきっと、主任と別れることになる。
いいのだろうか?こんな終わり方で。他人に頼って、他人に言わせてしまって、いいのだろうか?
こんな終わりで……いいのだろうか……って
―――よくないでしょ!!
「しゅ、主任!わたし……!」
意を決して顔を上げる。主任はチビ朔ではなく、真っ直ぐな目で私を見据えていた。怒ってるわけでもなく、焦っているわけでもなく、精悍な顔つきで。
その顔を見てしまったら、なんと言えばいいのか分からなくってしまって、一気に狼狽してしまって、私は口ごもる。
「あの、えと……その……」
その時主任は、かすかに微笑んだ。
微笑んだ……というのか、こみ上げて来る愉快な気持ちに耐え切れず、ほんの少しだけ表に漏らしてしまった、という感じだった。
ん?なにその表情……。
それから、私は主任の後ろにある、もはや見慣れたものを見つけた。
あれ~……?なんでそんなとこに例のピンヒールが綺麗に並べて置いてあるのかなあ?なんか……読めてきた。
「このロープってさあ、あんたが使ってんの?プレイの一環として」
チビ朔はぺしぺしと、ロープで主任の胸辺りを叩く。
主任はまだ着替えておらず、スーツの背広を脱いだ格好をしていた。いつもより少しだけ髪のセットが崩れて、前髪が束になって顔に掛かっている。
「俺がしてやろうか?縛ってやるよ、ほら」
けけけ、と笑いながら、調子に乗ったチビ朔は主任の腕を掴む。
ただ、掴んだだけだった。
にも関わらず、主任は腕を捩じ上げられたような格好になり(どうやったかは分からないが、巧みにチビ朔が腕を捩じ上げたように見えるようにして)、苦痛に顔を歪めた。
「くっ!やめろ!」
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