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「電卓になりてーよ」
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しおりを挟む詩絵子はまた暴れだします。朔はそれをすっぽり抑え込みながら、どうしたものかと対処法を考えました。
「レオさん、知り合いっすか?」
後ろからギンガが尋ねました。
「……こいつ、俺の妹なんだよね」
高校の同級生では弱いと思い、朔はとっさに兄妹設定を活用します。
「え!そうなんすか!?うわーレオさんでも兄妹いるんすね?普通の人間みたいじゃないっすかー。でも妹さんはどうやら、電卓じゃないみたいっすねえ」
「そ、そうなんだよー!こいつぜんぜん電卓じゃねーの!計算できないの!」
朔は詩絵子のことを双子の妹だと紹介し、なんとか料金を半額までまけてもらいました。
「いやーマジで助かるよー!」
「まあレオさんの妹ということですから」
「じゃ、あとは俺の給料から引いといてよ。ほら、帰るぞ」
「レオさんお疲れ様っす!あざーしたあ!」
ギンガやスタッフに見送られながら、詩絵子の腕をひいて店をあとにします。外に出てしばらく歩いたところで、朔は勢いよく詩絵子を振り返りました。
「バカ!なにやってんだよお前は!!夜の世界なめすぎだって!ほんとに怖いことになるんだぞ!?」
「やったータダだーラッキー。バンザーイ」
怒る朔とは対照的に、詩絵子は腕を上げて喜んでいます。朔はすかさずその頬をつねりあげました。
「おーーまーーえーーなあ~~~。状況分かってねーだろ」
「び、びたい……じゃんと分がってるよー。私の飲み代を、チビ朔が払ってくれた」
「へえ。酔っぱらってるくせに分かってんじゃんか」
そこで詩絵子は、いきなり頭を下げて申し訳なさそうにしました。
「ごめんなさい。私にはとても返せるような額ではございません」
「いや、別に返さなくていいけど……もうすんなよ?」
溜め息を吐いてそう言うと、詩絵子はぽーっとして朔を見つめました。
「やさしい……あんたって、実は優しかったのね……」
「ははっ、今更気が付いた?惚れた女にはちゃんと優しいのよ、俺は」
詩絵子はススス…っと自分の胸元に手をかけて、赤い顔でこちらを見つめて言いました。
「この代金は、体で支払わせてもらいます……」
「!な、ばっ!」
酔ってもいないのに、朔も赤い顔になります。
「なば?」
「いいんだよそういうのは!お前はまた俺のことをお軽い男と思って言ってんだろ!?」
「喜んでくれるかと……他に方法ないし……」
「だいたいあの土下座彼氏はどうしたんだよ!好きになってきたって言ってたじゃんか!」
詩絵子はとたんに落ち込み、がっくり肩を下げてしまいました。
「主任……奥さんいたの……」
唐突な事実発表に、朔は目を点にします。
は?なに?奥さん?彼女ではなく?
「…………は?」
「ね?『は?』って感じでしょ?」
「いやいやいや、ちょい待って。奥さん?嫁さん?ワイフなの?マジで?」
「マジよ。会ってきたもん。『主人がお世話になってます』って挨拶されちゃったよ。清楚な感じの綺麗な人でさ。主任も私のこと『会社の部下』言うし」
ああ……それでやけになって飲んでたんだ。
彼女の行動に合点がいくと同時に、これはキツイだろうなあ、という自然な感情が湧いてきました。
そして奥さんがいるのに詩絵子と交際している主任に対し、怒りがせりあがってきます。けれどそこを堪え、朔は詩絵子の顔を覗きました。
「大丈夫かよお前?これは相当きついだろ」
「はっはっはーもうわけわかんないって感じだよ。私さーあんまり自覚なかったけど、けっこう主任のこと好きなのかな。すごいパニクってるもん」
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