十三歳の聡

茶熊

文字の大きさ
上 下
5 / 14
1章 退屈から多忙へ

改変

しおりを挟む
チャポン…

あぁいい湯だ。
湯船にゆっくり浸かるなんて何ヶ月ぶりだろうか。
全身の力が抜け疲れが取れていくのを感じる。
ここ最近は面倒で全てシャワーで済ませていたので、どうりで疲れが抜けないわけだ。

聡 (さて…どうするか
まず、どうして俺は中学二年に戻ってるんだ?
記憶がそのままなんてのは、よく聞く話だけど腕力や脚力もそのままなんて…)

そう考えていると俺は今頃になって重大なことを見落としていた事に気付く。

どうやって未来に戻るんだ…?

当然タイムマシーンなんてものは存在しない。
寝て起きたら過去に来ていたのだ。
流石にどうしようもない。

聡 (まず未来に戻るのは一旦後回しだ
いや…未来に戻る必要があるのか?)

未来へ戻っても、そこにはまた退屈と虚無が俺を待っている。
だが今はどうだ?
友人もいれば俺に好意を寄せる人、家に帰れば温かいご飯と家族の温もりが待っている。

聡 (このまま、強くてニューゲームやるのも…悪くないんじゃないか?)

ふとそんな考えが頭の中をよぎる。
中学二年の勉強なんて正直、楽勝だったし真面目に勉強していたらかなりの好成績になるはずだ。
陸上も今の記録を考えると全国も夢ではない。
もうあの退屈な日常はまっぴらごめんだ。
神様がくれた一生に一度のチャンス…これを有意義に使わない手は無い。

風呂から上がった俺は母さんと父さんに一つだけ質問をしてみた。

聡「なぁ母さん…父さん…タイムスリップって出来ると思う?」

父「お前今日変わったことばかり言うな…
そんなの映画の中での話だろ」

母「タイムスリップ出来たら高校の頃モテモテだった田中君に告白しちゃうかも♡」

父「母さん…」

母「冗談よ」

冗談の割にはめちゃめちゃ目を輝かせていたぞ…という顔をしている父さん。
そう、父さんと母さんは高校の頃同級生だったのだ。
高校で付き合い大学も同じところに進学し、そのままゴールイン。
そりゃモテモテだった人の話を聞くと嫉妬するよなぁと思いながら俺は話を続ける。

聡「もしさ、見た目が当時の状態だけど記憶とか筋力とかはそのまま引き継がれるとしたらどうする?」

母父「………」

ヤバい…流石に怪しまれるか?

父「父さんならいつも通りに楽しく過ごすだけかな」

母「私も何もしないかも…その時をめいっぱい楽しむかもしれないわね」

聡「そっか」

父さんと母さんの言うことも分かる。
もしかしたら未来に突然戻るかもしれない。
その事を考えたら過去をめいっぱい楽しまなきゃ損だもんな…。

聡「タイムスリップできたらいいよな~」

父「タイムスリップしたら色々と面倒なんじゃないか?」

聡「どうして?」

目を丸くして俺は聞く。

父「ほら、よく映画でもあるじゃないか。
自分が起こした行動がキッカケで友別れしたり本来出会うであろう人間に出会わなくなるとかさ」

聡「確かに…」

父「父さんは、さっきああ言ったけどな。
未来は変えてはいけないと思うんだ。
ましてや記憶も力もそのままなんだ、起こるべくして起こったことを改変するのは必ずしも良い結果を生むとは限らない」

聡「なるほどな」

父さんのこんな真剣な顔は初めて見た。
家では酒を飲んでゲラゲラ笑っている父さんがこんな真剣に話をするなんて…。

父「だが、悪い事ばかりだとも限らないけどな?」

どういうこと?と俺は更に相槌を打つ。

父「未来を変えたいと思って行動したことが良い結果や悪い結果を生んで結果的にはプラマイ0になると思うんだ」

聡「じゃあ仮にタイムスリップしたとしても未来は大きくは変わらないっていうこと?」

父「まぁ簡単に言えばそういうことだな
あくまで父さんの持論だけどな笑」

聡「父さんもこういう、もし~だったら…みたいな話が好きだとは思わなかったよ
酒の話しかしないかと笑」

母「そうねぇ、アナタ珍しく饒舌になってたわよ笑」

父「こう見えても父さんはファンタジックな話大好きなんだぞ!」

俺と母はケラケラと笑った。
父さんはお酒のせいなのか馬鹿にされてムキになってるのか顔を赤くしてそう言った。

母「じゃ、聡はもう自分の部屋に行ったら?
また課題とか出てるんじゃないの?」

あっ…忘れてた。
給料貰えるなら喜んでやるもんなんだが…

聡「分かった~やってくるよ
父さん面白い話聞かせてくれてありがと!」

父「まぁ父さんは戻れるなら記憶も力も全部リセットして戻りたかったよ」

聡「え~俺は記憶も力もそのままがいいな」

父「それはそれで良いかもな」

そう言うと父さんはテレビのチャンネルを変えて酒を飲みながら、おつまみを食べだした。
俺は部屋に戻りカバンから課題を取りだし黙々と手を動かす。


聡「ふぅ~終わっ…もうこんな時間か」

気付けば時計の短針は12を指している。

聡 (寝るか…)

俺はベッドに横になって父さんの持論も否定はしないが、やっぱりこの力を有意義に使って未来の自分を変えたいと思った。
何か頭の中に引っかかりを覚えたが課題で疲れたせいか激しい睡魔に襲われそのまま眠りについてしまった。


しおりを挟む

処理中です...