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第4章 帝都編2
第57話 メキロスフィア
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「ねえ、きんちゃん。私、魔法の勉強全然してないねぇ」
美羽は、宿のベッドに寝転びながら、きんちゃんを頭上に持ち上げて言った。
きんちゃんは金魚ちょうちんの体を縦に振る。
「はい、美羽様は今まで治癒と歌の二つで神気の強化を図っていたので、なかなか魔法を使う時間はありませんでしたね」
「でもさぁ、私、いまだにまともな攻撃手段は女神の手と氷の棒くらいしかないんだよね。
しかも氷の棒はきんちゃんはたくさん出るのに、私は1本だけ。あれ、私が考えた魔法だよね。なんできんちゃんの方がうまく使えるの?」
美羽がぷりぷりしながら、きんちゃんの金魚のほっぺを引っ張った。
「それは、私は魔法生物ですから。魔法に親和性が高いので仕方ありません」
「ずーるーいー」
「ずるいと言われましても」
「どうせきんちゃん、あれ以外にも魔法が使えるんでしょ。使う必要ないだけで」
「まあ……はい」
「やっぱりずるだ。私はこの魔法格差に抗議するー」
「でも、女神様が美羽様の魔力は大きすぎて、体に負担がかかると……」
「私はこの魔法格差に抗議するー」
寝転がりながら行っているのだから、説得力も何もない抗議なのだが、美羽に激甘なきんちゃんには効果があった。
「それでは、安全なところでやってみましょうか?」
「やったー、きんちゃん大好き」
美羽は持ったままのきんちゃんの唇にキスをした。
「みうさま~」
きんちゃんの体は元から赤いのに、さらに真っ赤になる。
「うふふ、変なきんちゃん」
美羽は一度きんちゃんを抱きしめてから、ベッドを飛び降りた。
落ち着いたきんちゃんは一度咳払いをしてから話し出す。
「それでは美羽様。何を習いたいですか?」
「あのさ、今更なんだけど、きんちゃんって浮いてるよね」
「はい、これは浮遊魔法ですね」
「やっぱり魔法なの? 私もやりたい。二人でふわふわお空でお散歩しよう」
「魅力的なのですが、美羽様がやるとなると、相当の魔力操作が必要になります」
「ぶー」
「そ、それでは、段階を踏んで練習しましょうか」
「うん!」
「攻撃魔法はいいのですか?」
「やりたいなぁ。色々やりたい」
「どれか一つずつでないと」
きんちゃんが難しい顔をして答える。
「それじゃあさ、部屋の中でやる時は危なくない魔法で街の外でやる時は攻撃魔法はどう?」
「そうですね。それがいいでしょう。
もっとも、美羽様は危なくない魔法でも、暴走させてしまうリスクがあるそうなんです」
そういうと、美羽は悲しそうな顔になる。
「私、そんなにダメな子なの?」
きんちゃんは美羽の悲しそうな顔には逆らえない。
「い、いえ、そんなことはありません。
ただ、純粋に亜人も含めて人族が持てる魔力量の限界を遥かに超えて持っているのです。
ですから、美羽様のちょっとだけ魔力を使うという行為は、常人だと全力で魔力を振り絞っているのと同じくらいなんです。
例えば、ティースプーンで砂糖をちょっとすくうのと、大きなシャベルで砂糖をちょっとすくうのじゃ、すくった量が違いますよね。
ティースプーン1杯が常人の魔力量で大きなシャベル1杯が美羽様の魔力量なんです。
通常、常人が魔法を使う時はティースプーンの先にちょっとだけ砂糖を乗せた状態なんです。
美羽様がちょっとだけシャベルの先に砂糖を乗せても、ティースプーンから見たら、何杯分もの量になりますよね。
つまり、美羽様が最下級の魔法を行使しても、常人何人分もの全力の魔力量ということになってしまうのです。
さらにそんなに大きなシャベルですくった砂糖を紅茶に入れるのも難しいですよね。
カップから溢れてしまいます。それが魔力暴走なんです。
ですから、慎重に魔力を扱わなければ、大惨事になりかねませんし、美羽様ご自身の体にもダメージが出てしまいます」
「つまり、私は魔法を使わない方がいいの?」
「いえ、そうでなくて、適切に魔法を学ぶ必要があるということです」
「そっか、じゃあ危なくなさそうなのから一つずつ学ばないとね」
「はい、その通りです」
「それじゃあ、よろしくねきんちゃん」
「はい、よろしくお願いします。それでは、早速ですが街の外に出て、魔法を撃ってみましょうか」
「え、いきなりで大丈夫なの?」
「ええ、まずはどれくらい威力があるか、体験していただきたいのです」
「おおー。それじゃあ行こう」
きんちゃんと美羽は宿を出て、街の外に出る外門に向かった。
その途中で泣いている男の子を発見した。
歩きながら、何かを叫びながら歩いている。
早く行きたかったが、見て見ぬ振りをするのもなんだか後味が悪そうだ。
仕方なく声をかけた。
「どうしたの?」
美羽と同じ歳くらいに見える男の子は、一瞬喜んだ顔をしたが、すぐに失望を顔に表した。
「なんだ、おまえ。なにかようか」
「なんか、泣いていたから、声かけたの」
「おまえなんかにはなしても、なにもいみねえよ」
「そ。声かけるんじゃなかった。じゃあね」
「あ、まて。おまえ、このへんでねこみなかったか」
「え、話さないんじゃなかったの?」
「いいんだよ!こたえろよ。いそいでさがしてやらないといけないんだ」
「勝手だね。本当だったら無視だよ。でも猫を探しているなら、手伝ってあげてもいいよ」
「ほんとうか! はやくしてくれ」
「名前は?」
「おれはノイ」
「違うよ。猫の名前」
「あ、そうか。チャトだ」
それを聞くと、美羽は目を閉じた。
美羽の周りに桜色の光と桜の花びらが舞い始める
「お、おい、それはなんだよ」
ノイはそういうが、美羽は聞いていない。
5秒ほどで、美羽が目を開けた。
同時に桜色の光と桜の花びらは消えてしまった。
美羽が、ノイの顔を見て話し始める。
「この先に行った広場にある一番大きな木に登って降りられなくなってるみたい」
「なっ! なんでおまえにそんなことがわかるんだよ」
「別に信じなくてもいいよ。じゃあ、教えたから。じゃあね」
「あ、おい」
引き止める言葉も聞かずに、美羽は足早にその場を去った。
きんちゃんが不満そうに言う。
「あんな態度では教える必要などなかったのではないですか?」
「うん、口の聞き方を知らなかったけど、街の子供だからね。仕方ないんじゃない?」
「そうなのですが」
「もう関わることもないし、忘れよう。ね、きんちゃん」
「美羽様がそれでいいとおっしゃるのでしたら、それに従います」
(でも、もう少しあの子と関わるような気がするのよね)
美羽は外門を出たら、身体強化をかけ全力で走った。
今では身体強化をかければ馬並みのスピードで走ることができる。
しかも、神気で体力を補うので、いつまでも走ることができた。
神気を使った回復は魔力を使ったそれの比ではない。
1時間ほど走ったところで、きんちゃんが声をかける。
「そこの森に入った先に湖があります。そこで魔法の練習をしましょう」
「うん、分かった」
美羽は森の中を街道を走っていた時と同じスピードで走る。
全力で走りながらも立木や倒木、岩などを素早く避けた。
帝都に来る途中にきんちゃんにスパルタで鍛えられた、身のこなしが効いている。
途中で魔物が出たが、きんちゃんの生み出す氷の刃でことごとく倒れていった。
同じスピードで倒れた魔物を異空間収納に入れていく。
(きんちゃんって、すごく強いよね。この世界で最強だったりして)
事実、毎日美羽から莫大な魔力の供給を受けているきんちゃんは最強格と言ってもいい存在だった。
ほぼ弱点はない。強いて言うなら、美羽と切り離された時に魔力の供給が滞ると、体を維持できなくなるくらいである。
ただ、それも魔力の消費を抑えれば、自然からの魔力吸収で、生きていくことはできる。
森に入って10分ほどで湖についた。
大きな湖で帝都の水瓶になっている。
「うわぁ、大きいね」
「はい、この湖は帝都の北に位置するため、レイクノースと呼ばれていて、大量の帝都市民の飲み水から、生活用水まで様々な形で使われています。周りの山から染み出してきた水が流れ込んでいるためにとても綺麗ですよ」
「へえ、すごいなぁ。泳ぎたいなぁ」
「水泳などは法律で禁止されているようですよ」
「まあ、そうだよね。飲み水にもなるんだもんね」
きんちゃんがクルンと1回転するとしゃべった。
「さあ、ここで湖に向かって魔法を撃ってみましょう」
「何を撃つの?」
「そうですね、極大の炎魔法にしましょうか」
「え、危ないんじゃないの?」
「一度やってみないと危なさがわかりませんから」
「危ないって言うところは否定しないんだね」
「体表に神気結界を張れば大丈夫ですよ」
「きんちゃんってたまにスパルタだよね」
「これも美羽様のためです。頑張りましょう」
美羽は、訝しんだ顔をしながら前に出る。
「それで、どうすればいいの?」
「実は女神様からいただいた知識の中にすでにこの世界で使える魔法は全て入っています。そして、その知識は基本的に美羽様が使えるように準備はできているのです」
「うーーーーん……あ、本当だ。メキロスフィアね」
「はい、分かっていると思いますが、その魔法は魔力を込めた分だけ強力になります。
とりあえず、これでいいと思えるくらいまで魔力を込めて放ってください」
「そんな強いの撃っていいの?」
「まだ、慣れていないので、そこまで威力は上がりませんよ」
「そっか、分かった」
美羽は魔力を両手に込め始めた。
美羽の無限と言える魔力が体内で蠢いて、手のひらに集中していく。
まだ慣れていない美羽にとって落ち着かない感覚だ。
集中していると手が銀色に光り、やがてそれが全身に広がり全身が銀色に輝いた。
(このくらいでいいかな。魔法名を唱えた方が発動しやすいんだよね。詠唱もあるけど、いらないや)
初めての攻撃魔法の行使に美羽は興奮して叫んだ。
「メキロスフィア!」
その瞬間、美羽の体に纏っていた銀色の魔力が手から飛び出して青白いの炎の玉になって前方に飛んでいった。
そして、水面にぶつかった瞬間……。
水面が抉れ、周りに水の壁ができる。
衝撃波は水面を走り、唖然としている美羽にぶつかりその小さな体を跳ね飛ばす。
ドッゴーン
遅れて、爆音が鳴り美羽の鼓膜を激しく揺らす。
美羽は何度も転がりながら、大きな立木にぶつかって止まる。
周りの木も衝撃波で吹き飛んだ。
空を飛ぶ鳥はコントロールできずに衝撃波によって弾き飛ばされていく。
着弾地点では高い水の山ができて、それが崩れて、岸に水が押し寄せてきた。
「……!」
美羽のぼやけた視線にはきんちゃんらしきものが映っていて何か叫んでいるようだが、先ほどの轟音で耳がキーンと耳鳴りがして聞こえない。
それよりも体が動かない。
『美羽様! 神気結界を張ってください!』
きんちゃんが心の中に直接呼びかけてきた。
(ああ、きんちゃんってこんなこともできるんだぁ)
美羽は状況がわかっておらず、そんな場違いなことを考える。
『美羽様ー!』
もう一度目線をあげた美羽の目の前には壁のような水が迫っていた。
「あ……」
ザパーン
美羽の姿は水の中に消えてしまった。
美羽は、宿のベッドに寝転びながら、きんちゃんを頭上に持ち上げて言った。
きんちゃんは金魚ちょうちんの体を縦に振る。
「はい、美羽様は今まで治癒と歌の二つで神気の強化を図っていたので、なかなか魔法を使う時間はありませんでしたね」
「でもさぁ、私、いまだにまともな攻撃手段は女神の手と氷の棒くらいしかないんだよね。
しかも氷の棒はきんちゃんはたくさん出るのに、私は1本だけ。あれ、私が考えた魔法だよね。なんできんちゃんの方がうまく使えるの?」
美羽がぷりぷりしながら、きんちゃんの金魚のほっぺを引っ張った。
「それは、私は魔法生物ですから。魔法に親和性が高いので仕方ありません」
「ずーるーいー」
「ずるいと言われましても」
「どうせきんちゃん、あれ以外にも魔法が使えるんでしょ。使う必要ないだけで」
「まあ……はい」
「やっぱりずるだ。私はこの魔法格差に抗議するー」
「でも、女神様が美羽様の魔力は大きすぎて、体に負担がかかると……」
「私はこの魔法格差に抗議するー」
寝転がりながら行っているのだから、説得力も何もない抗議なのだが、美羽に激甘なきんちゃんには効果があった。
「それでは、安全なところでやってみましょうか?」
「やったー、きんちゃん大好き」
美羽は持ったままのきんちゃんの唇にキスをした。
「みうさま~」
きんちゃんの体は元から赤いのに、さらに真っ赤になる。
「うふふ、変なきんちゃん」
美羽は一度きんちゃんを抱きしめてから、ベッドを飛び降りた。
落ち着いたきんちゃんは一度咳払いをしてから話し出す。
「それでは美羽様。何を習いたいですか?」
「あのさ、今更なんだけど、きんちゃんって浮いてるよね」
「はい、これは浮遊魔法ですね」
「やっぱり魔法なの? 私もやりたい。二人でふわふわお空でお散歩しよう」
「魅力的なのですが、美羽様がやるとなると、相当の魔力操作が必要になります」
「ぶー」
「そ、それでは、段階を踏んで練習しましょうか」
「うん!」
「攻撃魔法はいいのですか?」
「やりたいなぁ。色々やりたい」
「どれか一つずつでないと」
きんちゃんが難しい顔をして答える。
「それじゃあさ、部屋の中でやる時は危なくない魔法で街の外でやる時は攻撃魔法はどう?」
「そうですね。それがいいでしょう。
もっとも、美羽様は危なくない魔法でも、暴走させてしまうリスクがあるそうなんです」
そういうと、美羽は悲しそうな顔になる。
「私、そんなにダメな子なの?」
きんちゃんは美羽の悲しそうな顔には逆らえない。
「い、いえ、そんなことはありません。
ただ、純粋に亜人も含めて人族が持てる魔力量の限界を遥かに超えて持っているのです。
ですから、美羽様のちょっとだけ魔力を使うという行為は、常人だと全力で魔力を振り絞っているのと同じくらいなんです。
例えば、ティースプーンで砂糖をちょっとすくうのと、大きなシャベルで砂糖をちょっとすくうのじゃ、すくった量が違いますよね。
ティースプーン1杯が常人の魔力量で大きなシャベル1杯が美羽様の魔力量なんです。
通常、常人が魔法を使う時はティースプーンの先にちょっとだけ砂糖を乗せた状態なんです。
美羽様がちょっとだけシャベルの先に砂糖を乗せても、ティースプーンから見たら、何杯分もの量になりますよね。
つまり、美羽様が最下級の魔法を行使しても、常人何人分もの全力の魔力量ということになってしまうのです。
さらにそんなに大きなシャベルですくった砂糖を紅茶に入れるのも難しいですよね。
カップから溢れてしまいます。それが魔力暴走なんです。
ですから、慎重に魔力を扱わなければ、大惨事になりかねませんし、美羽様ご自身の体にもダメージが出てしまいます」
「つまり、私は魔法を使わない方がいいの?」
「いえ、そうでなくて、適切に魔法を学ぶ必要があるということです」
「そっか、じゃあ危なくなさそうなのから一つずつ学ばないとね」
「はい、その通りです」
「それじゃあ、よろしくねきんちゃん」
「はい、よろしくお願いします。それでは、早速ですが街の外に出て、魔法を撃ってみましょうか」
「え、いきなりで大丈夫なの?」
「ええ、まずはどれくらい威力があるか、体験していただきたいのです」
「おおー。それじゃあ行こう」
きんちゃんと美羽は宿を出て、街の外に出る外門に向かった。
その途中で泣いている男の子を発見した。
歩きながら、何かを叫びながら歩いている。
早く行きたかったが、見て見ぬ振りをするのもなんだか後味が悪そうだ。
仕方なく声をかけた。
「どうしたの?」
美羽と同じ歳くらいに見える男の子は、一瞬喜んだ顔をしたが、すぐに失望を顔に表した。
「なんだ、おまえ。なにかようか」
「なんか、泣いていたから、声かけたの」
「おまえなんかにはなしても、なにもいみねえよ」
「そ。声かけるんじゃなかった。じゃあね」
「あ、まて。おまえ、このへんでねこみなかったか」
「え、話さないんじゃなかったの?」
「いいんだよ!こたえろよ。いそいでさがしてやらないといけないんだ」
「勝手だね。本当だったら無視だよ。でも猫を探しているなら、手伝ってあげてもいいよ」
「ほんとうか! はやくしてくれ」
「名前は?」
「おれはノイ」
「違うよ。猫の名前」
「あ、そうか。チャトだ」
それを聞くと、美羽は目を閉じた。
美羽の周りに桜色の光と桜の花びらが舞い始める
「お、おい、それはなんだよ」
ノイはそういうが、美羽は聞いていない。
5秒ほどで、美羽が目を開けた。
同時に桜色の光と桜の花びらは消えてしまった。
美羽が、ノイの顔を見て話し始める。
「この先に行った広場にある一番大きな木に登って降りられなくなってるみたい」
「なっ! なんでおまえにそんなことがわかるんだよ」
「別に信じなくてもいいよ。じゃあ、教えたから。じゃあね」
「あ、おい」
引き止める言葉も聞かずに、美羽は足早にその場を去った。
きんちゃんが不満そうに言う。
「あんな態度では教える必要などなかったのではないですか?」
「うん、口の聞き方を知らなかったけど、街の子供だからね。仕方ないんじゃない?」
「そうなのですが」
「もう関わることもないし、忘れよう。ね、きんちゃん」
「美羽様がそれでいいとおっしゃるのでしたら、それに従います」
(でも、もう少しあの子と関わるような気がするのよね)
美羽は外門を出たら、身体強化をかけ全力で走った。
今では身体強化をかければ馬並みのスピードで走ることができる。
しかも、神気で体力を補うので、いつまでも走ることができた。
神気を使った回復は魔力を使ったそれの比ではない。
1時間ほど走ったところで、きんちゃんが声をかける。
「そこの森に入った先に湖があります。そこで魔法の練習をしましょう」
「うん、分かった」
美羽は森の中を街道を走っていた時と同じスピードで走る。
全力で走りながらも立木や倒木、岩などを素早く避けた。
帝都に来る途中にきんちゃんにスパルタで鍛えられた、身のこなしが効いている。
途中で魔物が出たが、きんちゃんの生み出す氷の刃でことごとく倒れていった。
同じスピードで倒れた魔物を異空間収納に入れていく。
(きんちゃんって、すごく強いよね。この世界で最強だったりして)
事実、毎日美羽から莫大な魔力の供給を受けているきんちゃんは最強格と言ってもいい存在だった。
ほぼ弱点はない。強いて言うなら、美羽と切り離された時に魔力の供給が滞ると、体を維持できなくなるくらいである。
ただ、それも魔力の消費を抑えれば、自然からの魔力吸収で、生きていくことはできる。
森に入って10分ほどで湖についた。
大きな湖で帝都の水瓶になっている。
「うわぁ、大きいね」
「はい、この湖は帝都の北に位置するため、レイクノースと呼ばれていて、大量の帝都市民の飲み水から、生活用水まで様々な形で使われています。周りの山から染み出してきた水が流れ込んでいるためにとても綺麗ですよ」
「へえ、すごいなぁ。泳ぎたいなぁ」
「水泳などは法律で禁止されているようですよ」
「まあ、そうだよね。飲み水にもなるんだもんね」
きんちゃんがクルンと1回転するとしゃべった。
「さあ、ここで湖に向かって魔法を撃ってみましょう」
「何を撃つの?」
「そうですね、極大の炎魔法にしましょうか」
「え、危ないんじゃないの?」
「一度やってみないと危なさがわかりませんから」
「危ないって言うところは否定しないんだね」
「体表に神気結界を張れば大丈夫ですよ」
「きんちゃんってたまにスパルタだよね」
「これも美羽様のためです。頑張りましょう」
美羽は、訝しんだ顔をしながら前に出る。
「それで、どうすればいいの?」
「実は女神様からいただいた知識の中にすでにこの世界で使える魔法は全て入っています。そして、その知識は基本的に美羽様が使えるように準備はできているのです」
「うーーーーん……あ、本当だ。メキロスフィアね」
「はい、分かっていると思いますが、その魔法は魔力を込めた分だけ強力になります。
とりあえず、これでいいと思えるくらいまで魔力を込めて放ってください」
「そんな強いの撃っていいの?」
「まだ、慣れていないので、そこまで威力は上がりませんよ」
「そっか、分かった」
美羽は魔力を両手に込め始めた。
美羽の無限と言える魔力が体内で蠢いて、手のひらに集中していく。
まだ慣れていない美羽にとって落ち着かない感覚だ。
集中していると手が銀色に光り、やがてそれが全身に広がり全身が銀色に輝いた。
(このくらいでいいかな。魔法名を唱えた方が発動しやすいんだよね。詠唱もあるけど、いらないや)
初めての攻撃魔法の行使に美羽は興奮して叫んだ。
「メキロスフィア!」
その瞬間、美羽の体に纏っていた銀色の魔力が手から飛び出して青白いの炎の玉になって前方に飛んでいった。
そして、水面にぶつかった瞬間……。
水面が抉れ、周りに水の壁ができる。
衝撃波は水面を走り、唖然としている美羽にぶつかりその小さな体を跳ね飛ばす。
ドッゴーン
遅れて、爆音が鳴り美羽の鼓膜を激しく揺らす。
美羽は何度も転がりながら、大きな立木にぶつかって止まる。
周りの木も衝撃波で吹き飛んだ。
空を飛ぶ鳥はコントロールできずに衝撃波によって弾き飛ばされていく。
着弾地点では高い水の山ができて、それが崩れて、岸に水が押し寄せてきた。
「……!」
美羽のぼやけた視線にはきんちゃんらしきものが映っていて何か叫んでいるようだが、先ほどの轟音で耳がキーンと耳鳴りがして聞こえない。
それよりも体が動かない。
『美羽様! 神気結界を張ってください!』
きんちゃんが心の中に直接呼びかけてきた。
(ああ、きんちゃんってこんなこともできるんだぁ)
美羽は状況がわかっておらず、そんな場違いなことを考える。
『美羽様ー!』
もう一度目線をあげた美羽の目の前には壁のような水が迫っていた。
「あ……」
ザパーン
美羽の姿は水の中に消えてしまった。
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