女神様の使い5歳からやってます

めのめむし

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第4章 帝都編2

第70話 暗殺者

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  ゴルディアック商会の家族、使用人達は騎士によって全員庭に引き摺り出された。
元々、外に出ていた護衛達も含めて70人はいる。

 その中には、今回の事の発端になったジェフとその母親、ゼノンの妻であるアドラの姿もある。

「離してぇー、私は何も悪くないわ! 私は何もしてないのー」

 恐怖で、何も喋ることができないジェフと対照的にアドラは暴れまくっている。

 アドラは、美羽を見るなり声を上げた。

「あなたはもしや、御使い様ね。今回のことは私は悪くないの。悪いのは全部息子のジェフと夫であり商会長のゼノンよ。
私は悪くないから助けて。お願いよ」

 美羽は目を丸くしてアドラを見つめている。
夫や息子は切り捨てて、自分だけ助かろうとしていることに驚いた。

 美羽は少しだけ話をしてみようと思い、アドラの方に歩いて行く。
クララとレーチェルは心配げな顔をするが、美羽がにこりと笑い大丈夫だと伝える。
 
「ねえあなた、ゼノンの奥さんよね。ジェフの母親の」

 すると、アドラはチャンスだとばかりに捲し立てた。

「ええ、そうよ。でも、私は夫や息子の悪事のことなんて知らなかったの。
私はいつでも庶民のために尽くしたいと思っているわ。
でも、夫と息子は別。夫は地上げのために殺人をしたり、亜人たちを奴隷にして貴族に売っているのよ。
息子はその奴隷を虐待したり、犯したりしているのよ。
他にもあるのよ。いくらでも話すわ」

 ゼノンとジェフは唖然とした顔で見ている。
平気で自分達を裏切り、自分達の不利になりそうな証言を始めた妻であり母に心底驚いていた。

 美羽はにっこりとアドラに笑いかける。
アドラは、もう少し押そうとばかりに口を再び開こうとした時、先に美羽が言う。

「そうなの? あの人たちが色々悪いことをしているのね」
「ええ、そうよ、だから私は悪くないの!」
「でも、あなたはなんで知っていて止めなかったの?」
「うっ……」
「なんで知っていて、のうのうとその立場で生活をしていたの?」
「……」
「なんで知っていて、騎士団に訴え出たりしなかったの?」
「……」
「それは、あなたも同じ穴の狢だからじゃないの?」
「……さい」

 美羽はアドラの言葉が聞き取れなかったので、聞き直そうとしたところ、アドラが爆発した。

「うるさいわよ! あんた何様よ! ただの子供じゃない! 何もわかっていないくせに何を偉そうに言っているの!
どうせ碌でもない生い立ちなんでしょ! 親の顔が見たいわ! そうだ、わかったわ」

 美羽があまりの急変に目を白黒させる。
その様子に、アドラは勝ち誇った。そして余裕を感じさせる態度で言った。

「わかっているわ。あなたの母親は薄汚い淫売なのよ。あんたはどこの誰とも知れない男の子供なのよ。
母親がろくでなしだから、あんたも碌でもな「黙れ」」

 美羽から濃密な神気が溢れ出す。
それはいつもの美しく清らかなものではなく、酷く酷薄でカミソリで切り刻まれるようなものだった。

 アドラは声を出せずに硬直して、冷や汗が大量に吹き出す。
周りの人間も動けないで震えている。
クララとレーチェルとシアとアミだけが美羽の意図なのか、それを逃れていた。

 美羽が重々しく口を開いた。

「人の幸せを踏み躙るお前が、ママを語るな」

 美羽から伸びてきた桜色の手が、アドラのネックレスを手のひらに乗せる。
アドラは目線を落としてそれを見ると、その瞬間、ネックレスが砂になってしまった。

「ひぃっ……」

 アドラが悲鳴を上げる。
美羽はあくまで冷たく言い放った。

「お前も他の者と同じく、砂にしてあげる。それまで動かないで」
「い、いや……」

 アドラは助けを求めようとするが、あまりもの恐怖で声が出ない。
まだ美羽の力を見ていなかった、周りの使用人たちも同じように恐怖に体を固くしている。

 そんな中、美羽がアドラに向いている時に、不穏な動きを見せようとする者たちがいた。

 執事が2人とメイドが一人だ。
この3人はゼノンが秘密裏に雇っている、暗殺者だ。

 今までも、ゼノンに不利な条件の契約を提案してきた時や、敵対勢力などが出た時に、力を発揮してきた。
その暗殺の腕前は帝都でもトップクラスだ。

 しかし、ゼノンは暗殺の合図を出さない。
それどころか、目配せで何もしないように伝えてくる。

 しかし、暗殺者のリーダーのジムは焦っていた。
自分達は指名手配をされている。
ここで殺されなくても騎士に捕まってしまえば極刑は免れないだろう。

 この3人、ジムとボブとベティは同じ暗殺者養成機関にいた。
機関でたまたま同じグループになったのだが、呼吸が合うのか連携がうまくいったため、今まで暗殺を失敗したことがなかった。

 ジムはこの3人で仕事をする限り、失敗はないと信じていた。
ボブとベティも同じ気持ちだった。

 もはや、ゼノンの指示を待つ必要はない。
ここで御使いを殺し、騎士団が混乱したところを逃げおおせればいい。

 逃げた先で、新たな雇い主を見つけるだけだ。
幸い、標的である御使いは隙だらけだ。

 こんな簡単なことはない。

 ジムは合図を出す。
それも目配せなどする必要もない。
ボブとベティは雰囲気だけで察するからだ。

 美羽がゆっくりとゼノンの方を振り向こうとしている時に3人は動いた。
誰も気づかないうちに美羽に一気に迫る。
ベティは正面から背を低くして、腹から心臓に向けて短剣を突き上げた。
ボブは後ろから短剣を寝かせて、肋骨の隙間から心臓へまっすぐ出した。
ジムは頸動脈を目掛けて真横から切り裂いた。

 ガン。
 
 これで終わり……なはずだった。

(((手応えがない?)))

 3人同じことを思う。

「そうやって、人を殺してきたんだね」

 3人は美羽の言葉が聞こえたのを最後に体が動かせなくなった。
いや、動かす体がなくなったのだ。
体は腹のあたりから砂になり、全身に広がり、頭は支えがなくなり、落下しながら、それも砂になった。
ジムが最後に見たのは、砂になっていくボブとベティ、仲間の姿だった。


 美羽は神気結界を体表に張り、害意があるときだけ防ぐようにしていた。
それで、暗殺者たちの刃は届かなかった。

 ゼノン側の人間も騎士たちも口をパクパクさせている。
一瞬にして人間を砂に変えてしまうという御使いの力と、美羽のあまりもの無慈悲な冷徹さに驚いているのだ。

 美羽はゼノンにゆっくり近づいていく。
ゼノンはごくりと唾を飲み込もうとするが、喉が渇いてしまって飲み込む唾もなかった。

 美羽がニコリと笑う。

「私のことを殺そうとしたね。自分が砂にされる覚悟もできたってことなんだね」







 
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