悪役令嬢は帰り咲く

鳥栖

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第3章 華栄の君は

1話

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 夏休みが迫った7月の初めのこと、プラナは聞いてしまった。アリアとロベルトが夏休みに遊ぶようだ、という噂を。


(……!?どうして!??平民と王子が行動を共にするなんて聞いたことが、というか今までそんな前例なんてなかったのに!)


 額から汗が噴き出るのがわかる。


「プラナ?大丈夫?顔が真っ青よ?」


すっかり打ち解けて愛称で呼び合うようになった友人の1人であるリリアンが心配そうにプラナを見る。

今から食堂で4人集まって昼食を食べるところだ。


「大丈夫よ、リリィ……ごめんなさい、ちょっと嫌な話を聞いてしまって…」

「もしかして…ロベルト様とアリアのこと?」


言いにくそうにリリアンが聞く。


「ええ…」

「本当だとしたらひどい噂よね!浮気じゃない!」


ジーナが頬をぷくっと膨らませている。


「どっちにしろ!最近のアリアは目に余るわ!人の婚約者の周りをうろちょろして!非常識にも程があるわ!!」


ガーネットも語気を強める。


「いいのよ…私は平気だから…」

「「「よくない!!!!」」」

「プラナ貴女今どんな顔してるかわかってるの!?真っ青なのよ!」

「そうよ!全然大丈夫そうじゃないのよ!」

「お友達がそんな顔していたら心配して当然なのよ?辛かったら頼ってもいいのよ?」


ブーイングの嵐だ。


(怒られちゃった…そんなにひどい顔してるのかしら?…でもこんなに心配してくれるなんて嬉しいなぁ…)


「ふふ、心配してくれてありがとう。でも平気よ。きっと誤解だわ。」


今日の放課後にでも真偽を確かめてくるわ、そう言って今日のランチに口をつける。

正直今のプラナには食欲もなく同様で味などわからないのだが。




 ランチタイムが終わり教室に戻るとプラナがいつも使っている席にユリウスが座っていた。
大体みんないつも座る席が決まっているため、不思議に思って声をかける。
そもそも王子が近くにいないのだ。


「珍しいですわね」

「ううん、君を待ってたんだよ」

プラナが声をかけるとユリウスが顔を上げた。


「待ってた?」

「うん、君に相談したいことがあってね」

「相談?」


ユリウスとは舞踏会以来喋っていないというのに何を相談することがあるのだろう。
そもそも相談というのは友人とかにするものじゃなかろうか。
あとは親とか、先生とか。間違ってもほぼ話とことがないクラスメイトに持ちかける話ではない気がする。


「なんの相談ですの?」

「うーん、教室ではちょっとまずいかなぁ」


ユリウスは眉尻を下げ困ったように笑い、
手紙をプラナに渡した。


「ふふ、これ、読んだら燃やして」

「え」

「今日の放課後、待ってるから」


ユリウスはにこりと笑ってプラナの横をすり抜けてロベルトの方へ行ってしまった。


(最前列に座ってるのに放課後までに手紙読んですぐ燃やせって無理だろ)


ユリウスからの理不尽な要求に頭痛を覚えながら手紙を懐に仕舞い込む。

次の授業の講師が部屋に入ってきた。


(あーうん、そうか)

「先生、気分が悪いので保健室に行ってきます」

「確かに顔色が悪いですね、1人で行けますか?」

「大丈夫です」


 そう言って保健室に歩き出す。保険室ならば仕切りがあるため手紙を見られることもない。
顔色は噂を聞いてからずっと青ざめているしユリウスの不可解な行動のせいで実際に頭が痛い。


(燃やすのは無理だけど…まぁ令嬢が常にマッチなんて持ってないのは普通よね?)


とりあえず手紙を読もうと保健室へ向かった。






 保健室に入るとすぐにベットに寝かされた。
相当顔色が悪いらしい。

そもそも肌が「雪のよう」と評されるので健康的な色はしていないのだが今日は特別顔色が悪いようだ。

白いカーテンを閉めてベッドの中で手紙を読む。


“プラナ嬢

相談したいことというのはこの国が戦争を始めるのが近いということです。
この国は豊かであるが故に他国に狙われることも多い。…プラナ嬢であれば既にわかったことでしょう。
大きな戦争となれば民の犠牲は免れません。
プラナ嬢は他の世界、それももっと錬金術が発達したところからきたと言いました。
国を救う術を知りませんか?

  この件について話したいことがあるので迎えに行きます。
  馬車乗り場でお待ちしています。

               ユリウス"


言葉が出なかった。


(戦争!?そんな…)


目眩が酷い。口が乾く。頭の痛みが増している。


(なんであたしが王妃になるまで待っててくれないの…)


歪む視界を必死に抑え、胸元に手紙をしまう。


(理由がなんであれこの国の人が死ぬのは見たくないよ…)


領地に出向いたとき迎えてくれた領民の顔を思い出す。


(いい人だもの…)


絶対的な正義などないのはわかっている。せめてこの国の人だけでも救いたい。

そう思いながらプラナは意識を手放したのだった。
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