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「やー、今日は助かったよ。これから週三回お願いするね。夜はうちの亭主が居酒屋をやってんだ。……正直夜はあんまり店に近づかない方がいい。荒っぽいのがいるからね」
アイリスは頷いた。
「このあたりの担当の騎士様なんですか?さっきの方」
「そう。下町担当第8騎士団、下級貴族の子とか上位貴族の四男以下とかあと庶子なんかの多いとこだね。ちょっとかわりもんが多いって団長さんが言ってたよ。団長さんは騎士爵もってるけど元は平民さんだね」
「へぇ」
アイリスはそういう情報はまったくもっていなかった。
「しかし、アイリスちゃんは髪は下ろさないのかい?綺麗な色してるのに」
アイリスは笑う。長い髪を片方でみつあみにして頭の周りにぐるりと巻きつける髪型で髪をきっちりまとめているのがアイリスの性に合うんだとアイリスは答える。
「髪が多いから下ろしてると邪魔で、実用的じゃないし」
「まぁわかるよ。あたしも一つにまとめて髷にしてるもんね」
「いざ働くとなるとまとめたほうがいいですものね」
アイリスは仕事モードのマリアベルを思い出した。寝付いてからは片側に緩く編んだみつあみを垂らしていることが多かったマリアベルの姿よりも髪を一つにまとめてきりりとした姿の方がアイリスには懐かしい、と思えるマリアベルの姿であった。
アイリスにとって髪をまとめることは働くこととほぼ同義語であった。
「わからなくはないけどね」
おかみさんも同意する。
「今日はありがとね。マダムによろしく」
そういっておかみさんはアイリスに今日の給金を渡す。
「普段はもうちょっと忙しいから明後日は覚悟しておいて」
笑顔のおかみさんにアイリスも苦笑交じりの笑顔を返し元ルシアの部屋に戻った。
「おかえり」
なぜか部屋にはマダムがいた。
「どうしたんですか?」
「ルシアから預かってたものを渡そうと思って」
マダムは小さな皮の袋を渡す。
「ルシアが持っていた装飾品、こんな場所では使うこともないしって預かってたんだよ」
それは赤い石のネックレスとイヤリングだった。
「先祖代々のものだってさ。……正直これを売ったら足がつくからってルシアが売れなかったって言ってた」
どうもマダムはある程度ルシアの事を聞いていたらしい。メイさんとマダムはルシアの事情、貴族の跡とありであること、ジャン=ジャックという男に騙されて身ごもったこと、王都に着くまでにジャン=ジャックにほとんどの資金と宝飾品を奪われた事なども知っていた。一時は育ての母であったメイさんはもっと詳しく知っていたが何も言わなかった。
メイさんが王都の下町にいることを知っていたのは自分の父親とメイさんが離婚してからもメイさんとルシアは手紙のやり取りをしていたからだった。ルシアにとってはメイさんは母親であった。メイさんも自分の子供のキースとよりもルシアのほうが気が合った。
ルシアはアイリスを生んで一年はメイさんの保護下で生きてきた。マリアベルに知らせる事をルシアは嫌がり、自分の父親とも連絡を取らなかった。
「私も使い道ないんだけど」
アイリスは困惑していた。
「ま、……私になにかあったらこれを渡したくて化けて出るかもだからアイリスが持ってて」
マダムは笑う。
「ルシアはあんたが年頃になったら渡すつもりだったみたいよ。これは家の印も入ってるから売ったらそれで家に連絡が行くんだって」
アイリスはこのきらきらしい母親の遺品をいつ爆発するかわからないもののようにおそるおそる持っていた。
「定食屋はどうだった?」
マダムがあからさまに話題を変える。
「わりあい忙しかった」
「あ、今日は騎士団がいない日だから少しは暇だったんだね」
マダムはさすがに街の騎士団の事はわかっていたようだ。
「今日は第8騎士団は外壁の工事の手伝いででてるからね」
王都を囲む外壁の補修を各騎士団がやっているのだ。高位貴族ばかりの近衛や第一騎士団や王子の騎士団と呼ばれている第二騎士団は工夫を雇って外壁の補修を回すがそれ以外の騎士団は自分たちで外壁工事を担っているらしい。
「ま、外壁をちゃんと補修して外から出入りできないようにしておくと自分たちの仕事も楽になるからね」
とマダムは笑った。
アイリスは頷いた。
「このあたりの担当の騎士様なんですか?さっきの方」
「そう。下町担当第8騎士団、下級貴族の子とか上位貴族の四男以下とかあと庶子なんかの多いとこだね。ちょっとかわりもんが多いって団長さんが言ってたよ。団長さんは騎士爵もってるけど元は平民さんだね」
「へぇ」
アイリスはそういう情報はまったくもっていなかった。
「しかし、アイリスちゃんは髪は下ろさないのかい?綺麗な色してるのに」
アイリスは笑う。長い髪を片方でみつあみにして頭の周りにぐるりと巻きつける髪型で髪をきっちりまとめているのがアイリスの性に合うんだとアイリスは答える。
「髪が多いから下ろしてると邪魔で、実用的じゃないし」
「まぁわかるよ。あたしも一つにまとめて髷にしてるもんね」
「いざ働くとなるとまとめたほうがいいですものね」
アイリスは仕事モードのマリアベルを思い出した。寝付いてからは片側に緩く編んだみつあみを垂らしていることが多かったマリアベルの姿よりも髪を一つにまとめてきりりとした姿の方がアイリスには懐かしい、と思えるマリアベルの姿であった。
アイリスにとって髪をまとめることは働くこととほぼ同義語であった。
「わからなくはないけどね」
おかみさんも同意する。
「今日はありがとね。マダムによろしく」
そういっておかみさんはアイリスに今日の給金を渡す。
「普段はもうちょっと忙しいから明後日は覚悟しておいて」
笑顔のおかみさんにアイリスも苦笑交じりの笑顔を返し元ルシアの部屋に戻った。
「おかえり」
なぜか部屋にはマダムがいた。
「どうしたんですか?」
「ルシアから預かってたものを渡そうと思って」
マダムは小さな皮の袋を渡す。
「ルシアが持っていた装飾品、こんな場所では使うこともないしって預かってたんだよ」
それは赤い石のネックレスとイヤリングだった。
「先祖代々のものだってさ。……正直これを売ったら足がつくからってルシアが売れなかったって言ってた」
どうもマダムはある程度ルシアの事を聞いていたらしい。メイさんとマダムはルシアの事情、貴族の跡とありであること、ジャン=ジャックという男に騙されて身ごもったこと、王都に着くまでにジャン=ジャックにほとんどの資金と宝飾品を奪われた事なども知っていた。一時は育ての母であったメイさんはもっと詳しく知っていたが何も言わなかった。
メイさんが王都の下町にいることを知っていたのは自分の父親とメイさんが離婚してからもメイさんとルシアは手紙のやり取りをしていたからだった。ルシアにとってはメイさんは母親であった。メイさんも自分の子供のキースとよりもルシアのほうが気が合った。
ルシアはアイリスを生んで一年はメイさんの保護下で生きてきた。マリアベルに知らせる事をルシアは嫌がり、自分の父親とも連絡を取らなかった。
「私も使い道ないんだけど」
アイリスは困惑していた。
「ま、……私になにかあったらこれを渡したくて化けて出るかもだからアイリスが持ってて」
マダムは笑う。
「ルシアはあんたが年頃になったら渡すつもりだったみたいよ。これは家の印も入ってるから売ったらそれで家に連絡が行くんだって」
アイリスはこのきらきらしい母親の遺品をいつ爆発するかわからないもののようにおそるおそる持っていた。
「定食屋はどうだった?」
マダムがあからさまに話題を変える。
「わりあい忙しかった」
「あ、今日は騎士団がいない日だから少しは暇だったんだね」
マダムはさすがに街の騎士団の事はわかっていたようだ。
「今日は第8騎士団は外壁の工事の手伝いででてるからね」
王都を囲む外壁の補修を各騎士団がやっているのだ。高位貴族ばかりの近衛や第一騎士団や王子の騎士団と呼ばれている第二騎士団は工夫を雇って外壁の補修を回すがそれ以外の騎士団は自分たちで外壁工事を担っているらしい。
「ま、外壁をちゃんと補修して外から出入りできないようにしておくと自分たちの仕事も楽になるからね」
とマダムは笑った。
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