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(9)進学校

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小鳥谷こずや君はギター続けるの?」
「俺は……」
 悟は申し訳なさそうに少しだけ頭を下げた。
「ギターも音楽も高校では続けないと思います」

 先生、すいません。
 一からギターを教えてくれたのに。
 弾き方で迷っているときに相談に乗ってもらったのに。
 音楽の楽しさを教えてもらったのに。
 本当にすいません。
 本当にすみません。

 悟の心の声が逐一ちくいち聞こえてくるように感じて、樹奈も彼と一緒に謝りたくなる。

「そうよね、小鳥谷こずや君の行く高校は大変だものね」
 吉岡先生の声は柔らかい響きを帯びており、落胆した様子はなかった。


 悟が音楽を続けることができないであろうことは樹奈も予想をしていた。
 悟が春から通う星丘ほしおか中央ちゅうおう高校は、1年生でも土日まで講義を受けなければならない「超進学校」として名が通っていた。

 この高校で部活に励むのは全校生徒の1割にも満たないらしいと、高校受験には疎かった樹奈でさえも、耳にしたことがある程だった。


小鳥谷こずや君も無理はしないようにね。高校で続けるのは難しくても、いつかまた小鳥谷君のギターが聴けると嬉しいな」
 そう言って笑う吉岡先生の言葉には、しっかりと血が通っている。
 この先生が教えてくれたからこそ、樹奈は音楽を続けることが楽しくて、本当に楽しくて仕方なかったのだ。


「先生、いろいろとありがとうござました」
「私の方こそありがとうね。」
 そう言って吉岡先生は二人を見送る。
 手を振りながら先生は「また遊びに来てね」とにっこり笑った。
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