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【後編】 バレンタインの午後に

(6) フルート奏者

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 自分の心の中を見抜かれるのは、やはり不快に感じてしまう。
 その感情は顔に出さないように、平田は慎重に切り出した。

「どんな手がかりか、自分も知りたいです」
 こちらが興味を示すことは朝木に見抜かれているのだから、婉曲えんきょくな聞き方をするのは時間の無駄だ。

「最近、千尋の姿を目撃した人がいるの」
 もちろん100パーセント確実だとは言い切れない。朝木は申し訳なさそうにそう付け加えた。

 手がかりなんて、得てしてそんな不確定なものだろう。
 それでも朝木は平田とその情報を共有したいと考えた。
 言葉とは裏腹に、彼女はその情報の確度は高いと睨んでいるのだ。

「誰が千尋さんを見たんですか?」
「吹奏楽部の一年生、日枯ひがらし君。フルートを吹いてる子なんだけど」
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