はるのまち

まなぴょん。

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後編

part6

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 雲一つない大きな青空。

 それ以外は、一見、ごく普通の通り道のように見えた。

 だが建物はほとんど建っておらず、木々と街灯と、横長の木材のベンチがいくつも遠くまで並んでいる。

 こんなに大きな通り道、なぜ今まで気が付かなかったのか、それはおそらく、こんな世界が存在するなどと春人が想像したことがなかったからだろう。

 亜美の口から直接聞いていなければ、こんな通り道など探そうなどという発想は出てこなかった。

 白髪の女性の言うとおり、この世界は特定の「誰かを拒絶」するわけではなさそうだ。
 むしろ、こんな世界が存在するはずがないという自らの思い込みが、この街の存在を拒絶したがっている。

 この道、このまま進んでよいのだろうか。

 春人はこめかみに皺を寄せるが、ふっとあの女性の言葉が脳裏によぎった。

 あの女性は、どんな『世界』が待っていたとしても、必ず亜美の話を聞くように春人に繰り返した。
 きっとその言葉には意味があるはずだし、なにより、このまま亜美に会わないで帰るのはそれこそ無責任なことのように思えた。

 しかし、この奥まで広がってる広大な通り道で、どうやったら亜美に出会えるのだろうか。

 その春人の不安は杞憂きゆうだった。

 ゆっくりと目を瞑って、ゆっくりと開く。

 そして、亜美がベンチに腰を下ろして、本を読んでいる姿が見えた。

 白髪の女性が突然消えた時のように、亜美は突然、目の前に現れた。

 そして春人の存在に気がついた亜美は、ゆっくりと笑みを浮かべた。

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