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どうやら巻き込まれるの確定
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ジャックは一人の少年にふと目をとめた。
その少年は大変かわいらしい、そしてどこかで見たような顔をしていた。
綺麗な菫色の瞳をみてジャックは小さくため息をついた。
市内巡回していた自動車から降りて少年に声をかける。
「何の用だい」
軍部の施設を食い入るように見つめていた少年はジャックを振り返り、大きく息をついた。
「俺はサンダース大佐の部下で、ジャック・ピータース准尉だ、君は」
サンダース大佐の名前を聞いた途端、少年の顔がゆがんだ。
やっぱりミュゲとサンダース大佐との結婚をレイシック家では歓迎していないらしい。
まあ、ミュゲの身内とすれば、女癖の悪い中年男にまだ年端もいかない少女を嫁がせるなんて言語道断だろうというのはわかる。
「アーサー・レイシックです」
答える声は硬い。
おそらくサンダース大佐の部下に対してもいろいろと思うところがあるのだろう。しかしこちらももろ手を挙げて賛成しているわけではない。
「すいません、なんでもないです、そのサンダース大佐に会いたいだけなんです」
さて、この少年は何を言い出すのだろう。心配しないでもお姉さんはあの女たらしと別れるつもりだから安心しろと今の立場ではいえないけれど。
「やめといたほうがいい」
ジャックはそう言って少年を押しとどめた。
いまアーサーがサンダース大佐と面談しても、アーサーが不愉快な思いをするだけだ。
「どうしてですか」
「あの人は君の話なんか聞かない」
いわゆるダンダルジャン卿がレイシック卿に貸し一つを自分のものと考えて、レイシック家の人間は十派一からげの扱いを受けるだろう。
つまりはミュゲと同じ扱いだ。
少年は唇をかんだ。
「送って行こう、今どうしているんだ」
「叔母が来てくれています。あと弟と」
ミュゲは三人兄弟だったようだ。レイシック卿の家族については公では何も言っていない。
母親は早くに亡くなり、父親は仕事と何事かやらかすもめ事でほとんど家におらず、それを見かねた母方の叔母夫婦が兄弟の面倒を見ていたらしい。
ミュゲとその弟達はなんだかきっちりと一固まりで生きていたらしい。
ジャックはまだ自動車の中に残っていたボルト准尉に伝言を頼んでアーサーを乗せて家まで送ることにした。
運転席を交代し、ボルト准尉はその胸をサンダース大佐に伝える。
少年は物珍しそうに自動車の中を見ていた。
自動車が普及し始めてからそう年代は経っていない。もしかしたら初めて乗るのかもしれない。
[ここに来るのは、お姉さんは知っているのか]
「知らない、言わなかったから、一つ聞いていい、あの人は姉さんに興味を持っている?」
「持ってない」
それは断言できた。ほかの男に斡旋しようとするぐらいだ。
「そう、ならいいや」
一応レイシック卿の自宅の住所くらいはそらんじている。家に戻れば心配そうな顔をした美人熟女が待っていた。
ジャックの軍服を胡乱な眼で見ていたのは状況を考えれば無理はない。
「ねえ、お願いがあるんですが」
アーサーはそう言って紙きれをジャックの手に押し込んだ。電話番号が書いてある。
「そちらの電話番号もください」
「悪いが俺は寮暮らしなんだ、電話はいちいち履歴に残っちまうぞ」
事実だ、寮では誰がいつだれと電話してきたかいちいち記録に残す。
「かまいません、いざという時のためです」
どうやらサンダース大佐相手の伝手認定されたらしい。同情が顔に出ていたのだろうか。
ジャックは寮の電話番号と部屋の番号を渡した、その上で緊急を要しないなら手紙のほうが機密を保てると教えてやった。
そして自動車に乗り込む。あの少年は姉の計画をどの程度知っているのだろうと運転しながら考えていた。
その少年は大変かわいらしい、そしてどこかで見たような顔をしていた。
綺麗な菫色の瞳をみてジャックは小さくため息をついた。
市内巡回していた自動車から降りて少年に声をかける。
「何の用だい」
軍部の施設を食い入るように見つめていた少年はジャックを振り返り、大きく息をついた。
「俺はサンダース大佐の部下で、ジャック・ピータース准尉だ、君は」
サンダース大佐の名前を聞いた途端、少年の顔がゆがんだ。
やっぱりミュゲとサンダース大佐との結婚をレイシック家では歓迎していないらしい。
まあ、ミュゲの身内とすれば、女癖の悪い中年男にまだ年端もいかない少女を嫁がせるなんて言語道断だろうというのはわかる。
「アーサー・レイシックです」
答える声は硬い。
おそらくサンダース大佐の部下に対してもいろいろと思うところがあるのだろう。しかしこちらももろ手を挙げて賛成しているわけではない。
「すいません、なんでもないです、そのサンダース大佐に会いたいだけなんです」
さて、この少年は何を言い出すのだろう。心配しないでもお姉さんはあの女たらしと別れるつもりだから安心しろと今の立場ではいえないけれど。
「やめといたほうがいい」
ジャックはそう言って少年を押しとどめた。
いまアーサーがサンダース大佐と面談しても、アーサーが不愉快な思いをするだけだ。
「どうしてですか」
「あの人は君の話なんか聞かない」
いわゆるダンダルジャン卿がレイシック卿に貸し一つを自分のものと考えて、レイシック家の人間は十派一からげの扱いを受けるだろう。
つまりはミュゲと同じ扱いだ。
少年は唇をかんだ。
「送って行こう、今どうしているんだ」
「叔母が来てくれています。あと弟と」
ミュゲは三人兄弟だったようだ。レイシック卿の家族については公では何も言っていない。
母親は早くに亡くなり、父親は仕事と何事かやらかすもめ事でほとんど家におらず、それを見かねた母方の叔母夫婦が兄弟の面倒を見ていたらしい。
ミュゲとその弟達はなんだかきっちりと一固まりで生きていたらしい。
ジャックはまだ自動車の中に残っていたボルト准尉に伝言を頼んでアーサーを乗せて家まで送ることにした。
運転席を交代し、ボルト准尉はその胸をサンダース大佐に伝える。
少年は物珍しそうに自動車の中を見ていた。
自動車が普及し始めてからそう年代は経っていない。もしかしたら初めて乗るのかもしれない。
[ここに来るのは、お姉さんは知っているのか]
「知らない、言わなかったから、一つ聞いていい、あの人は姉さんに興味を持っている?」
「持ってない」
それは断言できた。ほかの男に斡旋しようとするぐらいだ。
「そう、ならいいや」
一応レイシック卿の自宅の住所くらいはそらんじている。家に戻れば心配そうな顔をした美人熟女が待っていた。
ジャックの軍服を胡乱な眼で見ていたのは状況を考えれば無理はない。
「ねえ、お願いがあるんですが」
アーサーはそう言って紙きれをジャックの手に押し込んだ。電話番号が書いてある。
「そちらの電話番号もください」
「悪いが俺は寮暮らしなんだ、電話はいちいち履歴に残っちまうぞ」
事実だ、寮では誰がいつだれと電話してきたかいちいち記録に残す。
「かまいません、いざという時のためです」
どうやらサンダース大佐相手の伝手認定されたらしい。同情が顔に出ていたのだろうか。
ジャックは寮の電話番号と部屋の番号を渡した、その上で緊急を要しないなら手紙のほうが機密を保てると教えてやった。
そして自動車に乗り込む。あの少年は姉の計画をどの程度知っているのだろうと運転しながら考えていた。
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