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うう、選びたくねえ

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 いかにも軽蔑するような、見下すような、というあからさまなあきれ返った視線をボルト准尉はジャックに送った。
「今まで気がついてなかったんか?」
 本気で気が付いていなかった。自分がサンダース大佐の冤罪?を晴らす唯一の証人だったなんて。
「だってあれ、自業自得じゃねえのか」
「まったくもってその通りだ」
 ボルト准尉はそれには同意した。
「だがな、自業自得で冤罪に放り込まれって、冤罪は冤罪なんだよ」
 そもそもがあんな男を夫婦間に介在させた時点でサンダース大佐の非は明らかだ。
「これ読んでおけ」
 それはある事件を報じた新聞の切り抜きだった。お定まりの三角関係のもつれによる犯罪だ。
 ライバルに当たる女性を金を払って複数の男に婦女暴行をするよう依頼した女が逮捕されたという。
 判決は懲役五年。
 くたばれ二股男、結局このバカ野郎のせいで、二人の女が破滅した。
 懲役五年は被害女性ががっつり婦女暴行されたことと、複数に依頼したという悪質性が考慮されたかららしい。
 だからおそらく、サンダース大佐はこれよりは軽い罪になる。
「不倫は民法の範疇だが、婦女暴行教唆はきっちり刑法だ。それくらい知っとこうな軍人なら」
 ボルト准尉の眼はあくまで冷たい。
 そしてそれに関しては言い返す言葉を持たないジャックはひょろ長い身体を縮こまらせてうなだれるしかなかった。
「やっぱり刑法で起訴されたら」
「当たり前だが、有罪だろうが、無罪だろうが軍は首、そんな不名誉な罪状で起訴されること自体が軍の威信を傷つけたって理由でね」
 そしてサンダース大佐が軍を不名誉除隊になった場合をシュミレーションしてみた。それほど面白い事態にはならなかった。
 いや、案外事態は悪化してないかと思われた。
 サンダース大佐は人格にどれほど問題があろうとも、有能で仕事に関しては話がわかる上官なのだ。
 そしてジャックが証言した場合、ミュゲはどうなるのか。
 もともとの非がサンダース大佐にあったとしても、ミュゲも無傷では済まされないかもしれない。
 いや、サンダース大佐がミュゲを許すとも思えない。もともと自分が悪いのを棚にあげてミュゲに対して報復を試みるかもしれない。
 もともとレイシック卿の不始末と言うかりがあるのだ、そのことも踏まえてミュゲはつらい立場に立たされることは確実だ。
 サンダース大佐を助ければ、軍の自分の立場は現状維持、悪化しない。助けなければ、サンダース大佐よりましな上官に当たる確率はそれほど高くない。下手すればそれは命にかかわる。
 そしてサンダース大佐を助けて、ミュゲを見捨てることになるのか。
 性格最悪の腐れ上官を助けるために、少々?問題はあるが、弟や家族思いの可哀想な少女を追い落とさなければならないのか。
 はっきり言えば、がけっぷちでサンダース大佐とミュゲが落ちそうになっていたら、自分は確実にミュゲを助けると思う。
 だが現状サンダース大佐を助ける方向に自分の思考は入って行っている。
「選びたくないけど、選ばなきゃならないのか」
「そうだな、ミュゲ嬢かサンダース大佐をな」
 きわめて選びたくない選択肢だった。
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