ある横柄な上官を持った直属下士官の上官並びにその妻観察日記

karon

文字の大きさ
37 / 37

さてこれからどうしよう

しおりを挟む
 ミュゲはどの道さっさと出て行くつもりだったので、最低限の荷物しか解いていない。
 その荷物をまとめればこのまますぐに出ていける。
 箱詰めした荷物に縄をかけ終えると軽く額の汗をぬぐう。
 思った以上にトラブル続きだったがようやく終わった。
 妙なことにならないようにと、叔母も来てくれている。そして、弟達と雇われた運送業者がほぼ荷ほどきされていない荷物を運び出している。
 サンダース大佐がいつの間にか戻ってきていた。
「どうしても出ていくつもりか」
「最初からそのつもり」
「どうして何も最初からその予定だったけど」
 おとなしい人形のような少女から吐き出される言葉はどこかふてぶてしい。
「どうして何も言わなかった」
「は?あんた馬鹿?」
 どこか蓮っ葉なしぐさでミュゲは腕を組む。
「最初っから使い捨てるつもりの駒に事細かに事情を放すわけないでしょ」
 清楚で可憐な様子を裏切る猛毒。
 その外見通りにふるまえばたいがいの男はだませるだろう。そう考えれば得な外見に生まれたものだと思う。
「戻ってくる気はないのか」
「ない」
「心を改める、君だけを大切にするといっても」
「ごめんなさい、利用価値のない貴方にはこれっぽっ血の魅力も感じないの、それにそんな態度をとって、慰謝料を踏み倒そうっていうんならそうはさせない、弟達のためにもね」
 紫の瞳はきらきらと剣呑な光を放っている。
 あの時、この彼女に出会っていたならばとサンダース大佐はどこか悔しいような気持ちを覚えた。
「それにこれから大変でしょう」
 ミュゲは取れる限りの慰謝料をサンダース大佐の愛人たちからせしめている。
 そして、サンダース大佐はその愛人たちの夫や父親から、相殺慰謝料を請求されているのだ。
 つまり慰謝料の二重払い。
 その金額は彼の稼ぎをもってしても莫大なものとなった。
 当分はその支払いにきゅうきゅうする羽目になるだろう。
「あんたと苦労するなんてまっぴら」
 この場で力ずくで言うことをきかせることもできない。ミュゲは常に用心して決して一人になる隙を作らない。
 見事な警戒態勢だ。
 結局取りつくしまもなく。ミュゲ達は荷物をまとめて出て行った。

 そんなサンダース大佐は目撃してしまった。
 サンダース大佐に目撃されているとも知らず、ジャックがミュゲと向き合っている。
「よく考えたら、いろいろお世話になった気がして」
 そう言ってミュゲは微笑む。
「ああ、でもま、巡り合わせな気もするし」
 ジャックはポリポリと頭の側面をかいてみた。
「でも、ありがとう、あの時あのレベルまで落ちたいのかって言われたとき眼が覚める思いでした。やっぱり多少のお金じゃ魂は売れないです」
 はは、とジャックは乾いた笑いをこぼす。
「それじゃ、ちょっと質問があります」
「質問?」
「女性が働くことに異議がありますか?」
「ないけど」
「高収入の女性に問題があると思いますか?」
「本人の才覚ならそれでいいんじゃないか」
「離婚歴のある女性に問題を感じますか?」
 ここまで言われてジャックもミュゲが何を言おうとしているのか薄々察した。
 ミュゲはちょっとはにかんだ笑顔を浮かべている。
 どうやら彼女に興味をもたれたらしい。
 そして日いやりとした冷たさを首筋に感じた。誰かが銃口を自分に向けている。
 さてどうしたものかと思いながら、ジャックは言葉を探した。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

緋乃 ユウ
2016.06.30 緋乃 ユウ

面白い。

2016.07.01 karon

ありがとうございます。

解除

あなたにおすすめの小説

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~

紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。 「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。 だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。 誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。 愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!

ariya
ファンタジー
誰にも食べられずゴミ箱に捨てられた「おからクッキー」は、異世界で150kgの絶望令嬢・ロザリンドと出会う。 転生チートを武器に、88kgの減量を導く! 婚約破棄され「豚令嬢」と罵られたロザリンドは、 クッキーの叱咤と分裂で空腹を乗り越え、 薔薇のように美しく咲き変わる。 舞踏会での王太子へのスカッとする一撃、 父との涙の再会、 そして最後の別れ―― 「僕を食べてくれて、ありがとう」 捨てられた一枚が紡いだ、奇跡のダイエット革命! ※カクヨム・小説家になろうでも同時掲載中 ※表紙イラストはAIに作成していただきました。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。