陰と陽の物語

karon

文字の大きさ
4 / 8

トンネルを抜けると

しおりを挟む
 ゆっくりと揺れながら走る電車は巨大なゆりかごだ。
 瞼がゆっくりと閉じていき周囲の音が遠くなっていく。
 トンネルを抜けるとそこは雪国だった。そんな言葉を思い出す。
 だけど変だな。トンネルを入る前だってそこは冬の国だったはずだ。
 北海道と九州だったら北海道が冬の時九州は秋だろうけれどそんな長いトンネルがあるかしら。
 そんな僕のぎりぎり開いていた目に今まさにトンネルに入ろうとするのが窓から見えた。
 そしてコトンと僕の身体が傾いて僕はそのまま電車の椅子に倒れてしまう。窓の外が真っ暗で僕の頭の中も真っ暗になった。
 ごとごとと電車の揺れる音が今度は僕の目を覚まさせた。いつもの間にか僕の前に知らない人が座っていた。
 着物を着た髪をきっちりとまとめ上げた女の人。
 こんな格好をした人なんてお正月くらいしかない。
 そして変なことに気が付いた。さっきまで僕が持たれていた肘置きはプラスチックだったはずなんだけど、今は木でできている。
 僕はしばらく目を瞬いていた。
 窓の向こうは真っ暗だ。まだトンネルを抜けていないんだろうか。
 僕はゆっくりと起き上がった。
 女の人は僕を見ていない。
「ああ、きれいな景色ですね」
 女の人はそう言って窓を見た。
 真っ黒だった窓はいつの間にか真っ白な花が咲き乱れている平原が見える。
 奇麗だなと思った。だけど、今は春じゃないのに。
 花を見ていた女の人はすっと立ち上がる。そしてそのまままっすぐ歩いていく。
 そしていつまでも終わらない花の平原。
 ここはどこだろう。さっきまでの女の人は帰ってくる様子がない。
 そして、黒づくめのタキシードを着た男の人が女の人の歩いて行った方向から反対に歩いてきた。
「実に雄大だ」
 窓の向こうは一面花畑なのにそんなことを言う。
 僕は窓を見た、いつの間にか花畑は消えて紺青の海。
 大きな波が打ち寄せては返す。
 白い泡がふわふわと揺れた。さっきまでは春霞のような柔らかな空の色もくっきりと鮮やかな蒼だ。
 そして来る人来る人が窓をのぞき込んで感想を言う。それはお爺さんだったりお婆さんだったり小さな子供だったりもした。
 そしてその通りに窓が変化する。 巨大な山や、色とりどりの紅葉が、そして緑の森の中だった。
 僕はその風景をずうっと見ていた。
「ねえ、ぼうや、君はどう思う」
 いつの間にか最初の女の人が戻ってきて。僕に窓の風景をたずねる。

 その女の人だけでなくタキシードを着た男の人、お爺さんおばあさん小さな女の子。
「さあ教えて?」
 僕は言葉に詰まるそして窓を見た。真っ白だった。
 まぶしい光に僕は目を瞬かせた。
 僕は窓を見た。真っ白なままだった。
 僕が持たれていたひじ掛けはプラスチックに戻っている。そして窓はびっしりと雪は張り付いて外の風景も見えなかった。光が乱反射してとてもまぶしい。
 アナウンスが聞こえてくる。もうすぐ降りる駅だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

キモおじさんの正体は…

クラッベ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生し、ヒロインとなったナディア。 彼女はゲーム通りにいかない悪役令嬢のビビアンに濡れ衣を着せ、断罪イベントの発生を成功させる。 その後の悪役令嬢の末路は、ゲーム通りでは気持ち悪いおっさんに売られていくのを知っているナディアは、ざまぁみろと心の中で嘲笑っていた。 だけどこの時、この幸せが終わりを迎えることになるとは、ナディアは思っても見なかったのだ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

もしもゲーム通りになってたら?

クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら? 全てがゲーム通りに進んだとしたら? 果たしてヒロインは幸せになれるのか ※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。 ※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。 ※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。 ※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。

処理中です...