愛は泡沫 (完結)

karon

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侍女 戦いの記憶 2

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 風花は戦ったのだそうだ。狭い路地に敵をおびき寄せて袋叩きにしたり、屋根の上に登って石を敵に投げ落としたりして。
「最初に襲撃された地区の人達は、本当に惨たらしい殺され方をしたんだよ。だからその恐怖と恨み、そしてあの人についていこうと思ったから」
 あの人とは戦えと檄を飛ばしまた本人も一番危険な場所で戦うことを選んだ戦闘指導者だという。
 清秋は佶のドラ息子だと思っていたようだが多分別人であり、佶の息子の不倶戴天の天敵だろうとあたりをつけた。
「それってやっぱり」
「別の自警団の頭だったよ」
 風花とあたしは顔を近づけて確認した。
「佶の家の連中が逃げる前日、言うこと聞くなら連れて行ってやると交渉したんだけど殴り倒されて終わったわ」
「そうなんだ、でもなんで連れて行くって」
「貴族出身で美人だったからじゃない?」
 思考がいきなり停止した。
「あの、まさか貴族の妾になった落ちぶれ貴族の娘って」
「ああ、父親が下級役人でね、下級役人は平民でもなれるから、貴族が下級役人しているって珍しいよね、なんかやらかして左遷されたらしいよ」
 命が危うい場面でも殴り倒して拒否されるほど嫌われていたわけか。
 いや、市民率いて反乱軍と戦うってその貴族の娘、いったい何者なんだ。
「反乱軍の頭目を始末したまではいいんだけど足を痛めてね、それで妾の話に乗ったんだって」
 おそらく妾にした人物はそんな凶状持ちとは知らなかったんだろう。知らないって幸せというべきか怖いというべきか。
「そのあとだったけど、皇帝直属の役人が来てね、その自警団の人を引っ張って行っちゃったけど、まさか女が混じっているとは思わなかったみたいでそのまま残ってたの」
 だけど佶家の息子が帰ってきたんで、足を悪くしたんで叩きのめせないし、それで遠縁の親戚からの紹介の妾話にかこつけて逃げたともいえるか」
 まあ気持ちはわかる。
「ちょっと待てよ、お前らが自警団ならあの人を見捨てるのか」
 清秋がそう口にしたところを見るとやはりあたし達の話は聞こえていなかったようだ。
「そんなことないわ、あたしたちは仲間を見捨てない、それにさっき遠くに旅立つ仲間を見送ってきたのよ」
「そうなんだ、遠くに旅立ったの」
「ええとても遠くにね」
 それで誤解したのか清秋はうつむいて黙った。
「その人たちはどこに」
 こっそり聞いてみた。
「東に向かったわ」
 聞いた話ではあの男が贈られるのは北だ。
 だけどあたしは適当に話を合わせた。このまま騙されてくれれば静かでいい。
「あ、そろそろお鍋を見なきゃ」
 そう言って風花がパタパタと駆けて行く。扉の向こうから何やら美味しそうな匂いが漂ってきた。かなり長時間飲まず食わずだったことを思い出し、思い出した途端お腹が鳴った。
 扉の向こうからお嬢様と勒婦人が現れる。
「お嬢様、お食事だそうです」
 お嬢様はずっと怪訝そうな顔をしている。
「貴女も大変ね」
 ああ、察した。さぞや頓珍漢な会話を繰り広げる羽目になったんだろう。あとでどういう話になったのか聞いておかなくちゃ。


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