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その男と会ったのはとある展覧会。とある有名な画家の絵なんぞを見るともなしに見ていた。
いつの間にか横に立っていた男が、そっと話し出した。
「モチーフとしてここに犬が書かれているんだ、犬は忠誠の象徴、そこから貞節の証さ、だから貞淑な人妻であることを印象付けるために犬がここにいるんだ」
とうとうと絵の解釈を教えてくれた。
「ありがとう」
親切に解説してくれたのだから礼をするべきだろう。そう思って一度頭を下げた。
「興味あるなら、もう少し話さないか?」
その男とそのまま展覧会の喫茶室で割り勘でお茶を飲むことになったのは成り行きだったと言っていたが、どう考えてもナンパだ。
いわゆる美術館や博物館なんかで獲物を探し、いかにも博識そうな顔をしてひっかけていたらしい。
大学で学んだことを女をひっかけることだけに使うとは不届き極まりない。
そこで初めて気が付いた。
「犬ってのはそういう意味か?、描かれている女のキャラ付けみたいなもんで」
「そして猿は不実、だから猿と一緒に書かれているのは娼婦かお妾さんなんだって言ってたよ」
なるほどねえ、しかし俺たち日本人なら、それは普通に犬好きだと思ってしまうわ。
「それを知っているかどうかで鑑賞の幅が広がるって色々教えてくれたんだよね、例えば松竹梅だって、日本人ならわかるけど外国の人にはただの植物画に過ぎないとも言ってたな」
なるほど、為になるような気はするが、それ以上はわからない。
「要するに描かれているものをアイコンと考え、それを象徴するものを探すみたいなものよね、いわゆるひと昔はそれが知的ゲームだと言っていたような言ってないような」
「ああ、そこまで聞いたらいいわ」
その内容にちょっと引っかかるものがあった。
「つまり、犬は誠猿は嘘の象徴ってことなら、鏡や扇にもそれを象徴するものがあるはずだな」
「どういうこと?」
姉貴はきょとんとした顔をした。
「犯人はきっちりとどめを刺してから出て言った感じだ、だとすれば、だ、例えばあんたが人を殺したとしよう」
「殺してないと言ったでしょう」
「たとえだ、たとえ、殺したとする。そして気が付く、死体が蝶の絵の付いたものを握っている」
「あんたあたしを犯人にしたいの、したくないの?」
「だからあんたならどうするんだって、蝶の絵の付いた扇、一度も見たことなかったのか?」
「結構目に付く場所に飾ってあったけど」
いい加減この女の巡りの悪いのにいらいらしてきた。
「ああ、そうか、その蝶の絵の付いた扇、私なら処分したはずだって言いたいわけか」
「そういうこと、鏡と蝶と扇、それはそれ自体を表すものじゃなくて、それを象徴するものを指したんだ。犯人はそれが自分を示すものだとわからなかった。だからそれをそのまま残した」
「すごいじゃない、あんた、それじゃどうなるの」
「それはこれから調べるんだ」
姉貴の表情が能面になった。
いつの間にか横に立っていた男が、そっと話し出した。
「モチーフとしてここに犬が書かれているんだ、犬は忠誠の象徴、そこから貞節の証さ、だから貞淑な人妻であることを印象付けるために犬がここにいるんだ」
とうとうと絵の解釈を教えてくれた。
「ありがとう」
親切に解説してくれたのだから礼をするべきだろう。そう思って一度頭を下げた。
「興味あるなら、もう少し話さないか?」
その男とそのまま展覧会の喫茶室で割り勘でお茶を飲むことになったのは成り行きだったと言っていたが、どう考えてもナンパだ。
いわゆる美術館や博物館なんかで獲物を探し、いかにも博識そうな顔をしてひっかけていたらしい。
大学で学んだことを女をひっかけることだけに使うとは不届き極まりない。
そこで初めて気が付いた。
「犬ってのはそういう意味か?、描かれている女のキャラ付けみたいなもんで」
「そして猿は不実、だから猿と一緒に書かれているのは娼婦かお妾さんなんだって言ってたよ」
なるほどねえ、しかし俺たち日本人なら、それは普通に犬好きだと思ってしまうわ。
「それを知っているかどうかで鑑賞の幅が広がるって色々教えてくれたんだよね、例えば松竹梅だって、日本人ならわかるけど外国の人にはただの植物画に過ぎないとも言ってたな」
なるほど、為になるような気はするが、それ以上はわからない。
「要するに描かれているものをアイコンと考え、それを象徴するものを探すみたいなものよね、いわゆるひと昔はそれが知的ゲームだと言っていたような言ってないような」
「ああ、そこまで聞いたらいいわ」
その内容にちょっと引っかかるものがあった。
「つまり、犬は誠猿は嘘の象徴ってことなら、鏡や扇にもそれを象徴するものがあるはずだな」
「どういうこと?」
姉貴はきょとんとした顔をした。
「犯人はきっちりとどめを刺してから出て言った感じだ、だとすれば、だ、例えばあんたが人を殺したとしよう」
「殺してないと言ったでしょう」
「たとえだ、たとえ、殺したとする。そして気が付く、死体が蝶の絵の付いたものを握っている」
「あんたあたしを犯人にしたいの、したくないの?」
「だからあんたならどうするんだって、蝶の絵の付いた扇、一度も見たことなかったのか?」
「結構目に付く場所に飾ってあったけど」
いい加減この女の巡りの悪いのにいらいらしてきた。
「ああ、そうか、その蝶の絵の付いた扇、私なら処分したはずだって言いたいわけか」
「そういうこと、鏡と蝶と扇、それはそれ自体を表すものじゃなくて、それを象徴するものを指したんだ。犯人はそれが自分を示すものだとわからなかった。だからそれをそのまま残した」
「すごいじゃない、あんた、それじゃどうなるの」
「それはこれから調べるんだ」
姉貴の表情が能面になった。
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