パンデミック

karon

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死線

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 呉羽は田中さんに肩を貸して病院に入った。
「急患です」
 受付でそう申し出たが、保険証がない。
「田中さん、保険証は?」
 朦朧とした状態ながらなんとか答えた、保険証は家だ。
 田中さんの家は夫婦とその間の息子の三人暮らしだというので、電話すれば保険証ぐらいは持ってきてもらえるはずだ。
 ホテルの電話番号はスマホの履歴に残っていたので、田中さんを待合室において、病院の外でホテルに電話しようと思った呉羽は玄関で鼻にでかい膏薬を貼った男と出くわした。
 一瞬戸惑ったが、この病院が外科もやっているということを思い出した。まさかここで普通に病院に来るとは思わなかった。
 よりによって運が悪いと思ったが手の中のスマホには防犯ベルのアプリが入っていた。とっさに操作しようとしたところでスマホを叩き落された。
 いくら何でも銃は取り出さないだろうと思うが、男の体格からすれば呉羽を片手で締め落とせる。
 ダラダラと冷や汗をかいてその場に立ち尽くしていた。
 こんなことなら、佐藤さんとホームセンターにでもついて行けばよかった。
 後悔後に立たずだった。
 思いっきり頭を殴られた衝撃で呉羽は意識を失った。

 呉羽が目を開けたとき見慣れない天井が見えた。
 周囲はビジネスホテルの部屋と同じくらいの広さだったが、明らかに内装が違っていた。
 起き上がると物凄い眩暈に襲われて再び枕に倒れこんでしまった。
 もしかして、あの男は現行犯逮捕されて、自分は病院に収容されたのではないだろうかと笑っちゃうぐらい楽観的な考えが浮かんだ。
 しかし、明らかに病院お仕着せの寝間着姿で立ち上がりナースコールを探したがどこにもない、そしてよろけながら扉を開けようとしたが鍵がかかってあかない。
 今呉羽は軟禁されているという状況に思わず息をのんだ。
 そして腕にかすかな違和感を感じた。
 肘の内側に、針で突いたほどの跡が残っている。
 「注射?」
 呉羽は病人の付き添いでここに来たはずだ、殴られたけれど注射されるようなことはないはず。
 大きめの窓があるのでそこから外に出られないかと見てみたが窓は羽目殺しで、下を見れば最低でも三階以上の高さだ。
 足場はもちろんない。
 訳も分からず、呉羽はその場にへたり込んだ。

 その時呉羽は知らなかったが、呉羽の知らない誰かが話をしていた。
「結局あの女の背後関係ははっきりしなかった」
 呉羽をとらえた男が呟く。
「まあいい、実験体は多ければ多いほどだ」
「あのウィルスをあの量投与すれば三日以内に発病する」
「発病から死亡まできっちり経過観察するさ」
「そう、死人に口なしだ」
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