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目的地到着
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アリサは船の旅をようやく終えた。船を降りると馬車が用意されている。アリサが来る途中で載せてもらった荷馬車のように粗末ではなく。迎えに来たミリエルの用意した馬車ほど豪華でもない飾り気のない実用本位な。
真っ黒な塗料で塗られた実用本位な武骨な馬車。その持ち主がこれからアリサの雇い主になる人物だという。
アリサはおさげを揺らしながら馬車に乗り込む。
ちらりと背後を見ると、付き添いの男はアリサから離れた場所で様子をうかがっていた。
「どうしたねお嬢さん」
「ずっと船の中だったから、揺れない地面では歩きにくいの、すぐに慣れると思う」
アリサはサン・シモン古語を話せる。だが日常で使う言葉ではないのでどうしても語彙が平板だ。
丁寧な口の利き方などできない。
「私の喋り方はあまり丁寧じゃない、旦那さん奥さんに失礼じゃないかと心配だ」
「まあ、そのあたりは旦那様は気になさらないと思うが、来客が来たら極力顔を合わせないようにした方がいいな」
「はい」
アリサの発音がおかしいのかそれとも国が違うための誤差なのかそれはわからないが、話していて違和感を感じる。
馬車の窓から外を見た。
それなりに栄えている港町なんだろうなという推測は立つ。
着ているものは貧富の差はあれど極端に貧しそうなものはいない。荷物を運ぶ人足たちもたくさんいる。
「これからまだ遠いからな」
「え?この国で仕事をするんじゃ?」
思わず漏れてしまったアリサの声に御者は気の毒そうな顔をする。
「馬車でこれから三日行ったところだよ」
なんでメイドを雇うのにそんな手間をかけるんだろう。
馬車の音と前後して離れた場所を馬の足音が聞こえた。
後をつけているのか。なんでアリサのような小娘が選ばれたのか。もちろん怪しまれにくいからとは言われたが、初仕事がこれはちょっと荷が重いのではないだろうか。
サフラン商会はこの大陸にはあまりコネクションを持っていない。だから新たにここに作ろうというならアリサのような未熟者こそ排除すべきではないかと思う。
本当にじらされてようやく仕事場についた。
サン・シモンの貴族なら中堅どころと思われる規模のお屋敷。だがどうしてこんな奥まった森の中にあるのだろう。
通ってくる人も大変だろうに。
アリサの実家はここから一月はかかろうかという遠隔地なので住み込みが決まっているが。
建物が黒っぽいのは壁に使われている岩石の色だろうか。本当に何もかもが黒っぽい。
黒檀製と思われる重厚な扉を開けて玄関に入るとさすがに内側は黒づくめではなく。壁には色鮮やかなタペストリーがかけられている。主の部屋に挨拶に向かうそこに黒づくめの男がいた。
「アリサと申します」
道中御者に何度も発音を直された挨拶をまずした。
男は黒髪に黒い瞳、そして軍人かと思うくらいの高身長で厚みのある体格をしていた。
着ているものは黒い絹の服。光沢のある絹と黒髪が解けてあってまるで一体化しているかのよう。
きつい目元の美男子ではあるが、おそらくアリサの父親より少し若いくらいだろう。引き結んだ唇は頑固さを表している気がした。
「お前は、武術の心得があるという話だが」
「はい、あります。私の家は高貴な方にお仕えすることが多くそのため武術を学んでいることが必須なのです」
実際幼いころから軍事教練は受けていた。
「お前は妻付きの小間使いだ、これから妻のところに行け」
わかりました。
貴婦人に使える場合と教えられた所作で一礼する。この国では正しかったろうかとやってしまった後で後悔するが、それ以外の所作をアリサは知らない。
「それでは奥さまのところに」
主と同じくらいの年頃の茶色い髪と瞳。もっともありふれた色を持つ男が立っていた。
おそらく執事なんだろうとアリサは見当をつける。
なんだかいろいろとありそうだな。
いかにも偏屈そうな主を思ってアリサはため息をついた。
真っ黒な塗料で塗られた実用本位な武骨な馬車。その持ち主がこれからアリサの雇い主になる人物だという。
アリサはおさげを揺らしながら馬車に乗り込む。
ちらりと背後を見ると、付き添いの男はアリサから離れた場所で様子をうかがっていた。
「どうしたねお嬢さん」
「ずっと船の中だったから、揺れない地面では歩きにくいの、すぐに慣れると思う」
アリサはサン・シモン古語を話せる。だが日常で使う言葉ではないのでどうしても語彙が平板だ。
丁寧な口の利き方などできない。
「私の喋り方はあまり丁寧じゃない、旦那さん奥さんに失礼じゃないかと心配だ」
「まあ、そのあたりは旦那様は気になさらないと思うが、来客が来たら極力顔を合わせないようにした方がいいな」
「はい」
アリサの発音がおかしいのかそれとも国が違うための誤差なのかそれはわからないが、話していて違和感を感じる。
馬車の窓から外を見た。
それなりに栄えている港町なんだろうなという推測は立つ。
着ているものは貧富の差はあれど極端に貧しそうなものはいない。荷物を運ぶ人足たちもたくさんいる。
「これからまだ遠いからな」
「え?この国で仕事をするんじゃ?」
思わず漏れてしまったアリサの声に御者は気の毒そうな顔をする。
「馬車でこれから三日行ったところだよ」
なんでメイドを雇うのにそんな手間をかけるんだろう。
馬車の音と前後して離れた場所を馬の足音が聞こえた。
後をつけているのか。なんでアリサのような小娘が選ばれたのか。もちろん怪しまれにくいからとは言われたが、初仕事がこれはちょっと荷が重いのではないだろうか。
サフラン商会はこの大陸にはあまりコネクションを持っていない。だから新たにここに作ろうというならアリサのような未熟者こそ排除すべきではないかと思う。
本当にじらされてようやく仕事場についた。
サン・シモンの貴族なら中堅どころと思われる規模のお屋敷。だがどうしてこんな奥まった森の中にあるのだろう。
通ってくる人も大変だろうに。
アリサの実家はここから一月はかかろうかという遠隔地なので住み込みが決まっているが。
建物が黒っぽいのは壁に使われている岩石の色だろうか。本当に何もかもが黒っぽい。
黒檀製と思われる重厚な扉を開けて玄関に入るとさすがに内側は黒づくめではなく。壁には色鮮やかなタペストリーがかけられている。主の部屋に挨拶に向かうそこに黒づくめの男がいた。
「アリサと申します」
道中御者に何度も発音を直された挨拶をまずした。
男は黒髪に黒い瞳、そして軍人かと思うくらいの高身長で厚みのある体格をしていた。
着ているものは黒い絹の服。光沢のある絹と黒髪が解けてあってまるで一体化しているかのよう。
きつい目元の美男子ではあるが、おそらくアリサの父親より少し若いくらいだろう。引き結んだ唇は頑固さを表している気がした。
「お前は、武術の心得があるという話だが」
「はい、あります。私の家は高貴な方にお仕えすることが多くそのため武術を学んでいることが必須なのです」
実際幼いころから軍事教練は受けていた。
「お前は妻付きの小間使いだ、これから妻のところに行け」
わかりました。
貴婦人に使える場合と教えられた所作で一礼する。この国では正しかったろうかとやってしまった後で後悔するが、それ以外の所作をアリサは知らない。
「それでは奥さまのところに」
主と同じくらいの年頃の茶色い髪と瞳。もっともありふれた色を持つ男が立っていた。
おそらく執事なんだろうとアリサは見当をつける。
なんだかいろいろとありそうだな。
いかにも偏屈そうな主を思ってアリサはため息をついた。
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