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第三幕 追憶
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私が生まれ変わって十年もたっていない時だった。
この世界にも元いた世界の様に四季がある。気候は私の記憶とそれほど変わらなかった。
幼かった私は、初めて冬の宗教的な催しとやらに連れていかれることになった。
この世界の宗教はキリスト教に似ているような似ていないような、いまだに判断がつかない。
似ている部分は守護聖人という概念があるということだ。
そういう守護聖人様の聖なる日を祝うための催しが、月一くらいにある。
上等な衣装に毛皮のコートを着せられた。
多分私の親の身分は貴族みたいなもんなんだろうと薄々思っていた。
当時は薄々だが今ははっきりとわかっている。
いかにも上流階級といった装いで、我が家の馬車。この世界では自動車というものがなく馬車が一般的な交通手段だ。
列車に使うような動力を小型化する技術がないんだろうと思われる。
馬車に乗って実に緻密な彫刻で覆われた豪勢な聖廟に連れてこられた。
前世ならドラマのようだと思った。
そこではオーケストラに見えるものが音楽を奉納するという名目で大きなステージに陣取っていた。
私はキリスト教なら十字架のあるあたりを、実際は二重丸のシンボルが書かれていた。見つめて手を祈りの形に結んでいた。
オーケストラに見えるものは、見覚えのあるような楽器と、見たことのない楽器が採り交ぜてあった。
まあ笛なんかそう形は変わらないだろう。
そう思いつつ祈っていたら演奏が始まった。
なんだか勇壮な音楽だと最初は思った。
しかしイントロを聞いているうちになんだか聞き覚えがあるような。
そして演奏が本格的に始まったとき、私は椅子から転げ落ちた。
演奏されていたのは、アニソンだった。
その時、私はパクパクと口を開けたり締めたりしていたらしい。
演奏だけしか聞こえなかったはずなのに、私の耳は確かにあのアニソンの歌が聞こえた。
その時私はパニック状態になっていたらしい。
ちょっとひと昔のヨーロッパの貴族の娘のような生活をしていたのに、聞こえてきた懐メロ系のアニソン。
その非現実感に打ちのめされていた。
曲自体はちょっと勇壮かつ重厚なので、聖廟でも違和感を家族は感じていないようだが、私は床に座り込んだままあり得ないありえないありえないとぶつぶつ呟いていた。
私の狂態を見ていた家族はただ戸惑っていたが、その宗教団体の偉い人らしい人は私の様子を別の視点で見ていた。
「そのまま私は別室に連れていかれ、いきなり聞かれたのだ。
「転生者か」
驚きすぎると、リアクションがなかなか取れない。
私はただ淡々とそうだと頷いた。
同じように転生者だという母親より若い女性が、私にこの世界で転生者がどのように扱われているか説明してもらった。
うちは必要がないが、場合によっては補助なども出るらしい。
どうも、人の集まる場所で、転生者からもたらされた曲を奏で、反応を見るというのが定期的に行われていたらしい。
私は見事にそれに引っかかったというわけだ。
その選曲は様々で、クラッシックありジャズやポップスや演歌、私が引っかかったアニソンは特に聞き分ける転生者が多いらしい。
むろん、転生者が元いた世界の曲をすべて知っているわけがないので確実に知っている曲を探すのは一苦労なのだとか。
M・ジ〇クソンあたりは昔は食いつきがよかったらしい。ビートルズもまあまあ、しかしアニソンはかなりの確率で引っかかるらしい。
そして、歌を歌えと言われたのが私の中では一番の黒歴史だ。
どっかの偉い人が証明がほしいと言い出したのだ。曲だけでなく歌もあるというのは転生者とそれを管理する側しか知らないことなのだとか。
私は子供であるが成人女性の意識も持っている。子供であればアニソン熱唱は恥ではないが、すがるような私の視線を転生者だという女性はふいっと目をそらす形で答えた。
宇宙戦艦ヤ〇トを熱唱する羽目になったのはこの命尽きるまで、決して消えない忌まわしい思い出だ。
この世界にも元いた世界の様に四季がある。気候は私の記憶とそれほど変わらなかった。
幼かった私は、初めて冬の宗教的な催しとやらに連れていかれることになった。
この世界の宗教はキリスト教に似ているような似ていないような、いまだに判断がつかない。
似ている部分は守護聖人という概念があるということだ。
そういう守護聖人様の聖なる日を祝うための催しが、月一くらいにある。
上等な衣装に毛皮のコートを着せられた。
多分私の親の身分は貴族みたいなもんなんだろうと薄々思っていた。
当時は薄々だが今ははっきりとわかっている。
いかにも上流階級といった装いで、我が家の馬車。この世界では自動車というものがなく馬車が一般的な交通手段だ。
列車に使うような動力を小型化する技術がないんだろうと思われる。
馬車に乗って実に緻密な彫刻で覆われた豪勢な聖廟に連れてこられた。
前世ならドラマのようだと思った。
そこではオーケストラに見えるものが音楽を奉納するという名目で大きなステージに陣取っていた。
私はキリスト教なら十字架のあるあたりを、実際は二重丸のシンボルが書かれていた。見つめて手を祈りの形に結んでいた。
オーケストラに見えるものは、見覚えのあるような楽器と、見たことのない楽器が採り交ぜてあった。
まあ笛なんかそう形は変わらないだろう。
そう思いつつ祈っていたら演奏が始まった。
なんだか勇壮な音楽だと最初は思った。
しかしイントロを聞いているうちになんだか聞き覚えがあるような。
そして演奏が本格的に始まったとき、私は椅子から転げ落ちた。
演奏されていたのは、アニソンだった。
その時、私はパクパクと口を開けたり締めたりしていたらしい。
演奏だけしか聞こえなかったはずなのに、私の耳は確かにあのアニソンの歌が聞こえた。
その時私はパニック状態になっていたらしい。
ちょっとひと昔のヨーロッパの貴族の娘のような生活をしていたのに、聞こえてきた懐メロ系のアニソン。
その非現実感に打ちのめされていた。
曲自体はちょっと勇壮かつ重厚なので、聖廟でも違和感を家族は感じていないようだが、私は床に座り込んだままあり得ないありえないありえないとぶつぶつ呟いていた。
私の狂態を見ていた家族はただ戸惑っていたが、その宗教団体の偉い人らしい人は私の様子を別の視点で見ていた。
「そのまま私は別室に連れていかれ、いきなり聞かれたのだ。
「転生者か」
驚きすぎると、リアクションがなかなか取れない。
私はただ淡々とそうだと頷いた。
同じように転生者だという母親より若い女性が、私にこの世界で転生者がどのように扱われているか説明してもらった。
うちは必要がないが、場合によっては補助なども出るらしい。
どうも、人の集まる場所で、転生者からもたらされた曲を奏で、反応を見るというのが定期的に行われていたらしい。
私は見事にそれに引っかかったというわけだ。
その選曲は様々で、クラッシックありジャズやポップスや演歌、私が引っかかったアニソンは特に聞き分ける転生者が多いらしい。
むろん、転生者が元いた世界の曲をすべて知っているわけがないので確実に知っている曲を探すのは一苦労なのだとか。
M・ジ〇クソンあたりは昔は食いつきがよかったらしい。ビートルズもまあまあ、しかしアニソンはかなりの確率で引っかかるらしい。
そして、歌を歌えと言われたのが私の中では一番の黒歴史だ。
どっかの偉い人が証明がほしいと言い出したのだ。曲だけでなく歌もあるというのは転生者とそれを管理する側しか知らないことなのだとか。
私は子供であるが成人女性の意識も持っている。子供であればアニソン熱唱は恥ではないが、すがるような私の視線を転生者だという女性はふいっと目をそらす形で答えた。
宇宙戦艦ヤ〇トを熱唱する羽目になったのはこの命尽きるまで、決して消えない忌まわしい思い出だ。
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